070 王女
クラウディアが来てから、クラスの中は一変した。
「クラウディア殿下はお強くて、まさしく国を背負う御方に相応しいですわ」
「いえいえ、わたくしなどまだまだ未熟ですわ」
「まあ、ご謙遜を」
「奥ゆかしいところも素敵です!」
クラウディアに群がる女子生徒たち。男子生徒もクラウディアに挨拶する機会を窺っている者が多数居た。
クラウディアが来る前は、その輪の中心に居たのはエレオノーレだったのに……。
今ではバカを除いてエレオノーレに近寄るのは少数だ。
エレオノーレは気難しいタイプだからね。
エレオノーレとは逆にクラウディアはかなり社交的だ。クラウディアの傍には、いつも誰かが居る。
そんなクラウディアが特別扱いをしているのが、なんとオレだ。クラウディアからは愛称を許され、度々個室に呼ばれている。そんな奴は他に居ない。爵位も上がったし、クラウディアの道ならぬ恋のお相手がオレなんて噂が広がるのも道理だな。
まぁ、本当は個室でクラウディアの勉強を見てやっているだけなのだが……。
クラウディアは邪神の呪いに侵され、今までロクに勉強時間が取れなかった。なので、事情を知っているオレをダシにして、なんとか勉強時間を作り、王族として恥ずかしくないだけの成績を取れるように努力しているのだ。
地頭がいいのだろう。クラウディアは少ない勉強時間でトップレベルの成績を維持している。
ちなみに、クラウディアは現在十四歳で、学年で言えば本来はオレたちの二つ上になるらしい。
間違いなく姉妹であるクラウディアとエレオノーレだけど、二人ともあんまり似てないな。
「ディー?」
「ん?」
「お兄さま、クラウディア殿下が呼んでいますよ?」
「なにを黄昏ているの? ちょっと付き合っていただけないかしら?」
「わかった」
たぶんまた勉強の時間を取りたいのだろう。オレは二つ返事で了承した。
「クラウディア殿下、またバウムガルテン子爵ですか?」
「はい。彼はわたくしのお気に入りなの」
「子爵ばかりご寵愛を受けるなんて、ちょっと嫉妬してしまいます」
「ごめんなさいね」
べつにクラウディアに協力するのはかまわないんだが、女子生徒はもちろん、男子生徒もオレを睨んでくるんだよなぁ……。これ、どうにかならない?
「お姉さま」
そのままクラウディアに続いて教室を出ていこうとすると、エレオノーレがクラウディアを呼び止めた。エレオノーレの顔は無表情なのだが、なぜかものすごく怒っているような気配がした。
エレオノーレの後ろには、またエレオノーレを口説いていたのか、リーンハルトの姿も見える。
「お姉さま、誰と親しくするかはお姉さまの自由ですが、さすがに偏りがひどいのでは?」
「あら? エルもバウムガルテン子爵とは特別親しくしているでしょう? 愛称も許しているようですし」
「わたくしは! ただ彼からアドバイスを貰っているだけです」
エレオノーレへの戦闘アドバイスはあれから定期的に続いていた。思えば、エレオノーレが個室に呼ぶのはオレとコルネリアだけだな。
数少ない友人まで姉に奪われそうになって慌てているとか?
「そうなのですか? でも丁度良かった。エルも一緒に来ませんか? わたくしたちが直接話せるのは貴重な機会ではなくて? わたくしたちには相互の理解が足りていない気がするのです」
「それは……。ですが……」
エレオノーレが苦しそうな難しい表情を浮かべた。
エレオノーレにとって、これまで苦しい思いをしてまで演じてきた次期国王という立場。確定していたそれを不安定なものにしたのがクラウディアだ。クラウディアにはいろいろと思うところがあるだろう。
そして、不安定になったのはエレオノーレの立場だけではない。貴族たちの立場もそうだ。
これまで王位を継ぐのはエレオノーレで確定していたのだが、ここにきてクラウディアという選択ができてしまった。
今まで一つに纏まっていた貴族たちが、どちらが王位を継ぐべきかで二分されてしまったのだ。
まぁ、教室での貴族の子どもたちの様子を見ると、クラウディアが優勢のようだが……。どうなるかわからん。
クラウディアはゲームでは存在すら示唆されなかった。王女と言えばエレオノーレのことであり、エレオノーレが次期国王になるのは決定した未来だったのだ。
事実、ゲームのエンディングでは、主人公と結婚したエレオノーレが女王として即位している。
おそらくゲーム世界では、クラウディアは治療されることなく邪神の呪いで命を落としたのだろう。
知らなかったこととはいえ、クラウディアを治療したことで、盤面が複雑になり過ぎてしまった。ゲームで得た知識を活用したくても、ひどく限定的なものになってしまった。
オレとしては邪神との戦いに巻き込まれないように立ち回りたいんだがなぁ……。
「なになに? クラウディア殿下もエレオノーレ殿下もどっか行くの? 俺も連れて行ってよ。楽しい時間にして見せるからさ!」
リーンハルト。オレはお前の能天気が羨ましいよ。
「ご遠慮ください」
「そうね」
「そんな!? またディーと一緒かよ!? どうなってるの!?」
リーンハルトはオレを羨ましそうに見ていた。
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