069 クラウディアと模擬戦
学園の運動場。オレはゆっくりと息を吐いて剣を構えて正面を見つめる。相手はクラウディア。相手にとって不足はない。
オレがこんなに真剣になるのはコルネリア以外ではクラウディアだけだ。クラウディアは、コルネリアに次ぐ強さを持っている。
普段はおっとりとした優雅なクラウディアだが、模擬戦の時ばかりは真剣なのか俊敏に動く。普段とのギャップに驚きだ。
「よろしくおねがいしますね、ディートフリート。胸を借ります」
「こちらこそよろしくおねがいします、クラウディア殿下」
「クラウでよろしくてよ?」
「ですが……」
「エレオノーレのことはエルと呼んでいるのでしょう? わたくしも愛称を許します」
「ありがとうございます。では私のことはディーと」
「普段通り、オレでかまいませんよ? 敬語も不要ですわ」
「わかりました。では……」
「はい。よろしくおねがいします」
クラウディアの得物は槍だ。先手は譲ることになる。やりにくい相手だ。
「では、始め!」
担任のボニファーツの開始の声にオレは一気にクラウディアとの距離を詰める。
「ヘイスト、プロテクション、リジェネーション」
「はぁあ!」
自身を強化しながら突っ込むオレに対してクラウディアが選択したのは薙ぎ払いだ。槍は突くだけが攻撃じゃない。
まるで旋風のような鋭い薙ぎ払い。その高さは丁度オレの腰あたり。伏せて躱すのも飛んで躱すのも難しい絶妙な高さだ。オレは仕方なく前進にブレーキをかけ、後ろへと軽くステップを踏んだ。
ブオンッ!!!
槍が目の前を通過する重たい風切り音が耳を打つ。槍の先端は遠心力も加わってかなりの威力だ。下手に受けるとそのまま致命の一撃を貰うことになる。
オレは目の前を槍の穂先が通過した瞬間、大地を蹴り上げて全力で踏み込む。
バキバキッ!
右足が砕ける音を響かせながら、オレはクラウディアに突っ込んだ。
「ッ!?」
クラウディアが大きく目を見開いた。いくらヘイストがかかっているとはいえ、オレの【アン・リミテッド】を使った速さは尋常のものではない。瞬く暇さえ与えず、オレはクラウディアに肉薄する。
「せあッ!」
狙いはクラウディアの脇腹だ。この高さならば伏せるのも飛び越すのも容易ではない。勝った。
ガコンッ!
しかし、オレの勝ちを確信した斬撃は、クラウディアの槍の柄に止められた。いや、これは――――ッ!
木剣を振るった腕に返ってきたのは、なんとも軽い衝撃だった。
それもそのはず。クラウディアはオレの斬撃を真正面から受けるのではなく、自ら後ろに飛んでいなしたのだ。
しまった! クラウディアとの距離が空いてしまう!
オレの斬撃の力も利用して、クラウディアは大きく後ろに下がる。オレは追いすがろうとするが……ッ!?
ブオンッ!!!
クラウディアは地面に片足を着くと、そのまま一回転した。生まれるのはかなりの勢いが付いた薙ぎ払いだ。まんまと誘い出されてしまった!?
「はあああああッ!」
オレは木剣を持つ右腕に力を籠める。こうなった以上、下手に下がっては槍の穂先に斬り裂かれることになる。回避は間に合わない。槍を受けるしかない。
ガキンッ!!!
迫りくる槍に限界以上の力で下から掬い上げるように振るわれた木剣。右腕は槍を受ける前からもう悲鳴を上げていた。
腕が潰れるのが先か、槍を弾き返すのが先か。
バキンッ!!!
「なっ!?」
「えっ!?」
しかし、その結末はなんとも締まらない形でやって来た。折れたのだ。オレの持つ木剣も、クラウディアの持つ槍も。
カランコロンカラン!
折れた剣先と穂先が乾いた音を響かせて地面に転がった。
「この場合は勝敗はどうなるのでしょう……?」
手に折れた槍を持ったクラウディアが困ったような顔を浮かべて問いかけてくる。
「さあな? 勝負無しで引き分けか?」
「引き分け。敗北よりも成長したということにしておきましょう。次は勝ちますわ」
クラウディアが不敵な笑みを浮かべてオレを見ていた。クラウディアがまだ勝ったことが無い相手が、オレとコルネリアの二人だ。クラウディアとしては、なんとか勝利を掴みたいのだろう。
それにしても、クラウディアのギフトは知らないが、かなり強力なもののようだ。これは邪神の呪いに侵された者は強力なギフトを賜るという可能性が上がったな。
クラウディア以降邪神の呪いにかかった者を解呪していないが、ただ噂を流して待つだけよりも自分で動いて能動的に探し出すことも視野に入れた方がいいかもしれない。
「それにしてもディーは強いですね。元のギフトが治癒でしたから、聖者も戦闘系のギフトではないのでしょう? どうしてそこまで強いのですか?」
「鍛えたからかな? それよりもクラウディアの方がどうかしている。本当に槍を持って一か月なのか?」
「はい。ディーは知っているでしょう? わたくしは運動できる状態ではなかったので……」
「そうだが……。すごいギフトでも賜ったのか?」
「それはここでは……。あとで話しましょう?」
「? わかった」
そんなオレとクラウディアの話をまるで嫉妬しているように難しい顔を浮かべて見ているエレオノーレ。彼女の存在にオレは気付けなかった。
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