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068 服屋

「旦那様、着きましたよ」

「ああ……」


 馬車の扉を開けてくれたクラウス。オレは先に馬車を降りて、コルネリアとリリーに手を貸して馬車を降りてもらう。


「ありがとうございます、お兄さま」

「ディー、ありがと」

「いえいえ」


 そろそろ笑顔を作るのがしんどくなってきたな。この店でかれこれ七軒目だ。さすがに疲れてきた。


 クラウスが開けてくれたドアをくぐり、コルネリアとリリーをエスコートして店に入った。


 傍から見れば両手に花の羨ましい奴かもしれないが、オレの内心は早く帰ってベッドに潜りたい一択だ。


 店にはカウンターがあるだけで、これといった商品が置かれていなかった。ここはオーダーメイドで服を注文する店なのだ。


「ようこそお越しくださいました」

「ああ、この店で服を作りたい。案内してくれ」

「かしこまりました」


 店員に話を通すと、すぐに店の奥にある個室へと案内された。どうやら男性用と女性用で部屋が違うようだ。


「リアもリリーも好きな服を注文するといい。オレも服を注文してくる」

「はい、お兄さま!」

「うん」


 リアは満点の笑顔で、いつも無表情なリリーもどことなく楽しそうな表情を浮かべて女性用の部屋に入っていく。


 二人を笑顔で見送って、オレは男性用の部屋に入る。


 オレはあまり服装にはこだわりがないタイプだ。子爵として舐められない服ならばなんでもいい。



 ◇



「遅いな……」


 かれこれ三十分は待っていると思うのが、一向にコルネリアもリリーも部屋を出てこない。


 これまでの経験から女の買い物は時間がかかるということは嫌というほど学んでいる。たぶんまだ迷っているのだろうが、こんなに時間がかかるものか?


「コルネリアお嬢様にとっても、リリーお嬢様にとっても、初めてオーダーメイドで服を作る機会ですから……。きっといろいろと決めなくてはならないことが多いのでしょう」

「たしかにそうだが……」


 初めてだから勝手がわからず、時間がかかるというのは納得できる。ならば、プロである店員にすべて任せてしまえばいいと思うのだが……。自分のこだわりがあるのだろう。


「かわいそうだが、急かしてくるか。このままでは予約したレストランに遅れてしまう。クラウスは馬車を表に連れてきてくれ」

「かしこまりました」


 オレは女性用の応接間に入ると、それぞれのテーブルで真剣に考えている様子のコルネリアとリリーの姿が見えた。


 まずはコルネリアの所に行くか。


「リア、決まったかい?」

「お兄さま……」


 オレを見たコルネリアは、眉を下げてなんとも情けない顔をしていた。どうしたんだ?


「どうしたんだい、リア?」

「それが……。なかなか決まらなくて……。お兄さまはこの布とこちらの布、どちらが好みですか?」

「ふむ……」


 これが究極の選択。女の子からのどっちがいい? か……。オレは女性の服飾に関して詳しいわけでもないし、流行を把握しているわけでもない。適切な選択なんてできるわけがないのに、コルネリアの好みを勘案した最善の選択肢を選ばなければ好感度が下がってしまう。どう考えても割に合わないリスクしかないゲーム。それが女の子からのどっちがいい? だ。


 オレは早くもコルネリアを迎えにのこのことここまで来てしまったことを後悔し始めていた。


「こっち……かな?」

「お兄さまもそうですか?」

「ああ。コルネリアはどっちがいいんだい?」

「わたくしもこちらです」

「ふぅー……」


 どうやらオレは悪魔の二択に勝ったらしい。ガッツポーズでも決めたいところだ。


「じゃあ、こっちの布にしたらどうだ?」


 コルネリアが気に入ってるんだ。それが正解だろう。


「でもお兄さま。こちらの布の方が今の流行なんですって」

「流行か……」


 難しい問題だな。オレなんかは流行なんて気にせずに好きな服を作ればいいじゃないかとも思うのだが、流行の服ではないと笑われてしまう現状があるからなぁ……。


「じゃあ、リアの好きな服と流行の服、どちらも作ったらどうだい?」

「よろしいですか?」

「もちろんいいとも。流行の服は店員に任せればいい。あとは、リアの好きを詰め込んだ服を注文するんだ」

「はい! そうします」


 なんとか二着作るという荒業で乗り切ることができた。あれ以上あれこれ訊かれていたらきっとボロが出ていたに違いない。オレはコルネリアの前でだけは立派なお兄さまでいたいんだ。


 コルネリアの問題が片付いたところで、今度はリリーの所に行く。だが、リリーの所はなんだか様子が違った。店員が困った様子でオレを見上げてくる。テーブルには、スッケスケのネグリジェがいくつも置かれている。


 なにこれ? どういう状況?


「リリー? 服の注文は終わったのか?」

「ディー、どっちが好き?」


 リリーがえぐいぐらいスケスケのランジェリーを持ってオレに訊いてくる。もう下着としての用途をなしていない。完全に男を煽るための下着だ。


「どっちじゃねえよ! なんでそんなもん選んでるんだ!?」

「ディーがどっちが好きかわからなくて」

「リリーにはまだ早い! というか、ちゃんと服は注文したのか?」

「うん。で? どっちが好き?」

「しつこいな! どっちもなしだわ!」

「えー……」


 リリーはませているなぁ……。


 そんなリリーだが、自分への買い物だけではなく、母親へのプレゼントも買っていたりする。母親想いの少女でもあるのだ。


 この色仕掛けをしてくるところさえ治れば……。はぁ……。

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