067 教会からの手紙
「旦那様、また教会からこのようなものが」
「教会? またか……」
王都のバウムガルテン邸の執務室。一週間で溜まった手紙などを読んでいると、クラウスが豪華な作りの手紙を持ってきた。
実は教会からは今までに何度も手紙を貰っている。教会に所属しないか? という内容だ。聖者のギフトを持つオレを教会に所属させ、オレを使って怪我や病の治療をして、教会の威信を上げようというのだろう。
今の教会には、高レベルの治癒の使い手が居ないのか、教会を頼って高いお布施を払っても怪我や病が治らないなんてこともあるからな。教会としては面目丸つぶれだ。
そこでオレに目を付けたんだろうが……。オレはどうも教会のことが好きになれなくて教会に所属していなかった。
一応、教会に所属すると何割か教会に天引きされるが、教会の依頼で治療を行った際は金が入るようだ。
しかし、教会に所属してしまえば、今までのように自由に人を癒せない場合もある。オレが貴族たちを癒している行為がそれだ。オレに依頼したかったら教会を通してねと断ることになる。
金が欲しければ教会に所属するのが手っ取り早いが、今のオレは金に困っていない。もう教会にはなんの魅力も感じないな。
「まぁ、一応読んでみるか。これを読んだら休憩にしよう。リビングでお茶を飲むから準備してくれ」
「かしこまりました、旦那様」
「なになに……」
さてさて、何が書いてあるのやら。教会への所属の催促か? それとも勝手に貴族たちの治療をしたことへの文句か?
「ふむ……」
相変わらずのお堅い文だな。目が滑る滑る。頭が痛くなりそうだ。
「なんだこれ……」
「旦那様?」
「ああ、読んでみろ。わけがわからん」
「よろしいのですか?」
「かまわん」
教会からの手紙を読んだクラウスは、難しそうな顔をしてオレを見た。
「どう思う?」
「旦那様を将来の教皇候補生として教会に迎え入れる準備があるとのことですが……。教会はそれだけ旦那様のご活躍を重く見たということではないでしょうか?」
「オレの活躍?」
オレはべつになにか特別なことをした覚えはないが……?
「貴族様方を治療なされたではないですか。いずれも教会では完治できなかった方々です。それらは教会よりも旦那様の方が優れていることの証明です。教会としては、もうなりふり構わず旦那様を教会の所属にしたいのでしょう」
「なるほどな……」
「それと同時に今回の旦那様の陞爵のタイミングを考えますと……」
「王国はオレの教会の所属に反対か……」
「おそらくは」
つまり、王国と教会がオレの所属を巡って綱引きしているのだ。
王国としては、今のまま教会に所属させず、オレを自由に動かしたい。オレが教会の所属となれば、教会にお伺いを立てなくてはならないからな。
そして、教会としても優れた治癒魔法の使い手であるオレを是が非でも確保したいのだ。もう教会に所属する者たちよりもオレの方が優れていることを証明してしまったからな。教会の威信を保つ意味でもオレの教会の所属は成し遂げたいところだろう。
「それで、どうなさいますか?」
「オレは教会には所属しない。少なくとも今はその時ではない。オレと国の関係は今のところ上手くいっているからな」
それに、これは国から無茶を言われた時にいいカードになってくれる気がする。ここで切るのはもったいない。
「教会には断りの手紙を書いておいてくれ。さて、休憩しよう。リビングに行くぞ」
「かしこまりました、旦那様」
◇
リビングにはコルネリアとリリー、二人のメイドの姿もあった。どうやら今はお茶会の作法の勉強中のようだ。練習の為だろう。二人とも古ぼけた袖の広いドレスを着ている。
二人が着ているのは、死んだオレとコルネリアの母親が花嫁道具として一緒に持ってきたものだ。古ぼけてるのも当たり前だね。
「精が出るな」
「ディー」
「お兄さま! お仕事はもうよろしいのですか?」
「ああ。さあ、二人ともお勉強を続けて」
「えー……」
「こら、リリー。貴族の淑女になるには必要なことですよ?」
「うー……」
「お勉強が終わったら、買い物にでも行くか。だからリリーもリアもがんばって」
「お買い物?」
「まあ! よろしいのですか?」
「ああ。子爵に上がった時に貰った祝い金がたんまりあるからね。それに、マヨネーズの売り上げも絶好調だしな。金の心配はしなくてもいい。なんでも欲しいものを買うといいよ」
「やった」
「ありがとうございます、お兄さま」
「なに、妹たちを着飾らせるのも兄の務めだよ」
そう言って、オレはお茶を片手にリリーの淑女教育を見守るのだった。
リリーは口では文句を言うが、教育を受ける姿勢は真剣そのものだ。たぶん、できなかったらあとで恥をかくのは自分だということをわかっているのだろう。
意外にもコルネリアは人に教えるのが上手いし、いいコンビなのかもしれないね。
二人へのプレゼントは奮発しよう。
この時のオレは、そんな暢気なことを考えていた。
まさか、少女たちとの買い物があんなにたいへんなものだったとは……。
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