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066 陞爵

「どうしてこんなことになったんだろうなぁ……」


 オレの目の前には豪華で大きな扉があった。この扉の向こうに王様が居るらしい。


 なんでオレが王宮に居るんだ? もう一生縁遠いものだと思っていたぞ。


 朝起きたら、問答無用で連れてこられたんだ。何の用かもわからない。まさか、ヒューブナーが動いたか? しかし、あれだけ治療にかこつけて高位貴族に釘を刺してもらったんだ。そんなに早く動けるものか?


 わからん……。


 悩んでいるうちにオレの番になったようだ。近衛兵がゆっくりと大きな扉を開いていく。


「バウムガルテン男爵の入場です!」


 できれば入りたくないなぁ……。


 しかし、そんなことも言っていられない。オレは赤い絨毯の上を歩いていく。絨毯の左右には貴族たちが並び、絨毯の奥は一段高くなっており、壮年の男が豪華な椅子に座っていた。あれがこの国の王様だ。


 オレは王様の前、十メートルほどで止まると跪いた。


「バウムガルテン男爵、命により参上いたしました」

「うむ。よく来た、男爵。いきなりのことで驚いただろう? 今日、卿には嬉しい知らせがある。よろこべ男爵。そちは今からこの国の子爵である」

「はい? ししゃく……?」


 許しも無く発言するのは無礼なのはわかっている。しかし、思いもよらない言葉に思わず訊き返してしまった。


 ちなみに、王様の言葉を訊き返すのも無礼である。


 しかし、オレがまだ学院を卒業していない子どもだからか、王様や周りの貴族たちは微笑ましい笑みを浮かべて大目に見てくれているようだ。


 だが、一応謝った方がいいだろう。


「失礼いたしました」

「よい。此度は目出度い話である。大目に見ようではないか、バウムガルテン子爵よ」


 本当に? 本当にオレが子爵? 普通はなにか功績を上げなければ、それもかなりすごい功績を上げなければ子爵になんてなれるわけがない。なんだかドッキリでも仕掛けられているみたいだ。


「驚いているな? 無理もない。だが、卿は数多くの我が国の重鎮たちの命を救ったのだぞ? その行為は報いるに値する尊きものだ」


 よく見れば、左右に並ぶ貴族たちの中には、見知った顔があった。オレが治療した貴族だ。


「そして、我が娘をも卿は救ってくれた。クラウディアの親として、我は卿に感謝している」


 そうか。クラウディアはケスティングの名乗りを許される王族だった。ならばその親は王様になるか。


 どうやらオレは、知らないうちに国の中枢に居るような人たちに感謝されていたようだ。


「故に、卿の働きには陞爵しょうしゃくをもって応える。卿は今からバウムガルテン子爵を名乗るがよい」

「ありがたき幸せ……」


 驚いたが、貰えるものは貰っておく。まぁ、子爵になっても領地が増えるわけでもないし、なにも変わらんがな。


「ところで子爵、卿は我が娘に懸想しておるようだな?」


 はい?


 懸想って、好きだってこと? オレが? 王様の子を? 誰だよ、そんなこと言ったの? オレは知らないぞ!


「娘を嫁がせるには、今少し功績が足らぬようだな。奮起するがよい。期待している」

「はっ!」


 娘ってクラウディアとエレオノーレどっちだろう?


 そんなことを思いながら、オレは王宮を後にしたのだった。



 ◇



「お兄さま!」

「ディー!」


 王宮から屋敷に帰ると、玄関先でコルネリアとリリーが抱き付いてきた。どうやらオレの帰りを待っていてくれたらしい。


 二人とも心配そうな顔でオレを見上げている。オレみたいな王宮には関わりの無い木っ端貴族がいきなり王宮に呼び出されたからな。二人が心配するのも無理はない。


「二人とも心配させたな。オレもいきなり王宮に呼ばれたから何事かと思ったが、上首尾に終わったぞ。とりあえず中に入ろう」

「お兄さま、上首尾って?」


 リビングに入ると、さっそくコルネリアが質問してきた。


「どうやらオレは、今日から子爵らしい」

「まあ!」

「子爵?」


 コルネリアが手を口の前に置いて驚き、リリーは首を傾げていた。


「子爵というのは貴族の階級の一つだ。男爵の一つ上だな。オレは今まで男爵だったから、階級が一つ上がったことになる」

「おめでとうございます、お兄さま!」

「おめでと、ディー」

「ありがとう、二人とも。そうだ。祝い金をたくさん貰ったんだ。今夜はご馳走にしよう」


 本当に、祝い金は破格の額を貰った。聞けば、子爵への陞爵しょうしゃくの祝い金とは別に、今までオレが治療を施してきた貴族たちが、祝い金にかこつけて治療費を包んでくれたらしい。これなら教会も文句は言えないだろう。


 さて、この金で何をするか?


 まずはバウムガルテン領の屋敷の改築だな。さすがにあのあばら家はひどすぎる。


 あとはコルネリアとリリーに服を買ってやろう。今まで余裕が無くておしゃれなんてさせてやれなかったが、金はこういう時にこそ使うものだ。ベンノにオススメの店を訊いて、連れて行ってやるのもいい。


 それから馬車も必要だな。この王都で貴族として暮らしていくには、なにかと馬車が必要な場面が多い。金が足りるかな?


「ごちそう、楽しみ」

「そうね、リリー」

「ああ、たのしみだね」


 頭の裏であれこれと計算しつつ、オレはコルネリアとリリーの笑顔に癒されるのだった。

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