063 誕生日
王都のバウムガルテンの屋敷の食堂で、ささやかながら誕生日パーティーが始まろうとしていた。
「リア、誕生日おめでとう!」
「おめでと」
「ありがとうございます。お兄さまもお誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、リア」
「おめでとうございます旦那様、コルネリアお嬢様」
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます」
皆の祝いの声が響き、オレとコルネリアは十三歳を迎えた。
十三歳か。この世に生まれ落ちて十三年。長かったのか短かったのか。思えば、元の世界では体験できないような濃密な時間を過ごした気がする。
だが、この世界の本番はこれからだ。抜かりないように準備しなくては。
「リア、さっそくだけど誕生日プレゼントだ」
オレは床に置いていたリボンを巻いて少しでもかわいくしようと努力した聖剣をコルネリアに渡した。
「ありがとうございます、お兄さま。すごい……。まるで吸い込まれてしまいそう……。すごく立派な剣ですね。この剣に負けないように剣技を鍛えます!」
「ほどほどにね」
女の子への誕生日プレゼントが剣というのはどうかとも思っていたけど、喜んでくれてよかった。
「いいないいな」
「リリー? 今日は旦那様とコルネリアお嬢様の誕生日だから」
リリーがコルネリアを羨ましがり、ユリアがそんなリリーをたしなめる。
「誕生日プレゼントというわけじゃないが、実はリリーにもプレゼントがある」
「ほんと?」
無表情なリリーの眉が少しだけ動き、目がキラキラ輝いた。かなり期待しているみたいだ。
「ああ、これだ」
オレはリボンを巻いてそれらしく飾った一本の杖を取り出す。呪われたアイテムとして倉庫に眠っていた七つの宝石があしらわれた杖だ。すべての属性魔法を使えるリリーにはもってこいの逸品である。
「おぉー……」
「ほらリリー、お礼を言わなくちゃ」
「ありがと」
「どういたしまして」
たぶん気に入ってくれたのかな? リリーは少し興奮したように杖を抱きしめていた。
「リリーはすべての属性魔法が使えるけど、人前で使うのは一つか二つの属性に絞った方がいいだろう。すべての属性が使えると知られれば、誘拐なんかもあり得るかもしれない。自分を護るためにも、秘匿した方がいい」
「うん……」
リリーも真剣な表情で頷いてくれる。わかってくれたならいいな。
我が家は弱小男爵家だからね。さらに上の権力者なんて数えるのも億劫なくらいたくさん居る。リリーを妹にしたところで、相手が手を引いてくれる可能性が低いだろう。
だからリリーの力を秘匿する。
すべてはリリーの身を護るためだ。
「プレゼントがあってよかったですね、リリー。お兄さま、わたくしからもお兄さまにプレゼントがありますの。受け取ってくださいますか?」
「もちろんだよ」
「リリーもある」
「リリーもありがとう」
オレはコルネリアからお守りとしてのチャーム、リリーから小さな折り畳み式ナイフを貰った。きっと二人ともお小遣いを切り詰めてオレへのプレゼントを買ってくれたのだろう。
「お兄さまのプレゼントと比べるとだいぶ見劣りしてしまうのですが……」
「うん……」
「気にしてないよ。二人ともありがとう」
その気持ちだけでオレは嬉しい。
「さあ、食事にしようか。今日はご馳走だね。熱いうちに食べてしまおう」
王都は食文化も豊かだ。バウムガルテン領では見なかったような料理がたくさんあった。
どれもおいしそうだ。
「いただきます」
「「いただきます」」
◇
「はぁー……。満腹だ……」
オレはいつもよりも重い腹を撫でる。酒で意識がふわふわと浮かされ、熱を持った体をベッドに投げ出すように横たえた。
「はぁー……」
シーツの冷たさが心地いい。だが、すぐにシーツが熱を持ってしまい気持ちよさが無くなってしまった。オレは冷たいシーツを求めて手足をうにょうにょと動かす。
「ふふふ……」
オレはポケットにしまっていた折り畳み式ナイフを取り出す。リリーがプレゼントしてくれたものだ。しっかりとした作りで、装飾が無く、実用一辺倒のナイフだ。頑丈で使い勝手がいいだろうな。
折り畳み式ナイフには、月明かりを浴びて赤色に輝くチャームが付いている。こちらはコルネリアからのプレゼントだ。お守りのようなものだな。
二人には思いがけずにいいプレゼントを貰ったな。大きくて邪魔になるものでもないし、肌身離さず持っていよう。
「あーそうだ、リリーが森に行きたがっていたな。どうするか……」
杖を貰ったリリーは、当然だが杖を使いたがった。王都近くの森でモンスターを倒したいと言い出したのだ。
リリーのギフトは強力だ。ギフトを鍛えるのは賛成だが、リリー一人で森に行かせるわけにはいかない。
「平日はオレもリアも学園があるし……。バッハを護衛に付けるか。バッハが居れば、王都近辺の森なら安全に探索ができるだろ。あとでバッハに言っておかないとな……」
だんだん瞼が重たくなってきた。目を閉じると、じんわりと目の奥が熱くなった。
体から力が抜け、オレは意識を手放した。
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