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061 お嬢様

「なあ? そろそろどこに行くか教えてくれないか?」

「…………」

「無視かよ……」


 学園の教室でコルネリアとのほほんとしていたら、誘拐同然に謎の兵士たちによって連れて来られてしまった。


 今は目隠しをした馬車で運ばれている最中だ。


 ゲームにこんなイベントはなかったはずだが……。主人公君ならともかく、オレはただのモブだぞ?


 真っ黒な装飾も無い馬車は、サスペンションが効いていて、振動が少ない。かなり高級な馬車だとわかる。


 そしてオレの目の前に座る男。オレはこの男を知っていた。本当の名前は知らない。ゲームでは、王室の暗部を担う情報戦のスペシャリストとして登場したモブだ。


 そんな男が何用なんだ?


 この男が居るということは、命令を出したのは王族の誰かだろう。


 暗殺という線は……無いと思う。白昼堂々オレを連れだしたからな。それに、オレは王族に対してなにかした覚えはない。


 頭に浮かぶのは、エレオノーレだが……。あいつはこんな回りくどいことはしないだろう。エレオノーレという少女は、自分が王族であることに辟易としている少女だ。


 では、どんな要件だ?


「この目隠しをしろ」


 男に差し出されたのは、黒く細長い布だった。


「仮面舞踏会でもあるのか?」

「さっさと付けろ。許可なく外せば後悔することになる」

「はぁ……」


 ここは大人しく従っておくか。オレならば、たとえ致命傷を与えられたとしても復活が可能だ。まずは相手の出方を見る。


 目隠しを付けるのと馬車が止まるのは同時だった。


「立て。歩くぞ、付いてこい」

「ああ……」


 腕を引かれて馬車を降りた。地面に着いたブーツの裏に返ってきたのは、石の硬い感覚だ。どうやらまだ王都の中らしい。


「こっちだ」


 ドアを開く音が聞こえ、ブーツの裏にはふわふわとした感触。


 絨毯か? どうやら相手はかなりの金持ちだな。王族だし、当然か。


「もう目隠しを取ってもいいぞ」

「ああ……。眩しい……」


 目が落ち着くと、白とピンクを基調としたなんとも少女らしい部屋に居た。地下牢とかに連れていかれるのかと想像していたので、ギャップで目を見開いてしまう。


 部屋の中央には、大きな天蓋付きのベッドが置かれていた。


 なんとなくだが、ここで男の要件がわかる気がした。


「ここは……?」

「詮索はするな。知れば貴様を殺さねばならん」

「こえーなおい」


 だが、そんな物騒な言葉もこの少女らしい部屋に居れば軽口で返せてしまう。そのくらいミスマッチだ。


「来い」


 男に付いて真ん中に置かれたベッドに近づいていく。


「あとはそこのメイドの指示に従え」

「バウムガルテン男爵ですね? こちらへどうぞ」

「ああ」


 そのメイドは意外にも年が近かった。十六歳くらいか? 随分と若く、そしてかわいいというよりも綺麗でスタイルもいいメイドだ。学園に居たらきっと噂になっているだろう美少女だな。


「お嬢様、失礼します」


 メイドがベッドの天蓋を開いた。中に居たのは、少しやつれた表情をした少女だった。長い金髪も艶が無く、綺麗な青い瞳も微かに落ち窪んでいる同い年くらいの少女。


 だが、少女の美しさはまるで陰りが無い。病身の状態でも心奪われそうなほど美しかった。


「こちらの方が……?」

「はい、お嬢様。噂にあったバウムガルテン男爵です」

「お初にお目にかかります。ディートフリート・バウムガルテンと申します」


 オレは念のため跪いてへりくだった態度で接する。相手は十中八九王族か、それに縁のある大貴族の娘だ。体から滲むような高貴なオーラまで感じる。


「バウムガルテン男爵には、わたくしの素性を……?」

「いえ、知らないはずですが……」


 メイドとお嬢様。少女たちが不思議そうな顔でオレを見ている。


 やはり高貴なお生まれなのかな?


「コホン。バウムガルテン男爵、見ての通りお嬢様は病に侵されています。あなたならば完治できると噂がありました。それは本当ですか?」

「さて……。まずは診てみないことには。お手に触ることをお許し願えますか?」

「……許します」

「失礼します」


 オレはお嬢様の右手を手に取った。触れた瞬間にわかる呪いの気配。邪神の呪いだ。


「邪神の呪いですか……」

「治せるという噂でしたが? まさか、無理なのですか?」

「あの、ご無理はなさらずに……」


 メイドさんが厳しい目で、お嬢様が諦めたような笑みでオレを見てきた。


 たしかに邪神の呪いも治せると噂を撒いたが、これほど早く喰い付いてくるとは。それだけ切羽詰まっているということなのだろう。よくよく見れば、まだまだ元気そうに見えたお嬢様には生気というものが無かった。まるで枯れかけた花だな。


「ご心配なく。治療を開始します。横になってください」

「はい……。んっ……」


 邪神の呪いを解呪し始めると、お嬢様の眉が寄って、なにかに耐えるような顔をした。しかし、本人の意思とは裏腹にその顔はだんだんと赤らみ、青い瞳は涙で潤み、息をどんどん荒げていく。


「はーっ、はーっ、はーっ、んぁ……」


 とうとうお嬢様の唇から甘い息が漏れ始めた。

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