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059 魔剣

 オレは『魔剣伝説』について知らないことはないと言えるほどのヘヴィーユーザーだった。おそらくプレイ時間は世界一だろう。そのくらい、まさに縋りつくようにやり込んだんだ。


 だから、モンスターの弱点はおろかなにをドロップするかまで覚えているし、マップのどこにアイテムが隠されているのかも知っている。


「見つけた」


 学園の鐘楼の最上階の行き止まり。ゲーム通りにポーションが落ちていた。


 なぜこんな所にポーションが落ちているのかは知らないが、ゲームの情報通りにポーションが落ちていたというのがポイントだ。


 おかげでゲームの情報の信憑性を確認できた。これは大きい。


「次は魔剣でも探してみるか」


 この学園には、世界に七つある魔剣の内の一つが封印されている。封印されている理由は、魔剣は強力な呪いで装備者の精神を乗っ取るからだ。


 精神を乗っ取られた装備者は、破壊の限りを尽くすことになる。だから学院に封印されているのだが、この呪い、実は解くことができるのだ。


 そして魔剣は、本来の聖剣へと生まれ変わる。


 どうせ主人公たちは学園に封印されている魔剣を得ることはできないし、オレが貰ってもいいだろう。そして、コルネリアにプレゼントするんだ。きっと気に入ってくれるはずだ。


『お兄さまカッコいい、素敵!』

「いやぁー、それほどでも……」


 コルネリアに褒められるところを幻視して、ニヤニヤと笑ってしまうのだった。



 ◇



「うっし、やるか。目標、魔剣!」


 夜の学園。男子寮から抜け出したオレは、警備の人間に見つからないように図書館までやって来た。


 夜の学園というのはなんだか不気味だ。日中は生徒たちで賑やかだからか、夜のシンッとした学園は落差でひどく寂しい感じがする。


 まぁ、魔剣を入手するために来たオレの内心はワクワクだけどね。


 ゲームでは入手できなかった魔剣だ。どんな性能なのかとても気になる。


 図書館の最奥。決められた順序で書架の本を手前に倒して押し込むと、ガチリとなにかが噛み合う音がして、書架が手前にドアのように開いた。その先にあるのは階段だ。


「ここまでゲーム通りとは……。ワクワクするね?」


 そんな軽口を叩いて、オレは階段を下りていった。



 ◇



「今、何時くらいだ?」


 図書館から地下に潜って数時間。オレはいくつものパズルのようななぞなぞを解いて奥へ奥へと進んでいた。


「そろそろのはずなんだが……」


 その時、通路の奥に光が見えた気がした。今までになかったことだ。期待に歩くスピードが上がった。


「ほう?」


 そこは黒い瘴気が立ち込めた小部屋だった。部屋の奥には、ほこらのようなものがあり、そこに魔剣が祀られるように置かれている。


「やっとたどり着いたか……」


 まるでドライアイスが焚かれたようにモクモクと漂う瘴気。人の精神を奪う魔剣の瘴気だ。触ればただでは済まない予感がした。


 たぶん、魔剣から出る瘴気を利用して誰にも近づけなくしているのだろう。魔剣を利用した天然のトラップだ。


 事実、ゲームでも『この部屋は嫌な予感がする……』と主人公が言って探索ができなかった。


 しかし、今のオレはゲームの都合のいいように選択肢を狭められた主人公とは違う。


 この部屋にも自在に入ることができるのだ。


 そして、問題の瘴気だが……。


「アンチ・カース」


 呪いへの抵抗力を魔法で上げてやれば問題ない。


 オレは意を決して部屋の中へと踏み込んだ。


 体がぐんぐんと冷めていくような感覚がした。まるで瘴気に体温を奪われているようだ。冷汗が止まらない。


 しかし、無事だ。体を乗っ取られたりはしていない。


 ほこらはもう目の前だ。手を伸ばして魔剣を手に取る。


「ッ!?」


 魔剣には、凄まじい呪いが込められていた。魔剣を掴んだ右腕を這い上ってくる呪いの感覚。呪いを解呪するどころか、気を抜いたらこちらが呪われてしまいそうなほどだ。


「くそっ!」


 呪いを押し返すように右腕に力を籠めて解呪していく。さすが、ゲームでも解呪にリアル時間で七十二時間もかかる魔剣の呪いだ。凄まじいの一言だ。


「だが……ッ!」


 聖者にギフトが進化したオレが本気でかかれば楽勝だ。既に呪いに侵された右腕の解呪は終わり、魔剣の半分以上を解呪できた。


 ――――ぎゃぁああああああああああああッ!


「よし、終わりっと」


 まるで断末魔のような声を響かせて、魔剣の解呪が終わる。真っ黒だった刀身は白銀の輝きを放ち、よく見れば柄の形も変わっていた。明るい水色の宝珠が填まっている。これなら、この剣を使っても元は魔剣だとバレることはないだろう。嬉しい誤算だ。


「それにしても……」


 呪いを解き放ち、聖剣としての力を取り戻した魔剣は、匂うような凄みを感じる。


 この剣は斬れる。斬れ過ぎるほどに。


 そんなことを思わせる輝きだ。


 さすが、世界に七本しかない魔剣。その真の姿。唯一邪神を屠れる武器というのは伊達ではないらしい。


 オレはべつに邪神と戦う気は無いけど、どうせ主人公たちはこの剣を入手できないんだ。オレが貰ってもいいだろう。コレクター魂がたしかな充足感を覚える。


 そういえば、主人公が入手できるのは、七本あるとされる魔剣の内三本だ。残りの魔剣の一本はオレの手の中。あとの三本はその行方さえわからない。


 暇になったら魔剣を探す旅でもしたいな。コルネリアは付いてきてくれるだろうか? リリーは……呼ばなくても付いてきそうだな。

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