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056 エル

「なーコルネリアちゃん? この後お茶でも行かない? お義兄さんもいっしょでいいから。ね? 頼むよー」

「行きません。しつこいです」


 リーンハルトはまたコルネリアにちょっかいかけているのか……。あまり主人公君とは関わり合いになりたくはないんだけど、向こうから寄ってくるんだよな……。


 とはいえ、コルネリアは明らかに困っている。早く行かなければ。


 オレはリーンハルトの背後から彼の襟を掴んでコルネリアから引きはがした。


「リーンハルト、妹にちょっかいをかけるのは止めろ」

「ぐえっ!? お義兄さまかよ。あんたこそコルネリアちゃんに過保護すぎるんじゃないか?」

「ふむ?」


 リーンハルトの言うことも一理あるか? オレはコルネリアを護りたいが、決してコルネリアを箱入り娘のようにしたいわけじゃない。むしろ、あらゆる障害を斬り飛ばせるようにコルネリアを強くしたいくらいだ。


 リーンハルトの申し出くらい自分一人でも断れるように見守るのが正解だったか?


「お兄さまはいいんです。わたくしとお兄さまの仲ですもの。ねえ? お兄さま?」


 そう言ってコルネリアがオレの左腕に抱き付いてきた。にっこりと笑った顔がとてもかわいらしい。


 しかし、オレとコルネリアはいったいどんな仲だと言うんだ? 普通の兄妹だぞ?


「ちぇー。こうなったらエレオノーレ様のところに行くか……」

「来なくてもよろしくてよ」


 凍えるような冷たい声の主はエレオノーレだった。


「ちょうどよかった。今から僕とお茶に――――」

「ディートフリート・バウムガルテン。お話があります、一緒に来ていただけますわね?」

「「え?」」


 珍しくコルネリアとリーンハルトの言葉が被った。


 そして、驚いたのは二人だけではなく、教室中がこちらの様子を窺うように静かになる。


 そういえば、エレオノーレが特定の男を名指しで呼ぶのは初めてかもしれない。皆どういうことなのかと興味津々なのだ。


「あの件なら後日でも……」

「善は急げと言いますもの。コルネリアさん、少しの間お兄さんをお借りしますね」

「いえいえ、わたくしもご一緒しますのでお構いなく」

「ディートフリートとは、二人で話したいのですが……」

「お兄さまとわたくしは一心同体ですもの」


 次期女王に暗に遠慮しろと言われてもコルネリアはオレの腕を離さなかった。


「これ以上ライバルが増えるのは看過できません!」

「え?」

「いえ、こちらの話です」


 コルネリアは何を言ってるんだ? ライバル? 何の?


「わかりました。ではコルネリアさんも来てください」

「はい!」


 コルネリアが譲るつもりが無いと察すると、エレオノーレは折れてみせた。元よりコルネリアに聞かれても問題ない内容だからだろう。


「じゃあ僕も同席しようかな?」

「さようなら」


 リーンハルトを見もせずに瞬時に切って捨てたエレオノーレ。そこには熟練の慣れがあった。リーンハルトもコルネリアに声をかけずにエレオノーレに集中したらいいのに……。


「では、そうですね……。適当な部屋を借りて話しましょうか。こちらですわ」



 ◇



 エレオノーレは、メイドさんに適当な会議室のカギを借りて来させた。メイドさんの働きは素晴らしく、カギを用意するとともにお茶の用意もしてくれた。さすが王宮の、それもお姫様付きのメイドだ。


「では、ディートフリート・バウムガルテン? 約束通り、わたくしへのアドバイスを聞かせてもらいましょう。適当なことを言ったら容赦しませんわよ?」


 毒見のつもりか、お茶を一口飲んでみせたエレオノーレが言った。


 相変わらず当たりが強いお姫様だ。というか、なんでオレはフルネーム呼びなんだ? 謎だ。


「お兄さま? そんなことを約束したんですか?」

「ああ。ちょっとな……」


 エレオノーレがどこまでも真面目に剣の腕を磨いていたからだ。


 エレオノーレ。彼女は王女という肩書ではなく、本来の自分を見てほしいと願っている少女だ。ゲームにおいて、下手をすれば不敬になる主人公のナンパに次第に絆されていったのもそれが理由。


 おそらく剣技を磨いているのも王女としてではなく、自分自身の力量がはっきりと示せるからだろう。


 まぁ、大半の生徒が王女に勝ちを譲っている現状があるが、オレとコルネリア、そしてリーンハルトは、エレオノーレに王女だからと勝ちを譲らず本気でぶつかっている。少なくともこの三人はエレオノーレの実力を認めているはずだ。


 まったく、本来ならこういったことはリーンハルトの管轄だというのに。あいつが二股なんてしてるからエレオノーレに避けられるんだ。


「エレオノーレ殿下、まずは前提を変えてみましょう。殿下のギフトは騎士です。まずは倒れないことを意識しましょう」

「倒れないことを? 敵を倒すことではなく?」

「そうです。実戦では、エレオノーレ殿下は味方を護り、倒れずに立ち続けることを求められます。そして味方を【ヒール】で癒し、戦線を維持するのです。敵を倒すことは、味方に任せましょう」

「味方に任せる……」

「そうです。ですので、決して倒れないことを意識してください」

「ですが、それだけでは模擬戦に勝てません」

「殿下の目指すべきは、勝利ではなく引き分けですよ。その方が実戦で役に立ちます」

「そうなのですか……?」

「模擬戦の勝敗など実戦には関係ありません。いかに実戦に即した訓練ができるかでしょう? その方が確実に強くなれます」


 難しい顔をして考えていたエレオノーレは、顔を上げると頷いた。わかってくれたらしい。


「ありがとうございます、ディートフリート・バウムガルテン」

「……そのフルネームで呼ぶのやめませんか? 長いでしょ?」

「そうですね。ありがとうございます、ディー」

「いきなり愛称!?」


 えぐいな。距離の詰め方どうなってるんだよ!?


「わたくしのこともエルと呼ぶのを許します」

「えぇ!?」

「あの!? お兄さまだけ特別ですか!?」

「そうですね。コルネリアさんもエルと呼んでください」

「え? わたくしもいいんですか? ではわたくしもこともリアとお呼びください」


 なんだこれ? エレオノーレと距離が縮まったと考えていいのか?


 これ、リーンハルトの扱いはどうなるんだろう?

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