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055 約束

「おはようございます、エレオノーレ様! 本日もいい天気ですね。一緒にお茶なんていかがですか?」

「けっこうですわ! わたくし、不誠実な殿方は大っ嫌いですので」


 教室の入り口で、毎朝恒例のやり取りがおこなわれていた。リーンハルトがこの国の王女であるエレオノーレを口説いているのだ。


 社交界でやったらかなり不敬な行為だが、学園では子どものすることとしておおらかに見る傾向がある。それにしてもかなりギリギリの行為だが。


 ゲームでは、リーンハルトのこの行動力が、最初は冷たかったエレオノーレの態度を徐々に軟化させていく。


 そのはずなんだが……。


「おや、コルネリア嬢ももう来ていたのか。どうだい、僕とお茶でも?」

「けっこうです」


 リーンハルトはなにを考えているのか、エレオノーレだけではなくコルネリアにも同時にアプローチしているのだ。しかも、二人の居る教室で。こんなの絶対に上手くいくわけがない。リーンハルトはバカなのか?


「残念だ。でも、僕は諦めないよ!」

「はぁ……」


 コルネリアの深いため息が聞こえる。リーンハルトもそのやる気をエレオノーレ一本に絞ればいいのに。




 ◇




「えいっ!」


 最近嬉しいことがあった。


「まいった!」


 学園の授業で実技が始まり、コルネリアの強さが証明されたのだ。


 教会の持つギフト鑑定をもってしてもコルネリアのギフトは名称不明。そのせいでずいぶんコルネリアを侮る声があったが、それも完全に払拭されたと言っていい。


「しゃらッ!」

「ぐはっ!?」


 そして、侮る声が消えたのがもう一人。


 ゲームの主人公であるリーンハルトだ。


 ゲームならちょっかいをかけてきたクレーメンスを返り討ちにすることで主人公を侮る声が消えるのだが、クレーメンスはオレに負けたのが相当堪えたのか、あれ以来大人しくしている。


 ちょっとゲームとの流れは違うが、今のところ大きな違いも無いしたぶん大丈夫だろう。大丈夫だといいな。大丈夫であってくれ。


「模擬戦中によそ見とは、余裕ですわね?」


 声に正面を向けば、土に汚れたエレオノーレの姿があった。意志の強そうな大きな青の瞳。体操服を押し上げる大きめな胸。それでいて折れそうにまで細い腰。細くしなやかな足。どこをとっても魅力的な美少女だ。


「殿下もしつこいですね。何度攻撃されても倒れない。そこが貴女の魅力ですが」

「戯言を……」

「いえいえ、本心ですよ。正直、憧れます」

「ッ!?」


 エレオノーレが木剣と盾を構える。その姿はオレの理想とするものだった。エレオノーレのギフトは騎士。防御力に特化した重戦士だ。治癒のギフトよりも使える魔法は少ないが、回復魔法も使えるかなり強いギフトである。


 騎士のスキルには味方を護るものが充実している。正直、取り替えてほしいほど魅力的だ。


「まぁ、それも殿下の強いご意志あってのものですね。でも、もう終わりです」

「かかってきなさい!」


 本当に負けん気が強いな。


 オレは苦笑しながら木剣を腰に構えると、そのまま一足飛びに走り出す。


 そして、そのままエレオノーレの盾にぶつかった。


「く……ッ! あっ!?」


 エレオノーレの盾を持つ左手がエレオノーレの体にぶつかった。左手一本ではオレの突きに耐えられなかったのだ。


 そのままエレオノーレの体は浮き上がり、飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がるエレオノーレ。長い金髪がボサボサだ。


「ヒール」


 オレはエレオノーレに【ヒール】を施すと、エレオノーレがよろよろと立ち上がった。


「わたくしはまだ負けていません!」

「ですが、もう時間です」

「それまで! 相手を交代してください!」


 オレの声と同時に、担任のボニファーツ先生の声が響いた。


「ね?」

「また勝てませんでしたか……。悔しいですわ……」


 エレオノーレは珍しく心情を吐露していた。よほど悔しかったらしい。お姫様なのだから、戦闘なんて部下に任せればいいのに。エレオノーレは真剣だ。真剣に悔しそうな表情をしている。


「エレオノーレ殿下さえよければ、少しアドバイスできることがあります」


 エレオノーレが泣いてしまいそうに見えたからか、オレは気が付けばそんなことを口走っていた。


「それは!? いったいなんですか!?」

「うお!?」


 エレオノーレの予想外の喰い付きに少し驚いてしまう。


「今はちょっと時間も無いので……」

「そうですね。後で時間を作ります。必ず教えなさい」

「はい……」


 これ、ひょっとして面倒な事になった?


「くっ!? 貴様か……」


 オレの次の模擬戦の相手はクレーメンスだった。エレオノーレに比べると、かなり顔面偏差値が下がって、本当に人間なのかと怪しく思えてしまう。まぁ、エレオノーレと比べたらかわいそうか。


「最近悪さはしていないだろうな?」

「して、してない! 俺様ほど清く正しい生徒などいないぞ!」

「清く正しいって顔かよ?」

「それはひどくね!?」


 非常に情けない姿のクレーメンスだが、これでもクラス内では五位の実力者だ。


 ちなみに一位がコルネリア。二位がオレ。三位がリーンハルト。四位がエレオノーレである。


「まあ、かかってこい」

「くそ、舐めやがって! 今日こそ勝ってやる!」

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