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053 リリー

 さすがに教会前の大通りで座ったままというのも決まりが悪いので、王都のバウムガルテンの屋敷にやってきた。


 屋敷は整備し、補修しているというのに、まだまだまるでお化け屋敷のような雰囲気を漂わせていた。だが、屋敷の中はそれなりに片付いていた。


 客間のベッドに娘を寝かせる。母親は深く深く頭を下げた。


「ありがとうございます! ありがとうございます……! 娘のこんなに穏やかな表情は久しぶりに見ました……」

「よかったですね!」

「本当に、ありがとうございます。なんとお礼を申し上げればいいか……。本当にありがとうございます……!」

「お兄さま、ありがとうございます!」

「いや、いいんだ。リアがそうだったように、オレも放ってはおけなかった」

「わたくしも、同じ邪神の呪いに苦しんでいる方を放ってはおけませんでした。お兄さま、ありがとうございます」

「同じ……? まさかそちらのお嬢様は……?」

「はい。わたくしも邪神の呪いに罹っていました。それをお兄さまに助けていただいたんです!」

「もう昔の話だ」

「いいえ。わたくしは生涯忘れませんわ!」

「そんなことが……」


 今まで厳しい時間の中を生きていたのだろう。少しやつれた母親が驚きの表情でコルネリアを見ていた。


「リアは七歳の時にギフトを賜らなかったが、邪神の呪いが解けた直後にギフトを賜った。もしかしたら、この少女もギフトを賜る可能性はある」

「本当ですか!?」


 母親の瞳が希望に輝いた。ギフトさえ貰えれば娘は人として扱われるのだ。娘の人生が大きく左右される情報だ。


「本当だ。まぁ、仮にギフトを賜らなかったとしても、その時はここで働けばいい。オレはギフトの有無で差別はしない」

「なぜそこまでしてくださるのですか? あなたがたは貴族様でしょう? 平民の、しかも邪神の呪いを患ったギフトを持たぬ者など、誰も人として扱ってくれませんでしたよ……」


 母親のその言葉には、今まで母娘が受けてきただろう受難の過去が現れているような気がした。


「世間がギフトを持たぬ者にどういう態度かは知っているつもりだ。せっかく助けたのに食い詰められても困る」

「もう、お兄さま。素直に心配だと言えばよろしいのに」

「ありがとうございます……」

「まぁ、しばらくはここに逗留するがいい。屋敷の者には伝えておく。ボロい屋敷だが、自由に使っていい」

「なにからなにまで……。本当にありがとうございます……!」



 ◇



 何度も礼を言う母と寝ている娘を客間に預け、オレとコルネリアは地下室へとやってきた。ジメジメとしてあまり居たくはない空間だ。


「リア、無理についてこなくてもいいんだぞ?」

「お兄さまの居る所がわたくしの居るべき場所ですもの!」

「そうか……?」


 なんだかよくわからないが、なんとなく嬉しく感じてしまうオレは末期なのかもしれない。


 その後、ヒュドラの毒腺採取と呪われたアイテムの解呪をしていると、娘が起きたという連絡があった。


 そういえば、母親も娘も名前を聞くの忘れていたな。



 ◇



「起きたと聞いたが……」


 ドアを開けた直後から強烈な視線を感じた。娘だ。娘がまるでオレを狙う狩人のような真剣な瞳でオレを見ていた。オレは娘の視線から逃れるように母親を見る。


「はい! 娘が! リリーが目を覚ましました!」

「ほう?」

「そしてなんと! ギフトも賜ったようなのです! あぁ、女神様、感謝いたします!」


 娘、リリーと呼ばれた少女は、母親の狂乱とは裏腹に落ち着いていた。そして、オレをジッと見ている。穴が開いてしまいそうだ。そんなに見ても面白い顔じゃないと思うのだが、どうしたんだ?


 リリーがゆっくりと手を上げてオレを指した。


「あなた、邪神の呪い治した?」

「ああ、そうだ」


 答えた瞬間だった。リリーがまるで飛び掛かってくるようにオレにダイブしてきた。


「おわっ!?」

「お兄さま!?」


 リリーに押し倒されるように倒れてしまった。オレを倒した下手人であるリリーはオレの胸に頬をこすり付けていた。なんとなく猫を思わせる少女だ。


「あなたの温かい気持ち、伝わった。リリがあなたと結婚してあげる」

「け、けけけ結婚!?」


 コルネリアのひどく驚く声が聞こえた。


 それにしても結婚? いきなりすぎない? というか、どういうことだ?


「リリー!? あなたお貴族様に何やってるの!? 離れなさい!」

「そうです! お兄さまは私と結婚するんです! 離れなさーいー!」

「やー!」


 リリーが全身を使ってオレの体を抱きしめる。さっきまで邪神の呪いに侵されていた少女とは思えない力の強さだ。


「もう、リリー! えっと、この方はあなたの命の恩人なのですよ!?」

「ああ、そういえば名乗っていなかったな。オレの名はディートフリートだ」

「お兄さま!? 押し倒されたままなにのほほんと自己紹介しているんですか!?」

「いや、女性にここまで強烈に求められるのは初めてで……」

「私が居ますよね!? この離れなさい!」

「やーだー!」


 さすがに二人がかりには勝てなかったのか、リリーはゆっくりと引きはがされていったのだった。

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