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052 邪神の呪い

 雑踏とした王都の大通り。オレとコルネリアは、貴族には珍しく歩いて屋敷まで移動していた。王都に持ってきたヒュドラの毒腺の回収や、呪われたアイテムの解呪のためだ。


 オレのギフトが聖者に進化して、レベルが1まで戻ってしまったからな。早くレベルアップして強くならなければ。


 それにオレはワクワクしていた。ゲームには登場しなかった聖者というギフト。いったいどんな力を秘めているのだろう。


「お兄さま、ご機嫌ですね」


 オレの左腕を抱いたコルネリアが嬉しそうにオレの顔を見上げていた。


「ああ。聖者というギフト。どのような力を秘めているのか楽しみだ」

「もう、お兄さまはそのことばっかりでわたくしのことを見てくださいません」


 コルネリアが不満そうな顔でオレの左腕を強く抱いた。まるで自分の胸を押し当てているようだ。しかし残念ながら、オレの左腕にはコルネリアの硬い肋骨の感触しか返ってこない。


 コルネリアは胸が無いからなぁ……。効果はいま一つだ。


「リアのことを忘れるわけないじゃないか。オレは常にリアのことを考えているよ。今だってリアのことを考えている。どうすればリアの胸が――――」

「しつこいんだよ、クソババア!」

「ん?」


 不意に聞こえた罵声。そちらに目を向けると、大聖堂の前で門番が女性を突き飛ばしていた。突き飛ばされた女性は、布に包まれた十歳くらいの少女を庇うように地面に下敷きになった。しかし、女性はすぐに膝立ちになると、門番に縋りつくように叫ぶ。


「お願いします! お願いします! どうかこの子を、この子に神の慈悲を……」


 なんだ? 治療費が払えないから締め出されたか? 教会はそういうのに厳しいからな……。女性の身なりからして、そこそこ裕福そうだが……?


「人でなしには神の慈悲など必要ない! 早々に立ち去れ!」

「人でなし……?」


 まさか……。


「お兄さま……」


 コルネリアが今にも泣き出しそうな顔でオレを見上げていた。コルネリアも過去に人でなしと呼ばれたことがある。邪神の呪いに罹り、ギフトを貰えなかったためだ。この世界の住人にとって、ギフトを貰えない人は、人ではない。


「そんな……。ああぁ、神よ! なぜ、なぜこの子だけをお見捨てになるのですか!?」


 おそらくあの女性が抱えた少女も邪神の呪いに侵されているのだろう。


「リアのことじゃないよ。そんなに悲しそうな顔をしないで」


 オレはリアの頬に手を伸ばして撫でる。


 あの門番め、コルネリアを悲しませるとは……。許さんぞ!


「お、お兄さま、わたくしは大丈夫です。それよりも……」


 コルネリアはオレの左腕を開放すると、門番に締め出された母娘に向かって走っていく。


「大丈夫ですか?」

「アあぁあああああァアアア。なぜ、なぜなのですか!? なぜこの子だけこんな目に……神様……」

「落ち着いてください。お、お兄さま!」


 コルネリアが母親の背を撫でながらオレを呼んだ。


 まさかとは思うが……。


 しかし、コルネリアに呼ばれてしまったら仕方がない。オレは母娘の方に足を進める。


「あ、あの、あなたがたは……?」

「お兄さま! この子、きっと邪神の呪いです。お兄さまのお力で……」

「リアはこの子を救いたいのかい?」

「はい! とても他人事とは思えません」


 やはりそうか。コルネリアはこの子と自身を重ねているのだろう。オレにとってもこの悲痛な泣き顔の母親は他人事とは思えない。


 もし、オレが前世の知識を持っていなかったら……。もし、オレのギフトが治癒じゃなければ……。


 オレはコルネリアを失っていた。


 ここで泣き暮れていたのはオレだったに違いない。


 この母親は、邪神の呪いに侵された者が、人とは認められないことなど知っていただろう。それでも娘をここまで育て上げ、それでも助けることができず、一縷いちるの望みを賭けて教会にやって来たのだ。


 その結果は散々たるものだったがな。ギフトの無い者は人間とは認められない世界だ。教会にも娘を人とは認められず、こうして追い出されてしまった。


 きっと差別やなんかもあったに違いない。オレの想像以上にこの母親は地獄を見てきたのだろう。


 オレはしゃがんで母親が大事そうに抱えた娘を見る。どこかコルネリアを思わせる赤髪の瘦せ細った少女だ。苦しそうに荒い息を繰り返している。きつく閉じた目は落ちくぼみ、頬はコケ、それでも大事にされてきたことがわかった。


「あ、あの……?」

「娘を助けたいか?」

「ッ!? はい! もちろんです! 娘が助かるためならなんでもします! どうか、どうか娘を助けてください!」

「お兄さま、わたくしからもお願いします!」

「わかった」


 オレは娘の手を取って聖力を流す。馴染みのある反発。やはり娘は邪神の呪いに侵されている。


「邪神の呪いだな?」

「はい……。あの、やはり難しいでしょうか……?」

「そんなことはない」


 オレはありったけの聖力を叩きつけるように娘に流した。


 早く娘の体から出ていけ!


「ヒール。いいぞ、終わった」

「え……?」

「治療は終わった。邪神の呪いは解呪した」

「ええッ!?」


 娘はさっきまでとは打って変わって穏やかな顔で眠っていた。

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