051 クレーメンスへの説得
「ごめんなさいでした……」
目の前には、土下座をするクレーメンスが居た。都合五回ほどボコし、その後なあなあで済ませようとしたので、手袋を投げて決闘から逃げれなくしてからボコすこと三回。ようやくクレーメンスの心を折ることに成功したらしい。
「ヒール」
「ひいっ!? も、もう勘弁してくれよ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
【ヒール】を施したら、クレーメンスが怯えた表情でごめんなさいを繰り返す。
どうやら彼にとって【ヒール】は、これから決闘の開始を意味する忌まわしいものに変わってしまったようだ。かわいそうに。もうボコすつもりはないんだから怯えなくてもいいのに。
「クレーメンス」
「ひぃいい!?」
「約束は果たせよ? もうオレたちに関わるな。そして、借金も帳消しだ」
「わかった! わかったから! わかったからもう止めてくれ!」
「一つ訊きたいことがある。バウムガルテン領を襲ったモンスターのスタンピード。あれはヒューブナー辺境伯の仕業か?」
「それは……」
さすがに答えないか? 重罪だからな。答えればヒューブナー辺境伯への牽制に使えるのだが。
「こちらにはお前が素直になるまで付き合ってやる用意があるが?」
「ひぃ、ひぃいいい!? そ、そうだ父上の策だ!」
これ見よがしに手袋を外してみると、意外にも素直にゲロってくれた。実の息子の証言だ。これでヒューブナー辺境伯を王都に召喚して査問会とかもいけるんじゃないか? 少なからずヒューブナー辺境伯の動きを制限することができるだろう。
上々の成果だ。
「マジかよ……。これは夢か……?」
「まさか、クレーメンス殿が負けるとは……」
「しかもこれほど一方的に……。聖者の力とはこれほどのものか……」
「あいつ気に入らなかったからスカッとしたよ」
「それより、他領でスタンピード起こしたとか普通に犯罪じゃね?」
「犯罪どころか重罪ですわ!」
「ヒューブナー辺境伯か……。先代は人格者だったが……」
周囲の声を聞きながら、オレはコルネリアの元に戻る。コルネリアは即座にオレの胸に飛び込んできた。
「お兄さま、お兄さま……」
「ちょ、リア? オレは大丈夫だから」
「でも、またあの力を使ったのでしょう……?」
「……まぁ、使ったが……」
コルネリアの目が悲しげに伏せられた。
コルネリアは、オレの【アン・リミテッド】が自分の体を犠牲にしていることを知っている。オレはスーパーマンじゃない。限界以上の力を出せば、自分の体をも壊してしまう。すぐに【ヒール】で治しているとはいえ、その瞬間の痛みは強烈だ。
だからだろう。コルネリアはオレが【アン・リミテッド】を使うとひどく悲しそうな顔をする。
「そんな顔をするなよ、リア。オレは納得してこの力を使っているんだ」
分不相応な願いかもしれない。でもね、コルネリア。オレは君に追いつきたくて、追い越したくて、この力を使うことを自ら選んだんだ。君を護れるように。
それに、いつ邪神が復活するかもわからない世界だ。オレはもっと強くなくてはならない。大切なものを護るためにも強くなることは絶対だ。
「オレが戦うためには、この力が必要なんだ。痛みなら慣れた。問題ないよ」
「でも、お兄さまばかりがこんな無理をする理由になんてならないわ」
コルネリアの手が、オレの体を労わるように撫でる。
「わたくしはお兄さまの剣になりたいの」
「オレの……?」
「わたくしがお兄さまの代わりに敵をやっつけるんだから。だから、もっとわたくしを頼って……」
「…………」
オレは、コルネリアのがオレのことを護りたいと言ってくれたことを思い出した。
心が温かくなるのを感じた。
オレもコルネリアのことを護りたいけど、コルネリアもオレのことを護りたいのだ。
オレは、コルネリアの意思を曲げるようなことをしたくない。コルネリアがオレを護りたいなら、護ってもらおう。オレはそんなコルネリアごとすべてを護ればいい。
「ありがとう、リア。リアは今でもオレのことを助けてくれる。でも、リアが望むのならもっとリアのことを頼りにさせてもらうよ」
「はい。絶対ですからね?」
「ああ。約束だ」
オレはコルネリアの頭に手を置くと、髪形を崩さないようにゆっくりと優しく撫でた。
コルネリアは顔を上げて至近距離でオレと見つめ合って柔らかく笑った。オレもつられて自然と笑みを浮かべる。
「あいつらって兄妹だよな? なんだか恋人同士みたいに見えるんだが……? それも並みの恋人なんかよりもずっと甘いような……」
「そうだよな? もしかしたら……いや、まさか、な」
「すばらしい! すばらしい兄妹愛ですわ! わたくしは応援します!」
「なんか二人だけの世界って感じよね。わたくしもあんな恋人がほしいわ……」
外野がうるさいが、オレは気にすることなくコルネリアを強く抱きしめると、そのおでこにキスをした。
「「「「「キャー!!!」」」」」
外野、特に女の子が黄色い声をあげ、ちょっと耳がキーンとした。
「お兄さま……。恥ずかしいです……」
「え? もう一回?」
「もう! 言ってません! でも……もう一回……」
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