表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/189

049 手袋

「お兄さま、おはようございます」

「ああ。おはよう、リア」


 いつものようにコルネリアと待ち合わせして、オレたちは教室へと歩いていく。


 爽やかな朝だな。学園には緑もたくさんあるし、目にも優しい。小鳥たちも囀り、まさに理想の朝と言った感じだ。


 だが、コルネリアは少し浮かない顔をしていた。やはり、気になってしまうか。授業が始まれば、コルネリアの力を見せる機会さえあれば、噂なんて一発で覆るというのに……。


 どうにかしてコルネリアを元気付けようと考えていると、オレたちの前に立ちはだかるように女の子の集団が現れた。


 まさか、またか? 面倒だな……。


 コルネリアがオレの腕に強く抱き付くのを感じた。


「あなたがバウムガルテン男爵ね。わたくしとの婚約、前向きに考えていただけたかしら?」


 女の子の集団の中心に居たのは、まるで自分のことを知っていて当然といった態度のモブだ。誰さ、君?


 女の子たちの顔を一つずつ確認して、オレは溜息を吐いた。彼女たちはネームドキャラじゃない。オレと一緒の……いや、見方を変えればゲームにおいて役割のあったオレ以下のなんの役割も持たないモブだ。モブの中のモブとも言えるだろう。


 教会で行われたギフト鑑定の儀式以来、オレのギフトが進化して聖者になったことは、瞬く間に全校生徒の知るところとなった。そして舞い込んだのは、無数の婚約や養子縁組のお誘いだ。


 目の前の彼女もその一人だろう。


 モブ同士お似合いなのかもしれないが、オレは好きな人くらいは自分で選びたい。


「ああ、それならお断りしたよ」

「はぁあ!? どうしてそんなことになるの!? わたくしは伯爵家の娘よ!?」

「どうしてもなにも……。あんたも親に言われて仕方なくオレと婚約しようってとこだろ? むしろ、好きでもない相手と婚約しなくてよかったじゃないか?」

「そうだけど! 男爵程度のあなたに断られるなんて屈辱よ!」

「えー……」


 女心がわからん……。


「とにかく、オレの答えはお断りだ。あんたも好きな人が居るならそっちと婚約できるように親に頼んでみたらどうだ?」

「あなた、甘いわね……。貴族の女が恋愛結婚なんてできるわけないじゃない……。嫌いな甘さじゃないけどね」


 なんとも後味の悪い話だな。オレはコルネリアには幸せになってほしいよ。


「妹さんのことを考えているなら、そんな甘い考え捨ててしまいなさい。正体不明のギフトなんて気味の悪いもの、誰も欲しがらないわよ? まぁ、見てくれはいいから貰い手は居るでしょうけど……」


 コルネリアが、痛いくらいにオレの腕を抱きしめた。


 この世界でギフトの価値はとても高い。ギフトの貰えなかった奴は人にあらず。そんな考えがまかり通ってしまう世界だ。その中にあって、コルネリアの鑑定できないギフトは不吉の烙印を押されてしまったのだ。


 オレは同じく鑑定できなかった主人公のギフトが勇者だと知っているから平気だ。だが、この世界の住人には……。


 コルネリアはちゃんと好きな人を見つけられるかな? その人はコルネリアをちゃんと愛してくれるだろうか?



 ◇



 なんだか朝から嫌な気分になってしまった。


「お兄さま……」

「リア……。大丈夫。ちゃんとリアを愛してくれる人は見つかるよ」

「もう……。お兄さまがわたくしを貰って下さい」

「二十歳になったらね」

「約束ですよ? 絶対に忘れませんからね?」


 いつものやりとりだが、それでもコルネリアの顔色がちょっとよくなった気がする。


 だが、悪いことというものは重なるものだ。


「おい、バウムガルテン!」


 後ろから呼び止める声。振り向きたくないな。クレーメンスだ。


「なにか?」


 仕方なく振り向くと、クレーメンスとその取り巻きの二人が居た。本来なら、オレもここに加わっていたのか……。


 そんな感慨とともにクレーメンスを見ていると、彼はポカンと口を開けて、アホ面で動きを止めていた。なんなんだ?


 クレーメンスの視線をたどると、コルネリアを見ているようだ。


「おやぶん」

「ハッ!?」


 手下に呼ばれて、クレーメンスはまるで今気が付いたかのようにハッと呼吸を取り戻した。


「それが貴様の妹……か?」

「そうだが?」

「そ、そうか。貴様には父上の要請を無視し続けた罪がある。男爵ごときが思い上がるな! 皆の前でぶちのめしてやろうかと思ったが、気が変わった。俺様は寛大だ。その妹を俺様に差し出すのなら、今までの無礼を許してや――――」


 オレは気が付いたら左手の手袋を毟るように外してヒューブナーのクソガキに投げ付けていた。


 コルネリアを差し出せだと? そんなことが許せるわけないだろう? 悪い虫は早く駆除すべきだ。


 クレーメンスは地面に落ちた手袋とオレを交互に見ると、やっと理解が及んだのか、その醜い顔を一気に赤くする。


「これが貴様の答えか? どういう意味か分かっているんだろうなぁ!?」

「うるさい。吠えるな豚。無論、理解している。決闘だ、オーク野郎!」


 コルネリアを娼婦のように扱いやがって! 必ず後悔させてやるぞ! 必ずだ!

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。

下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。

☆1つでも構いません。

どうかあなたの評価を教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ