047 リーンハルト!?
「あの! 一目見て恋に落ちました! 貴女のお名前は?」
主人公君がコルネリアに告白する? なんでだよ!? そのセリフはメインヒロインであるこの国の王女に言うセリフだろ!?
そして、同じく王女に一目惚れしたクレーメンスに目の敵にされていじわるをされるのだ。そんな重大なイベントが、こんな序盤で狂うってどういうことだよ!?
たしかにコルネリアは世界一の美少女だとは思うが、こいつ、いくらなんでも節操無さすぎだろ!? その惚れっぽさとずば抜けた行動力が怖いよ!?
だが、コルネリアの気持ちはどうなんだ?
オレ的には主人公君はなしだが、当のコルネリアが主人公に惚れてしまう可能性はないか?
オレは嫌な予感がしてコルネリア抱き寄せた。
「あっ……」
コルネリアは抵抗せずオレの胸の中に収まった。そして、顔を赤くしてオレを熱っぽい表情でオレを見上げる。
まさか、コルネリアは主人公君のことが好きになってしまったのか!?
そんなコルネリアの様子を見て、主人公君がムッとした表情で口を開く。
「お前、誰だ?」
「あなたこそどなたかしら? まず自分から名乗るのが礼儀ではなくて?」
コルネリアの拒絶するような冷たい言葉が走る。よかった。コルネリアは主人公君に心を奪われたわけではないらしい。だけど、なんでこんなに高圧的なんだ?
「アルペンハイム男爵の子、リーンハルトです。お嬢さんのお名前も教えてください。あと、貴様の名前も」
なぜか主人公君に睨まれるオレ。オレがなにしたってんだ……。
「お兄さまへの無礼は許しませんよ」
「お兄さま? ひょっとして兄妹? なんだ、そういうことか」
主人公君から発生していた圧力が霧散した。そして次の瞬間には笑みを浮かべていた。なんだこの変わりようは?
「よろしく、お義兄さま」
主人公君から握手を求められる。こんな奴だが、将来の英雄だ。仲良くしておいた方がいいか。
「ディートフリート・バウムガルテンだ。ほら、リアも挨拶して」
「……コルネリア・バウムガルテンです」
「リアって呼ばれてるの? よろしくね、リア」
「あなたに愛称を許した覚えはありません」
コルネリアはツンツンしていた。よほど主人公君のことが気に入らないのか。はたまたこれがツンデレというやつか……。女心に疎いオレにはわからないな。後でコルネリアに訊いてみるか。
◇
「お前がバウムガルテンか?」
「うん?」
主人公君と別れ、適当な席に着こうと思ったら変なのに絡まれた。まるで鳥の巣のようなくしゃくしゃの茶髪。腹が出ている小太りの少年。もしかして、こいつがクレーメンス・ヒューブナーか?
「お前に……うん?」
その時、教室中が静かにざわめいた。何事かと周りを見ると、教室の生徒の視線は一点に集中していた。教室の入り口だ。そこにとんでもない美少女が居た。
蜂蜜のような輝く金髪。意志の強そうな釣り目な青い瞳。まさしくゲームのメインヒロインに相応しい美貌。エレオノーレ・ケスティング。この国、ケスティング王国の第一王女だ。
教室の皆がエレオノーレの美貌に魂を抜かれていた。
ゲーム通りなら主人公君がいきなり告白するところだが、彼はもうコルネリアに告白してしまった。さすがにエレオノーレに告白することはないだろう。
くそっ! オレの唯一の武器であるゲーム知識が、最初から歪んでしまった。
主人公君め、どうしてくれるんだ!?
ん?
袖を引っ張られる感覚に左下を向けば、コルネリアが頬を膨らませて責めるような視線でオレを見ていた。
そして、オレの腕にその無い胸を押し付けるようにして言う。
「もう、お兄さま? わたくしというものが居りながら、それはないんじゃない?」
たぶん、コルネリアは自分の胸を使ってオレを誘惑したいのだろう。だが、腕に返る感覚はまるで洗濯板のような肋骨の感覚だ。興奮するというより、なんだかかわいそうな気がしてくる。
「うんうん、そうだね。ごめんね?」
「お兄さま? なぜそんなかわいそうなものを見るような目を……?」
コルネリアの視線がエレオノーレとオレを見比べるように行き来して、そして、彼女は真理を覚ったようだ。
そうだね。エレオノーレの胸は十二歳にしては発達してるね。ちゃんと制服の胸元を押し上げている。将来的にもっと大きくなることをオレは知っているが。
「お兄さま? 女性の価値は胸だけじゃありませんよ?」
「オレもそう思うよ」
「わたくしもそのうち大きくなるもん……」
「うーん……」
母親もぺったんこだったし、それは望み薄かなー……。
そんなことを思っていると、ガタッと物音が聞こえた。主人公君だ。彼はなにを思ったのか、エレオノーレへと近づいていく。
まさか……な。
「あの! 一目見て恋に落ちました! 貴女のお名前は?」
あいつ言いやがった!? しかも、一言一句同じ! さすがに少しは変化をつけろよ! というか、お前はコルネリアに一目惚れしたんじゃないのか!? どうなってるの!? わけがわからないよ!?
「あの方、クズですのね。お兄さまはクズになってはいけませんよ?」
「はい……」
コルネリアの凍えるような冷たい言葉にオレは頷くことしかできなかった。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。
下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。
☆1つでも構いません。
どうかあなたの評価を教えてください。