046 リーンハルト
「ふぁあ……」
入学式の学園長の言葉を眠ってスキップした。どうして偉い人の話ってのは世界が違っても長いのかな? 長い話をすることが偉いとでも勘違いしているんだろうか?
「お兄さま、入学式で眠っていたのはお兄さまくらいよ?」
コルネリアが呆れたように見上げてくる。半目の赤い瞳がかわいらしい。
「リアも眠たそうだったじゃないか?」
「わたくしはちゃんと耐えました」
「耐えてもいいことなんてないでしょ?」
「もう、お兄さまったら」
コルネリアは呆れているが、ゲームでも入学式はイベントなんて起こらないし、スキップしても問題ないだろう。
「このあとはいよいよ教室だけど、リアは緊張してる?」
「少しだけ……」
「大丈夫。リアはかわいいからきっとすぐに人気者になるよ」
「か、かわ!?」
コルネリアの容姿は、兄の贔屓目をなしにしても圧倒的に優れていると思う。まさに女神が丹精込めて造り上げた美の結晶だ。
そんなコルネリアがゲームではヒロインになるどころか、登場すらしないのはおかしいと思う。やはり、ゲームでのコルネリアは、邪神の呪いによって亡くなっていたのだろう。
思えば、ゲームにおける敵モブD、ディートフリートは、破滅願望のようなものがあった。コルネリアを救うことができずに、絶望したのかもしれないな……。哀れな……。
「お兄さま、もう一回……」
「もう一回?」
「わたくしのこと、かわいいって……」
コルネリアがもじもじしながら潤んだ瞳でオレを見上げる。その可愛さたるや! アトミック級だ!
「かわいいよ、リア。リアはオレの誇りだ」
「きゅんっ!」
コルネリアが胸を押さえてくねくねと身をよじらせた。どうしたんだ?
「お、お兄さま、わたくしをあ、愛していますか?」
「もちろんだ。愛しているよ、リア。たとえ国が、世界が敵になっても、オレはリアのことを愛している」
「はうあ!?」
コルネリアの目から涙が溢れそうなほど瞳が潤み、とても他人には見せられないような赤い顔でオレを見上げてきた。
オレはとっさにコルネリアを抱きしめて、マントでコルネリアの姿を隠す。
さっきからコルネリアはどうしたんだ? オレとコルネリアは家族、それも魂を分け合った半身だ。愛しているに決まっているのに。
「お兄さまは危険すぎますわ……」
「オレにはリアの方が危険に思えるよ……」
こんな廊下の真ん中で、あんなまるで恋する乙女のようなトロトロ顔をさらしてはいけない。悪い虫が寄ってきてしまうではないか。シッシッ。
周りを行く同級生たちを睨んで威嚇していく。コルネリアが欲しければ、まずはこのオレを倒してからにしてもらおうか!?
「お兄さまはその……。わたくし以外には愛を囁いてはいけませんよ……?」
「リア以外には言わないさ」
「うふっ!? で、でも、お兄さまは……かっこいいから、きっと女子生徒におモテになってしまいます……」
そうなんだろうか? たしかに前世よりも整った顔をしているとは思うが、それこそ、コルネリアの身内贔屓な気がする。
「ほら、女房の妬くほど亭主モテもせずなんて言うじゃないか。リアの気にしすぎだよ?」
「わ、わたくしのことを女房と認めてくださったのですね!?」
「あーうん……。二十歳になったらね」
「約束ですよ?」
まぁ、あと八年もあるし、今年からは学園で過ごすんだ。コルネリアにも好きな人の一人くらいはできるだろう。
問題はコルネリアに恋人ができたとして、オレがそれに耐えられるかどうかだ。
オレはコルネリアに恋人ができることを望みつつ、同時に恋人の存在を拒絶している。
少なくともオレが認められる相手でなくては話にならない。
たとえば、主人公君なんてどうだ?
いや、あいつはけっこう節操無いからダメだな。ハーレムルートなんかに行かれたら最悪だ。オレが主人公君を殺してしまうかもしれない。
まぁ、なるようになるか……。
◇
教室のドアを開けると、それまでおしゃべりが続いていた教室がシン……と静まり返った。そして、教室の中に居る同級生たちは驚いたような表情で固まっていた。
コルネリアの美しさに魅入ってしまったのかな? まぁ、気持ちはわからんでもない。コルネリアは絶世の美少女だからな!
そんな中、オレは同級生たちの顔を一つずつ確認していく。ゲーム通りならばこの教室に主人公君が居るはずだが……?
「居た……!」
ゲーム通り整った顔をした黒髪の少年。『魔剣伝説』の主人公、リーンハルト・アルペンハイム!
リーンハルトは、口をあんぐりと開けてこちらを見ていた。
否、リーンハルトの視線を正確にたどれば、コルネリアを見ていることがわかる。
コルネリアに見惚れているのか? お前にはヒロインたちが居るんだから、それで我慢しろよ。まったく、面倒な奴に目を付けられたな。
そう思っていると、急にリーンハルトが覚悟を決めた顔をして立ち上がった。なんだか嫌な予感がする。
リーンハルトの奴が近づいてきやがった。
「あの! 一目見て恋に落ちました! 貴女のお名前は?」
おいおいおいおい! 何度見返しても、リーンハルトの黒い瞳はコルネリアを見ていた。
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