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045 王都、学園

「着きましたよ! ここが王都です!」


 馬車に乗って大きな城門をくぐると、そこは別世界のように人が溢れかえっていた。石畳の敷かれた大きな通り。石造りの建物も高く、人々の声には活気があった。


 なにもかもがバウムガルテン領とは違うな。東京とはいかないが、それに近い人口密度だ。さすが王都だな。


「人がうじゃうじゃと居ますね、お兄さま」

「リア……」


 そうだけど。人を虫のように表現するのはどうなんだ?


「ここは王都の入り口ですから、特に賑わっているエリアですね。向こうに行けば多少はマシになりますよ」


 オレたちの向かいに座ったベンノが柔和な笑みを浮かべて言った。


 馬車なんて高級品を持っていないオレたち兄妹は、ちょうど王都に向かう用事があったベンノの馬車に便乗して王都までやって来たのだ。


 まぁ、新たに王都に出店したのだ。王都に向かう用事があったのは本当だろうが、この時期じゃなくてもよかったに違いない。ベンノは、オレたち兄妹を気遣って馬車を用意してくれたのだと思う。


 やれやれ、ベンノには世話になりっぱなしだな。なにかで返せればいいのだが……。


 そういえば、ベンノが出店したマヨネーズ専門店は、たちまち販路を拡大して、マヨネーズが足らないという嬉しい悲鳴を上げているらしい。それと同時に、バウムガルテン印のディートリアの実も飛ぶ鳥を落とす勢いで売れているらしい。


 ベンノからマヨネーズの売り上げの一割を貰う約束をしているし、今年の税収が楽しみだな。


「このまま学園へと向かわれますか?」

「そうしてくれ。散策などは後日にしよう」

「えー……」

「リア、まずは荷物を片付けなくてはね」

「はーい……」


 初めて王都に来たコルネリアはテンションが高かった。馬車の窓にくっついて、流れる王都の景色を見入っていた。


 たぶん、学園を見たらテンション爆上がりするんじゃないかな?


 オレもゲームの画面を通してしか知らないが、さすが貴族の学校と思えるほど豪華だったと記憶している。


 まぁ、コルネリアが喜んでくれるのならなんでもいいか。


 オレとしてもいろいろとギミックがある学園には早く来たかった。


 オレは柄にもなくウキウキしていた。これではコルネリアのことを笑えないな。



 ◇



「すごい! すごい! すごい!」


 案の定、美しい学園の庭園を前にコルネリアのテンションは爆発した。目をキラキラさせて、口を開けっぱなしにしてすごいすごい連呼している。


「お兄さま! あれ! あれなあに!?」

「ああ、あれは噴水だよ。どういう原理かはわからないけど、水が噴き出るんだ」

「あれは!? あれは!?」

「あれは鐘楼だね。上の方に大きな鐘が見えるだろ? あれで時間を教えてくれるんだ」

「あれは!? ねえ、あれは!?」

「あれはキーウっていう動物だね。鳥みたいだけど、人を乗せて走ることができるんだ。馬よりずっと早いらしいよ」

「すごい! お兄さまはなんでも知ってるのね!」

「たまたまだよ」


 でも、ゲームを通してこの世界の秘密をいくつも知っているオレは、ある意味なんでも知っていると言えるかな。国家機密とかも知ってるし。


 やっとオレの知識チートの出番到来ってやつだ!


 まぁ、そんな感じでコルネリアの相手をしながら、オレは手続きをして男子寮の自室へとやって来た。男子寮は女子の侵入は厳禁だったので泣く泣くコルネリアとは別れたのだった。



 ◇



「お前たち、ご苦労だった。この後は、王都の屋敷で待機。仕事についてはベンノの指示に従ってくれ」

「かしこまりました」


 バウムガルテン領の屋敷よりずっと立派な寮の自室に荷物を仕舞った。荷物を運んだのは、バウムガルテンで礼儀作法などを学んだ者たちだ。


 バウムガルテン領からは、新たに六人の卒業生を王都に連れて来た。


 彼らは、これからバウムガルテンの王都の屋敷の整備と、ベンノとアルノーが営むマヨネーズ専門店で働くことになる。


 マヨネーズの製法は秘中の秘だ。口の堅い者が欲しいが、なかなか信用できる者を集めるのは難しい。


 そこで、バウムガルテンで学んだ卒業生の出番だ。バウムガルテンへの忠誠を刷り込まれた彼らなら、秘密を漏らさぬようにオレが厳命すればいい。扱いやすいのだ。


「ディートフリート様、夕食まではあと二時間はあるようです。この後はいかがなさいますか?」


 オレに問いかけてきたのは、爺の孫であるクラウスだ。十五歳の柔和な笑顔が特徴的な少年だ。


 本当なら爺やアヒムなどを連れてきたかったが、彼らにはバウムガルテン領の運営を任せている。


「二時間か……。けっこう時間があるな。一度、コルネリアと合流するか。クラウス、女子寮に行ってコルネリアに伝えてくれ。オレはここで待つ」

「かしこまりました。直ちに向かいます」


 速足で出ていくクラウスを見送り、オレはベッドに身を投げた。バウムガルテン領の自分のベッドとは比べ物にならないほどふかふかのベッドだ。


 ベッドを押すと、たしかに指に反発するような力を感じた。


 まさか、スプリングだと!? 王都のベッドはそこまで進んでいるのか!?


 ベッド一つでここまで敗北感を味わうとは……さすが王都だな……。

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