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041 マヨ

 バウムガルテンが組んだ商隊は、大成功に幕を閉じた。辺境伯領での売買だから邪魔が入るかと思ったのだが、そのあたりはベンノが取り計らってくれたらしい。ベンノに感謝だ。


 特に、ヒュドラの毒腺が高く売れたようだ。万々歳である。おかげで商隊は、持ちきれないほど物資を買う余裕があったようだ。


 そして、商隊が持ちきれなかった物資は、ベンノが近々バウムガルテン領に持ってきて来てくれるらしい。ベンノには感謝しかないな。多少礼に包まなくては。


 今は東村の復興が予想以上のスピードで進んでいる。元々簡単な作りの民家だったからか、もう半数近くは東村での生活を取り戻している。


 だが、農業用の道具が少ないようだ。そのあたりはベンノから買い上げて無料で配布することにしよう。


 東村からの税収は期待できないし、借金を返すために貯めておいた金をばらまくことになった。戦闘だけ見れば文句なしの勝ち戦だが、バウムガルテンが払うことになった代償は安くはない。


 それだけに森に火を放った犯人がわからないのは悔やまれる。


 まぁ、十中八九ヒューブナー辺境伯の使者だが。しかし、証拠が無ければ訴えることもできない。


 よく物語の中で貴族が平民にあらぬ罪を着せたりしているが、あれは貴族と平民という絶対的な身分の差があるからこそできるのだ。


 バウムガルテンとヒューブナーでは、絶対的にヒューブナーの方が強いからな。オレたちはただただ泣き寝入りすることしかできない。


 いつか、ぎゃふんと言わせてやる……!


「お兄さま? 難しいお顔してどうしたの?」

「いや、なんでもないよ、リア。それよりも今日は新しい卵の食べ方を教えてあげよう。おいしいぞ?」

「おいしいの好き!」


 コルネリアが頭突きをするようにオレの胸に飛び込んできた。オレはよしよしとコルネリアの頭を撫でる。


 コルネリアだけど、最近食いしん坊疑惑があるんだよなぁ。偏食家よりもよほどいいけど、コルネリアが太くなりすぎないように気を付けないと。


 もっとも……。


 スッとコルネリアの腰に手を滑らせてウエストを確認する。細い。細過ぎる。力を籠めれば折れてしまいそうなほどコルネリアのウエストは細かった。太り過ぎないように注意をする必要なんてないんじゃないかな?


「お兄さま、くすぐったい」

「ごめん、ごめん」

「早くおいしいもの食べさせてくれないと許しませーん」


 コルネリアはオレの右腕を取ると、そのまま抱き付いてきた。胸の柔らかさなど微塵もなく、ただただ肋骨の硬い感触がする。


 ごめんな……。お兄さま、コルネリアにひもじい思いだけはさせないようにがんばるから……!


 コルネリアは幼少期に邪神の呪いであまり食べることができなかったためか小さい。痩せ過ぎているほどだ。


 そして、もろもろの成長も遅れている気がする。


 二次性徴とかな。


 そのことにコルネリアが悩んでいないといいんだが……。


「早く行こっ! お兄さまっ!

「ああ」


 オレはコルネリアに引っ張られる形で厨房へと行くのだった。



 ◇



「領主様が考えた料理ですかい?」


 バウムガルテン家お抱えのコックは、怪訝そうな顔をしてオレを見下ろした。


「正確には料理ではなくソースだな。野菜やディートリアの実にもよく合うはずだ」

「はぁ」

「まぁ、騙されたと思ってオレの言う通りにしてくれ」

「はぁ、わかりやした」

「まず用意するもの。それは卵黄と塩、酢、そして油だ」

「へい」

「まずは卵黄二つで作ってみるか。卵黄に塩と酢を加えてよくかき混ぜるんだ」

「へい。あまりない組み合わせですな……」


 コックはとりあえず疑問を飲み込むことにしたのか、オレの言う通りに動いてくれた。


 コルネリアはなにができあがるのかワクワク顔でコックの手元を見ている。


 コックの持つボウルの中には、クリーム色になった卵黄がかき混ぜられていた。


「次に、混ぜながら油を少しずつ加えていくんだ」

「へい」


 乳化反応を起こしてまったりとした白いクリーム状になっていく卵黄。こんなところでいいか。


「よし、完成だ」

「へい。なんだかソースというよりもクリームみたいですな。あっしは初めて見ました」

「ねえ、ねえお兄さま? 本当においしいの?」

「ああ。きっとリアも気に入ると思うよ。なにか適当な野菜の切れ端を頼む」

「へい。これでいいですかい?」

「ああ」


 コックから受け取ったレタスの切れ端にクリームを付けて食べてみる。コルネリアもオレの真似をして野菜を頬張った。


「おいひい……ッ!」

「ああ……」


 懐かしい。涙が出そうなほど懐かしい味だ。


「マヨネーズ、やっと完成した……」


 思えば卵が無い状態からのスタートだったな。ようやくここまで来た。


「まよねーず? そんなにうまいんですかい?」


 料理人のサガなのか、コックが興味津々にマヨネーズを見ていた。オレの後ろに控えている爺も真剣な目でマヨネーズを見ている。


「ああ、食べてみろ。爺も遠慮するなよ」

「では、ご相伴にあずかります……。むぐッ!?」

「へい、いただきやす……。これはッ!?」

「うまいだろう?」

「はい。初めて野菜をおいしいと感じました。これがまよねーず……!」

「坊ちゃん! こいつぁ世界を取れますよ!? 絶対に売り出すべきです!」


 コックの圧がすごい。世界を取れるなんて大袈裟な。だが、売り物が増えるのはいいことだな。だが、バウムガルテンで作って運んでいては賞味期限が過ぎてしまうだろう。


 ベンノに売ってみるか? そして売り上げの一部を貰う形にすればいいだろう。少しは東村の復興資金の足しになるだろう。


 野菜を食べ終わった今、皆がマヨネーズに釘付けだった。食べたいとその顔に書いてある気がした。


 この世界の人間の舌にもマヨネーズは合うようだな。さすがマヨ。マヨラーとして鼻が高いぜ。

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