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040 不幸中の幸い

 飲めや歌えやの宴会は一日かけて行われた。


 そして、日常に戻ってきたわけだが、問題が山積みだ。


 一番の問題は、東村の復興という問題だった。


 改めて視察したが、東村はボロボロだ。民家は壊れて使用できないし、村中にモンスターの亡骸が転がっている。衛生的にもマズい状況だ。


 とくにゴブリンの亡骸が多いが、数は少ないがイノシシの亡骸もあったのは不幸中の幸いだろう。貴重な食糧になる。


 不幸中の幸いはまだあった。それはジャガイモだ。


 小麦はモンスターに畑を踏み荒らされてダメになっていたが、ジャガイモは踏み荒らされた畑でも実が地中にあるためか被害はゼロに等しかった。


 これでなんとか村人が冬を越せるだけの食料を確保できたのは僥倖ぎょうこうだった。


 そして、不幸中の幸いと言えば、オレとコルネリアの評価が爆上がりしたこともある。今まで貴族だから敬われていたが、領民はオレのことを坊ちゃん呼びで、どこか子どもだと侮る雰囲気があった。


 だが、それが無くなった。領民はオレのことを領主様と呼び、自分たちの上に立つ者として認めたのだ。


 ようするに、先代からの恩があるため、なんとなくで従ってくれていた領民が大半だったのに対し、領民たちがオレの才覚を認め、オレをバウムガルテンの領主に相応しいと認めてくれたのだ。


 まぁ、不幸中の幸いはいくつかあるが、現状が不幸なことには変わりはない。


 せっかく領民たちの信用を得たのだ。すぐにでもなにか対策を打たなければならない。


 そこで、オレは祭りに集まっていた東村、南村、西村、そして本村の住民を引き連れて、東村にやってきた。


 まず始めたのは、モンスターの亡骸の処理だ。涼しくなってきたとはいえ、放っておけば疫病が流行るかもしれない。


「いいか? ゴブリンとオークは右耳を切り取って森に捨ててこい。アッシュウルフは毛皮を剝げ。スライムの核を回収しろ。イノシシはできるだけ食肉にしろ。以上だ。それぞれ動け!」

「「「「「おぉお!!!」」」」」


 ゴブリンとオークは数が多い。いつもなら気にせずに捨ててしまうが、今回は討伐した証として右耳を切り取る。こいつを冒険者ギルドまで持っていくと、報奨金が貰えるのだ。


 そして、アッシュウルフの毛皮とスライムの核は安いが売れる。今は少しでも金が欲しい時だ。残さず回収する。


 回収したゴブリンとオークの右耳、アッシュウルフの毛皮、スライムの核などは、商隊を編成して他領に売るつもりだ。


 その売上金とそれにプラスしてバウムガルテンからの見舞金で、東村の失われた家財道具などを買ってくる予定である。


 どうせだから、溜まっている解呪した呪いのアイテムも売りに出すか。輸送費が抜ける分、いつもより多少高く買ってもらえるだろう。


 あとは……。


 ガチンッ! ガチンッ! ガチンッ!


 オレの目の前には、大きなヒュドラの頭があった。さすがは不死身と言われるヒュドラの中央の首だ。元気に口をガチンッと鳴らして威嚇している。


 まぁ、首だけだからな。威嚇されてもなにも怖くない。


「お兄さま、これどうするの? アン・テイカーする?」

「しないよ」


 不死身と言われるヒュドラの中央の首も、さすがに【アン・テイカー】の威力には消滅するしかないだろう。


 だが、オレはそんなもったいないことはしない。


 このヒュドラを有効活用するつもりだ。


 オレはナイフを取り出すと、ヒュドラの首の後ろへと回り込む。


「お兄さま?」

「いいかい、リア。ヒュドラの首には、毒を作る毒腺があるんだ。


 オレはヒュドラの硬い鱗を剝ぎ取り、その頬の下辺りをザクザクと掘り進んでいく。


 ヒュドラの硬くて大きい鱗。これは鎧に利用できるかもしれないな。後で剝ぎ取るように命じておこう。


 そして、しばらくヒュドラの頬の下辺りを掘り進めると、白い大きな袋状のものが見えてきた。たぶん、これがヒュドラの毒腺だろう。オレは丁寧に毒腺をくり抜いていく。


 ヒュドラの肉を切るたびに毒の血が噴き出し、猛毒の瘴気が溢れる。だが、万能解毒魔法である【ポイズナ】を使えるオレにとっては、さして問題にはならない。


「よしっと」


 そして、ヒュドラの毒腺を切り離して持ち上げる。毒の原液が入っていそうなちゃぷちゃぷとした大きな袋だ。毒腺をキュッと縛ると、砂を敷いた箱に入れて回収する。


「お兄さま、それどうするの? 食べるの?」

「食べないよ」


 コルネリアはお腹が空いているのかな? さすがにヒュドラの毒腺を食べるという発想はオレにはなかった。


「ヒュドラの毒腺は高値で売れるんだ。錬金術で使う素材らしいよ。そして、オレたちには、永遠に回復する不死身のヒュドラの頭がある。どういうことかわかるね?」

「うーん……。お肉食べ放題……?」

「……リアってそんなに食いしん坊だったっけ?」

「ッ! ち、ちがうもん!」

「まぁ、オレたちはヒュドラの毒腺を取り放題。そして、それは高値で売れるってことだよ。いやぁ、これも不幸中の幸いって言うのかな? ヒュドラを見た時はどうしようかと思ったけど、まさか打ち出の小づちが得られるとは!」

「うちで? こづち……?」

「叩くとお金が出てくるハンマーだよ。オレたちにとってはこのヒュドラの頭だね」


 これでもう貧乏とはおさらばだ!

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