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039 目撃情報

「「「「「かんぱーい!!」」」」」


 執務室の窓の向こう。屋敷のある本村はお祭り騒ぎだった。今日ばかりは屋敷の子どもたちも外出許可を与え、このバカ騒ぎを楽しませている。


 屋敷の食糧庫も開放し、いざという時に溜め込んでいた食糧も持ち出しの許可を出した。


 毎年の収穫祭よりも賑わっているような気がする。娯楽が無く、刺激に飢えている田舎だからな。スタンピードという危機も過ぎてしまえば祭りの種にしかならない。


 逞しいといえばいいのか、なんというか……。


 東村の森が燃えたのを発端としたモンスターのスタンピードは、犠牲者ゼロという奇跡で乗り越えることができた。自分を褒めるわけではないが、やはり治癒のギフトを持っているオレが居たからだろう。


 それに、コルネリアのおかげで崩壊のピンチも乗り越えることができたし、その素早い討伐で村人たちの負担が少なくなったことも大きな要因だ。もちろん、アヒムたち常備兵の皆や、村人たちの奮闘もある。


 スタンピードの後、オレたちは応援に来た本村や南村の奴らと一緒に残党狩りをして、ようやく本村に戻ってきた。


 丸一日以上戦い続けたオレたちは、ここでやっと休むことができた。戦闘の余韻で昂った精神が落ち着くと、まるで繰り糸が切れるように眠りについた。


「飲め飲め! 酒なんて、こんな時じゃないと飲めねえぞ!」

「がはは! ちげえねえ!」

「領主様とお嬢様、そして東村の奴らに乾杯だ!」

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

「いいぞー! 飲め飲め」

「飲ま飲まいえい!」


 そして、遅れてやってきた西村の奴らも合流してこのバカ騒ぎだ。


 まぁ、スタンピードなんてバウムガルテン領存続の危機を乗り切ったんだ。オレも誇らしい気持ちはある。本当ならオレもあの連中に混ざって酒でも飲んで騒ぎたい気分だ。


 だが、どうやらそんな贅沢はオレには許されないらしい。


「それで、本当なのか?」


 オレは窓を閉めて爺を見上げる。これから話す話は、どこにも漏らすわけにはいかない。自然と小声になった。


「はい。確信は得られませんでしたが、東村にヒューブナー辺境伯の使者が現れたのは事実のようです」

「そうか……」


 バウムガルテン領は、王国最東端の領地だ。その玄関口は西村になる。当然、ヒューブナー辺境伯の使者も西村を通って本村にやってくるのだ。そして、今までヒューブナー辺境伯の使者が東村に行ったことはない。今回を除いては。


 ヒューブナー辺境伯の使者が初めて東村に現れた。そして、東村の森が燃えた。これは偶然だろうか?


「ヒューブナーの使者が森に火を放った可能性はあるか……」

「坊ちゃま、滅多なことは……」

「だが、爺。これは極めて重要なところだ。ちゃんと現実を見なければいけない。使者の裏には必ずヒューブナー辺境伯が居る。奴の狙いは何だ?」


 オレがまったく命令に従わなかったことに対する報復か?


 いや、そんな子どもじみた発想でこれほど大きな事件を起こすか?


 下手をすれば、オレもコルネリアも、このバウムガルテン領ごと失われないほどの大事件だぞ?


 なにか裏があるのか?


 もし、オレが普通の貴族だとしたら。寄り親であるヒューブナー辺境伯に助けを求めるだろう。ヒューブナー辺境伯に借りを作る形だ。これが狙いなのか?


 だが、たかが木っ端貴族に借りを作らせるためだけに自分の身を危険にしてまでこんな大事件を起こすのか?


 ヒューブナー辺境伯といえばゲームでは無能を絵に描いたような人物だったが、それにしてもこんなバカなマネをするのか? 他領の森に火を放つとか、辺境伯という高位貴族でも処刑は免れないほどの重罪だぞ?


 追求しても辺境伯までたどり着けないようになっているのか?


 だとしたら、ありえるか?


「……わからんな……」

「坊ちゃま?」

「わからんが、ヒューブナー辺境伯の動きには要注意だ」

「ですが……」

「べつにこちらから積極的に敵対するつもりはない。影響力も戦力もまるで違うからな。勝てない勝負はしない。爺、小さい、弱いというのは惨めだな……」

「坊ちゃま……。宮廷に陳情するわけにはまいりませんか?」

「止めておけ、意味が無い」


 本来ならすぐにでも宮廷に調査団の派遣をお願いしたいくらいだが、悲しいかなバウムガルテンには宮廷への伝手なんてない。


 たとえ宮廷に陳情し、調査団が派遣されたとしても、ヒューブナー辺境伯の意をくんだ人選になるだろう。意味が無い。


 そして、オレたちが血眼になって探しても決定的な証拠は見つからなかったのだ。最悪の場合、調査団を派遣してもらってもバウムガルテンの自作自演なんて言われてしまうかもしれない。


 詰んでいる。


 東村は戦場になってボロボロだ。バウムガルテンは村を一つ失ってしまった。当然、税収も減るし、村人の住む場所や食べ物だって足りなくなる。


 こんな時に頼れるのは寄り親だが、ヒューブナー辺境伯では安易に頼ることはできない。それが向こうの狙いかもしれんからな。


 決定的な証拠はなく、ヒューブナー辺境伯が怪しいというだけだが、ゲームでは将来破滅するヒューブナー辺境伯には借りを作りたくない。


 どうすればいいんだ……。

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