038 ヒュドラ
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「GYAUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!?」
バッハがヒュドラの断たれた首の傷口を燃やしている間にも、ヒュドラの首が斬り飛ばされる。コルネリアだ。
コルネリアはヒュドラの首の傷口から溢れた血や瘴気にすら触れることなく可憐にヒュドラを翻弄している。見間違えじゃなければ、なにもない宙を足場にして空を跳ねているように見える。
すげーなおい。どうなってるんだよ?
まぁ、もろもろの疑問は後だ。今はヒュドラの首の傷口をなんとかするのが先決だな。
「あぁぁああああああああああああああああ!」
バッハはまだ傷口を焼き焦がすのに必死だ。ここはオレがやるべきだろう。
「ヒール!」
オレが【ヒール】を使うと、ヒュドラの断ち切られた首の傷口が緑の光る粒子に包まれる。
これからオレがやることは賭けだ。賭けに失敗すれば、オレはただヒュドラを回復しただけの戦犯になるだろう。
だが、できるという確信がオレの中にはあった。もしかしたら、治癒のギフトがオレに囁いたのかもしれない。
光る緑の粒子が晴れた。そこには、頭が再生することなく傷口が治ったヒュドラの首があった。
成功だ!
オレの使った【ヒール】は、【レッサーヒール】とでも呼ぶべきものだ。通常よりも聖力の消費が少なくし、傷口の再生を阻害し、その状態で傷を塞いでしまう。ヒュドラのような強力な再生能力を持つモンスターにはもってこいだ。
「次だ! どりゃああああああああああああああああああああ!」
身を張ってヒュドラの首の傷口を焼き焦がしているバッハには悪いが、【レッサーヒール】の方が安全で早いな。バッハを下げよう。
「バッハ! 無茶をするな! 代替手段が見つかった!」
「俺ならまだいけます! うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
なぜかは知らないが、今のバッハはやる気に満ちているらしい。
「ヒール!」
オレはバッハを【ヒール】で癒した。バッハが使えるなら、その分早くヒュドラを倒すことができる。バッハがやる気ならば、任せよう。
「えいっ!」
「GYAUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!?」
また一本、コルネリアによってヒュドラの首が落ちる。
「レッサーヒール!」
すかさず【レッサーヒール】で首の傷口を塞ぎ、頭の再生を抑制した。
「ヒール! ヒール! ヒール! レッサーヒール!」
合間合間に味方を治癒して回り、ヒュドラの首が落ちたら即座に【レッサーヒール】を叩き込む。
「斬撃ッ!」
「次だ! うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
アヒムたちやバッハの働きもあり、ヒュドラの首は中央の一本を残すのみとなった。だが、この中央の一本が厄介だ。ヒュドラも追い詰められていることを覚っているのだろう。めちゃくちゃに暴れまわって手が付けられない。
「坊ちゃん! ワシのスキルを使います!」
「アヒム?」
「ワシの【斬撃】のスキルなら、ヒュドラの首を刎ねることができます! 坊ちゃんはすかさず再生の妨害を!」
「わかった!」
アヒムには手があるらしい。アヒムを信じよう。
「はぁぁぁぁぁぁ……」
アヒムが大きく息を吐いて、剣を大上段に構えた。
「ッ! 斬撃ッ!」
アヒムは目の前のなにもない空間に渾身の力で剣を振り下ろした。
その瞬間――――ッ!
まるでアヒムに斬られたかのように、ポロリとヒュドラの最後の首が落ちる。
「レッサーヒール! レッサーヒール!」
オレは即座にヒュドラの断たれた首と頭、両方に【レッサーヒール】を唱えた。
どさりとヒュドラの最後の頭が大地に落ち、残された胴体も次第に動きが鈍くなっていく。しかし、断たれたヒュドラの中央の首は、まだまだ元気に口をパクパクさせていた。
ヒュドラの中央の首は不死なのだ。
「坊ちゃん!、まだ首が!?」
「アヒム、首は持ち帰るぞ! だが、今は捨て置け!」
「えぇえ!?」
持ち帰るのは予想外だったのか、アヒムが素っ頓狂な声をあげる。
たしかにヒュドラは危険だから滅ぼしてしまいたい気持ちはわかる。
完全にヒュドラの首を滅ぼす方法が無いわけではないが、それよりも有効活用したいところだ。
「お兄さま、大丈夫なの?」
「心配ないよ」
オレは心配そうに見上げるコルネリアの頭を撫で、未だに燃え続ける森へと視線を移した。
ヒュドラほどの大物は居ないし、モンスターの勢いも無くなってきたが、それでもまだスタンピードは終わらない。
「気を引き締めろ! スタンピードはまだ終わっていない! 全員、武器を手に取れ!」
「「「「「おぉおおおおおおおおおお!!!」」」」」
オレの言葉に力強い喊声が返ってくる。
「もう少しだ! スタンピードを乗り越えるぞ!」
その後、ポツポツとモンスターが襲い掛かってきたが、オレたちは危なげなくそれを撃破した。
一昼夜も続いたスタンピードは、もはや残党狩りの様相を見せ始め、こうしてバウムガルテン領最大のピンチをオレたちは切り抜けたのだった。
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