036 アン・テイカー②
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオゴゴゴゴゴゴオゴゴゴゴゴゴゴオッ!!!
一瞬で地面を融解し、野太いレーザーはその通り道にあるものを瞬時に蒸発させた。現れたのは、まるでヤスリをかけたかのように真っ平な赤い大地だ。
これは現実か?
現実なのか夢なのかも判断できないほどの極大の威力だ。やはり【アン・テイカー】は最強だ。
「はぁ……、はぁ……」
その扇状の天変地異の頂点に居るのがコルネリアだ。コルネリアは、肩で息をして苦しそうにしていた。
オレはすかさずコルネリアの体を支えた。
「ヒール」
緑の輝きがコルネリアの体を包むと、少しだけコルネリアの呼吸が楽になる。
「お兄さま……」
「よくやった、リア。リアのおかげでピンチを脱することができた」
「えへへ」
柔らかく笑うコルネリアの頭を優しく撫でる。
ホッと一息付けたと思ったが、周りの反応はそんな和やかなものではなかった。
「なんだ、あれは……?」
「動いてる……ッ!?」
「あれは、まさか!?」
押し寄せるモンスターを一掃したというのに、村人たちの反応は力ないものだった。まるでなにかを恐れているような……。普通は拍手喝采じゃないのか? なにを恐れているんだ?
村人の視線の先を見ると、焼けただれた大地に巨大な丸い物体があった。
丸い物体からは、九本の蛇が生えているように見えた。
あの特徴的な格好。まさか、いや、そんな……。
「ヒュドラ……?」
ヒュドラ。
本来は水辺に生息する多頭龍のはずだ。なぜこんな森の中に居るんだ!?
頭を斬られても瞬時に再生するその強力な再生能力と、全身の血が毒になっており、傷付ける度に猛毒の瘴気を発することから、かなり討伐難易度が高いモンスターだ。
少なくとも、こんな序盤で出てきていいモンスターじゃない。
そんな厄介なモンスターがなぜここに!?
夢であってほしい。せめてゲームの中のできごとなら、強敵の登場に興奮したかもしれない。だが、これは現実だ。コルネリアの命がかかっている。
負けるわけにはいかない。
「ぇ……? あれ、何……?」
コルネリアもヒュドラの存在に気が付いたようだ。コルネリアの【アン・テイカー】を受けて生き残った存在。まさか【アン・テイカー】を受けて無事な存在が居るとは、コルネリアも思わなかっただろう。大きな目を丸くしている。
おそらく、コルネリアのレベルがまだ低かったから、ヒュドラはかろうじて生き残ったのだろう。【アン・テイカー】で消えればよかったものを……。
ヒュドラの周りには、目視で確認できるほど紫の煙が漂っていた。たぶん、毒の瘴気だ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
触れれば危険だと本能で分かるほど濃い毒の瘴気に突っ込んでいく一団があった。アヒムを始めとした常備兵の連中だ。少しでも時間を稼ごうというのだろう。だが、あれでは自殺しに行くようなものだ。
早く助けなければ。
だが……。
コルネリアを連れて行くべきか?
オレはコルネリアを見た。コルネリアの体は震え、唇は紫になっている。恐怖しているのだ。
コルネリアに村人の避難を任せるという手もあるが……。
「お兄さま! 早く行かないと!」
しかし、コルネリアは震える声で言った。
ヒュドラが危険なことはわかっているだろうに。それでも戦う意思を示した。
コルネリアを安全な後方に逃がしたい思いは当然ある。しかし、オレにはコルネリアの意思を曲げることはできない。
オレがコルネリアを護るんだ! 絶対に!
「あいつは今までのモンスターとは違う。よくよく注意するんだよ?」
「うんっ!」
コルネリアは恐怖をねじ伏せ、一人前の戦士としてガラスの大地を駆ける。それを見て、オレは右足を踏み込んで弾かれるように飛ぶのだった。
◇
「大きい……!」
コルネリアの言葉通り、ヒュドラはずんぐりと巨大だった。まるで幻のツチノコみたいな形だ。その胴体は民家よりも更に大きく、その大きさはバウムガルテンの屋敷にも相当しそうだ。
そして、ヒュドラはその巨大な胴体から九本もの長い首が伸びていた。その内の一本の首が刎ねられているが、見る見るうちにもりもりと肉が膨らみ、首が復活する。ヒュドラの再生能力は健在のようだ。
ヒュドラを倒すためには、九本ある首をすべて刎ねなければいけない。
そのためには、首の再生を妨げなくてはならないが、こちらには炎を操るバッハが居る。バッハに刎ねた首の傷口を燃やしてもらおう。
だが、それだけでは不足かもしれないな。
一応、思い付いた策が無いわけでもないが……。
試してみるか。
「行こう、リア。ヒュドラの首をすべて落とすんだ!」
「うんっ!」
やることが明確になったからか、コルネリアの返事には勢いがあった。
やることは単純明快。コルネリアが首を刎ねる。そして、オレとバッハが首の再生を阻止する。それだけだ。
「オールヒール! ポイゾナ! 待たせたな! 全員、リアに続いてヒュドラの首を刎ねろ! バッハ! お前が首の傷口を焼き焦がせ! それで首の再生を阻止できるはずだ!」
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