035 スタンピード②
「アン・リミテッドッ!」
オレは迷わず足を潰すことに決めた。
右足で踏み込み、飛ぶ。
「ヅアッ!」
景色が高速で流れ、瞬く間にオークに接近したオレは、オークに左足で飛び蹴りを喰らわせると、更に左足でオークの腹を踏み込み、三角飛びをするようにもう一体のオークの顔に盾ごと突っ込んでいく。
「BUGYA!?」
オークの突き出た鼻を盾で叩き潰した。
「お兄さま!?」
「リア! 一人で突っ込むな! オレを信じろ!」
コルネリアに襲い掛かっていたオークたちを吹き飛ばし、オレは地面をゴロゴロ転がった。両足が潰れているため立てないのだ。カッコ悪いことこの上ないが、四の五の言っていられるような余裕はない。
「ヒール!」
【ヒール】で潰れた両足を治して立ち上がると、吹き飛ばしたはずのオークが立ち上がるのは同時だった。アヒムたちは未だに遠い。
「行くぞ、リア! 自分一人で戦おうなんて思うなよ! オレが必ず助けてやる!」
「うん……。うんっ!」
返事と同時にコルネリアの姿が消える。
「GUBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
そして、コルネリアが現れるのとオークが悲鳴を上げるのは同時だった。
オレにはコルネリアの姿を追いかけることも叶わなかった。オレとコルネリアとの間には半端な努力では埋められないほどの距離が横たわっている。そんなことはわかっている。
ギフトの差は無情だ。
だが、オレはコルネリアに追いつきたいのだ!
「アン・リミテッド!」
オレは両腕に暴力的な力を宿すと、コルネリアを狙うオークの目の前に立ちふさがった。
「BUHO!」
「グッ……!」
オークの振り下ろした棍棒をシールドバッシュで弾き上げる。体も小さく、筋力も無いオレには、オークの一撃を弾き返すなど普通は無理だ。
だから【アン・リミテッド】を使う。どんなにオレの腕が粉々に砕けようとも、コルネリアのためになるのならば、その痛みに絶望なんてしない。
「だりゃッ!」
左腕が千切れそうなほどの痛みを無視して、オレは剣を握った右腕をオークの腹目掛けて振るった。
ビュウッ!
風さえ切り裂いたオレの一撃は、オークの腹を両断する。
腹から上下に分かれたオークの目には驚愕があった。だが、オレはそんなものを無視してコルネリアの元へと駆ける。
「ヒール」
砕けた両腕をヒールで治し、コルネリアの背中を狙うオークへと突撃する。
コルネリアは今の一瞬で更に二体のオークを片付けていた。残りのオークは二体。その後は、更にオークの討伐が控えている。休憩など無い。
「アヒム! あちらのオークに向かえ!」
「はっ!」
「アン・リミテッド……」
アヒムに指示を出し、残り二体のオークへと盾を構えた。そして、コルネリアの動くと同時に、オレはオークへと飛んだ。
オークの知覚を超えるスピードで接近し、オークの太い首を刎ねる。
隣を見れば、コルネリアもオークの首を刎ねたところだった。
まったく、コルネリアは呆れるぐらい強いな。こっちが【アン・リミテッド】を使って無理やり強化してやっと背中が見えるレベルだ。
「ヒール……」
地面に着地する前に【ヒール】で足と腕を治し、オレはコルネリアの状態を確認する。
コルネリアに怪我はない。だが、コルネリアは肩を上下させて大きく呼吸していた。体力を消耗している。いくら無敵のコルネリアでも、体力不足では技の冴えは落ちるだろう。
「ヒール」
オレがコルネリアに【ヒール】を唱えると、輝く緑の粒子がコルネリアを優しく包み込む。少しだけコルネリアの息が落ち着いたようだ。
試しにやってみたけど、もしかしたら【ヒール】には怪我の治癒以外に体力の回復の効果もあるのかもしれないな。コルネリアが荒い息をついているのに、【ヒール】を頻繁に使用しているオレは息切れしていない。
「オーク、数七!」
「スパイダー、六体向かってきます!」
「ムカデ、その数、三!」
「オーク、四体!」
「ラプトルが三体向かってきます! 増援を!」
「カブトムシ、来ます! その数、四体!」
「イノシシ、二!」
「カブトムシ、こっちは五体だ!」
「ラプトルが七体。こっちに来た!」
「クソッ!」
怒涛のごとく救援要請がくる。完全にキャパオーバーだ。一度にその数のモンスターを相手にすることはできない。恐れていたことが起きた。これがスタンピードか……ッ。
オレは一枚しかない手札を切ることを決めた。
「リア! アン・テイカーだ!」
「ッ!? うんっ!」
今までどんなに苦しくても切らなかった鬼札。コルネリアに負担を強いてしまうのは忸怩たる思いだが、こうなっては仕方がない。
コルネリアが剣を水平に構えた。テレビの画面越しに幾度となく見たゲーム内の最強のスキルの発動準備。
それが今、解き放たれる!
「アン・テイカァァアアアアアアあああああああああああああああああああああ!」
コルネリアの剣が輝き、その輝きは一瞬でまるで野太いレーザーのように展開する。
そして、コルネリアはまるでバットを振るように剣を水平に振ったのだった。
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