034 スタンピード
村長の演説でなんとか男たちがやる気になってくれたのはよかった。やっぱり、オレみたいな若造にはない言葉の重みがあるのだろう。羨ましい限りだな。
「お兄さま、よかったね!」
「ああ。リアも頼んでくれてありがとな」
「うん!」
「坊ちゃん、配置完了しました」
「アヒム、よくやった」
村の男たちを含めた配置は、アヒムに任せた。オレも勉強しているが、今はまだオレよりもこういったことは上手いからな。餅は餅屋。任せた方がいいだろう。
「村人たちを線のように配置して、我々が遊撃隊か……」
「はい。村人たちは村の防衛線に使います。そして、防衛線が喰い破られそうな所に我々が適宜移動する形です」
そして、防衛ラインは村の中に引かれている。村人たちは民家の角に隠れて、モンスターを伏撃する形だ。
村人たちは、戦闘訓練を受けているわけではないからな。不意打ちでモンスターを倒せればよし。倒せなかった場合には、我々が急行する。
これでなんとかなればいいが……。
「まずは村人たちを魔法で強化しないとな」
オレが村人の付与できるのは【プロテクション】、【ヘイスト】、【リジェネーション】の三つしかないが、これがあるだけで死亡率は大きく下がるだろう。
できれば一人も死なせたくはないが……。虫のいい話かもしれん。
◇
「来ました! アッシュウルフです!」
村人たちに魔法を付与して回った直後、さっそくモンスターの襲撃があった。
敵はお馴染みのアッシュウルフだ。大火の中を来たからか、所々焦げているし、怪我も負っているようだ。
アッシュウルフの怪我は、おそらく縄張り争いに負けた時に負ったものだろう。炎によって住処を奪われ、逃げた先で縄張り争いに負け、そして炎の先に活路を見出したモンスターたち。
そう考えると、モンスターもかわいそうなものだが、共存できない以上、降りかかる火の粉は払い除けるしかない。
「来ました! スライムが四体!」
最初の内だからまだ襲ってくるモンスターの数はまばらだ。村人たちだけでも駆除できている。このまま済めばいいのだが……。
「ゴ、ゴブリン! その数二十!」
「二十……」
そろそろオレたちの出番か。
「出るぞ!」
「うん!」
「かしこまりました! 行くぞ!」
「「「「はい!」」」」
コルネリアやアヒム、バッハたちの言葉に勇気付けられ、オレはゴブリンたちを討伐するべく動き始める。
「あれか」
実際にゴブリンたちを見ると、ゴブリンたちは手負いだった。
だが油断はできない。手負いの獣ほど怖いなんて言葉もあるし、モンスターたちには最初から退路なんてない。つまり、襲ってくるモンスターは、死ぬか生きるかを賭した死兵なのだから。
◇
「ぐぅぅ……」
「ヒール!」
戦場を駆けながら、傷付いた村人を回復して回る。もう何度ヒールしたかわからない。
「立て! 武器を構えろ!」
「はい!」
男がふらふらとゆっくり立ち上がり、緩慢な動きで槍を構えた。男の服は、バケツでもひっくり返したように全身が血だらけだ。モンスターの血もあるだろうが、その大半は男の血だ。
これだけの血を流すほど、男は戦場の最前線で槍を振り続けたのだ。もう血が足りなくて意識も朦朧としているだろう。
いくら【ヒール】に造血作用があるとしても、それを上回る出血を強いられている。
このままではいつか倒れてしまうだろう。そうでなくてもモンスターに致命傷を負わされる可能性も高い。
だが、その瞳の輝きは死んでいなかった。
「任せたぞ!」
男が死ぬ可能性が高い。わかっていても今は男に頼る他なかった。戦線が崩れることだけは避けなけねばならない。
「オークです! その数、七!」
「行くぞ!」
オレは男に背を向けてオークが迫る区画へと駆け出した。
オークの相手は村人たちには厳しい。さっさと遊撃部隊で片付けなければ!
「オーク、四!」
「クソッ!」
モンスターの出現スピードは、もうこちらの処理限界を超えている。もうゴブリンやスライムなどの村人でも処理できるモンスターの報告は上がってこなくなって久しいほどだ。
村人たちは、自分たちで倒せるモンスターと戦いながら、自分たちではどうしても倒せないモンスターの情報を上げているのだ。
これ以上、村人たちに負担をかけるわけにはいかない。
「速攻でオークを潰すぞ!」
「うんっ! 私、行くね!」
「リア?」
コルネリアの体が加速する。
小さなその体のどこにそんな力が残されていたのか。コルネリアはぐんぐんと加速して、突出してしまう。
もうアヒムたちの体力も残り少ない。そのことにコルネリアも気が付き、自分一人でオークを片付けるつもりなのだろう。
たしかに、コルネリアの技量はオレもアヒムも届かない遥か彼方だ。
だが、今のコルネリアは万全の状態じゃない。自分ががんばって味方を護らないといけないと思い込んでいる。そして、焦っている。
そんな状態では……。
「えいやっ!」
コルネリアの剣がオークを容易く両断する。見事だ。だが、剣を振り切った状態のコルネリアに圧し掛かるように襲い来るオークが二体。
「ッ!?」
コルネリアが息を呑む音がここまで聞こえた気がした。
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