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033 護るため

「坊ちゃん、お嬢、どうか考え直していただけませんか? これは遊びではないんですよ?」

「くどい! 領主たるオレが逃げてどうするのだ! リアは逃げてもいいのだぞ?」

「私もお兄さまと一緒に行きます! 仲間外れは嫌です!」


 いや、仲間外れって……。なんだか本当に遊びに行くみたいだな。


 だが、これから行く所は遊び場所なんかじゃない。モンスターの大軍が押し寄せる危険地帯だ。そんな所にコルネリアが行くなんて気が狂いそうだが、コルネリアの意思を曲げることなんてしたくない。


 コルネリアはオレを護ると言ってくれた。おそらく、オレが行くのならどんな所にも付いてきてしまうだろう。オレもコルネリアを護るためならどこにでも行くからな。オレにはコルネリアの気持ちがわかってしまう。きっと止めても無駄だということも。


「リア、絶対に無理をするなよ? お兄さまとの約束だ」

「うん!」


 元気な返事が返ってくるが、本当に分かってくれたのならいいが……。


「爺、本村のすべてをお前に託す! 村を護れ!」

「はっ!」


 そして、オレたちはバッハたち常備兵と共に荷馬車に乗り込み、東村を目指した。


 舗装されていないガタガタの道を猛スピードで飛ばして東村に着くと、ゴウゴウと赤く燃える森が見えた。もう消火活動がどうのと言ってる規模じゃない。


「モンスターはまだ来ていないか……」


 もうスタンピードの発生を止めることはできない以上、それだけが救いだった。


「出るぞ! 荷馬車は東村の住民の退避に使わせろ。もう一刻の猶予も無い。東村の住人は家財を持ち出すことを禁じる。身一つで退避させろ。そして、働き手の男どもを徴収しろ。急げ!」

「「「「はっ!」」」」


 荷馬車に老婆や赤ん坊を乗せ、母親は歩かせる。身一つと命じたが、私物を持っている者が多い。小さい物なら見逃し、大きな物は無理やり置いていかした。中には小ぶりの箪笥を持ってきた者も居て、火事場の馬鹿力ってあるんだなぁと感心したくらいだ。もちろん置いて逃げてもらった。


 そして残ったのは、村の男たちだ。総勢三十七人。オレたちを含めれば、四十三人だ。


 オレは不安そうな顔の男たちに向かって口を開く。


「よく集まってくれた。貴様らには、これからスタンピードに立ち向かってもらう! 各々武器を取れ!」

「え!?」

「そんな……」

「クソッ……!」


 男たちの顔にはもう諦めが浮かんでいた。いかにも投げやりな雰囲気だ。


「なぜ、やり合う前から諦めているのだ?」

「なぜって……スタンピードだぞ!?」

「勝てるわけがねえ!」

「もうダメだ。お終いだ……」

「母ちゃん……」


 もう中には泣いている者さえ居た。こんな状態では兵隊として使い物にならない。


「めそめそするな! 顔を上げろ! お前らの背後には何がある? 誰が居る? お前たちの大切な家族じゃないのか? 家族を守ろうという気概を持った奴はいないのか?」


 オレの言葉に、男たちがピクリと体を震わせて恐る恐る顔を上げた。しかし、それは半数くらいだ。


「オレは領主だ。オレも領を護るために前線で全力を尽くすつもりだ」

「そんな……。やめとけってディー様!」

「ディー様まで死んじまう!」

「そうだ、あんたはこの領の希望なんだ。こんな所で死なないでくれ!」


 男たちからの意外な高評価に少し面食らってしまった。


 だが、オレは首を横に振って拒否を示した。


「皆も知っているだろう。オレのギフトは治癒だ! お前たちを無駄死にさせるつもりはない! だから、オレに力を貸してくれ!」


 オレは男たちに頭を下げた。いくらオレでも全体を指揮してすべての人間を死なせずに戦い抜くことはできない。それどころか、オレの命も危ういだろう。オレの言ってることは、男たちに死んでくれと言ってるようなものだ。


 だから必死に頼む。貴族のオレが平民に頭を下げるなんておかしいのかもしれないが、オレにはこれしかできない。


「ディー様……」

「そんな、もったいない!」

「顔を上げてください、ディー様!」

「頼む……」

「私からもお願いします!」


 凛とした声が響き、コルネリアも頭を下げるのがわかった。前世で日本人だったオレには頭を下げて頼むの当然のことという気持ちがあるが、この世界の貴族に生まれたコルネリアにとって、常識外の行為だろう。それだけに、コルネリアの気持ちが伝わってくる。


「ワシからも頼む! 皆、力を貸してくれ!」

「「「お願いします!」」」


 アヒムも、バッハたちも頭を下げてくれたことがわかった。スタンピードという数の暴力に、六人だけではとても太刀打ちできないのだ。


「ディー様、みなさん、顔を上げてくだされ。それでは話もできません」


 落ち着いた声に顔を上げると、初老の男の顔が見えた。たしか、東村の村長の男だ。村長は、この緊急事態に相応しくない透き通った笑みを浮かべていた。


「ますは不甲斐ない我々をお許しください。皆、スタンピードを前に恐れに取りつかれてしまったのです。しかし、今は違います。ディー様が我々には護るべきものがあると思い出させてくれました。命を懸けるに足る理由を思い出させてくださいました」


 村長が朗々と語る。


「ディー様、すべてを助けようとしなくてもかまいません。あなた様はただ私たちに死んでこいとお命じになるだけでよいのです」

「だが……」

「ディー様、あなた様は希望の欠片も無いこの土地に希望を見つけてくださいました。私たちはそのご恩返しがしたいのです。皆、そうだろう?!」

「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 先ほどまで諦めていた男たちはどこに行ったのか、男たちはうるさいまでの雄叫びで村長の言葉に応えた。


「さぁ、ディー様。護るための合戦といきましょう!」

「ああ!」

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