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031 魔の手

「バウムガルテンのクソガキがぁあああああああああああああ!」


 儂は飲みかけのワインの杯を床に叩きつけた。


 沸々と湧き上がる怒りの原因は、バウムガルテンのクソガキ、ディートフリートだ。寄り親であるヒューブナー辺境伯たる儂の要請を断るなど思い上がりも甚だしい。


 寄り子は大人しく儂の言うことさえ聞けばいいのだ。


 それを仮病を使ってまで断るとは……ッ! バウムガルテンのクソガキは常識というものがわかっていない!


「それで? バウムガルテンのクソガキは仮病まで使って儂の要請を断り、何をしているんだ?」


 儂が報告をもたらした騎士に尋ねると、騎士はブルリと身を震わせて答える。


「こちらに情報を売った主婦たちによりますと、最近は自身の訓練や、モンスター退治に精を出しているようです……」

「病人がモンスター退治か。よほどモンスター退治が好きなのだな。クソガキめッ!」


 まったく人をバカにするにもほどがある!


「いかがなさいますか? バウムガルテン男爵を無理やりにでもお連れしますか?」

「それだけでは儂の腹立ちは収まらん!」


 こうまでコケにされたのだ。なにか意趣返しをせねば怒りが収まらん。


 なにかいい方法はないか?


 バウムガルテンのクソガキを窮地に追い込むような……。


「……そうだ! バウムガルテン領の森にでも火を放つか!」

「辺境伯様!?」

「反対か?」

「森に火を放てば、住処を追われたモンスターがスタンピードを起こします! そうなれば、住民はもとより男爵のお命まで失う結果になりかねません……」

「ふん! 仮病を使って儂の要請を無視してまでモンスター退治を優先するバカ者など、死んでせいせいするわ! 優先順位もわからんバカめ!」

「ですが……。それでは仮にスタンピードをやり過ごしたとしても、領内がめちゃくちゃに……」

「これは決定だ! いいか? バウムガルテン領の森に火を放つのだ! 中途半端なボヤなどでは許さんぞ? スタンピードが起こるまで森を燃やせ! モンスター退治の大好きなクソガキなら泣いて喜ぶだろうよ」

「辺境伯様……」

「儂からは以上だ。もう下がれ」

「……はっ!」

「くくく……」


 慌てふためくクソガキの顔が見れないのが残念でならんな。


「父上、ご機嫌ですね」

「おお、クレーメンスか。なに、寄り子の分際で儂の要請を断り続けるバウムガルテンのクソガキを少し懲らしめてやろうと思ってな」

「それはいいですね。しかし、いくら貴重な治癒のギフト持ちといえど、そんなに生意気なら殺してしまってもいいのでは?」

「こらこら、せっかくそなたに友を作ってやろうとしているのだ。せいぜい仲良くするのだぞ?」

「はい。こちらに来た暁には、精いっぱいかわいがってやります」

「はっはっは。それでいい」


 儂の言わんとしていることを察した息子に笑いかける。


 ああ、早くバウムガルテンのクソガキを懲らしめたいな。


「父上、そういえば、バウムガルテンには双子の妹が居ましたね。まだ生きているのですか?」

「そうだな。死んだとは聞いていないからまだ生きているのだろう」

「ならば、一緒にヒューブナーに連れてきましょう。私が直々に元気を注入してやります」

「ふむ。クソガキは妹を大事にしていると聞いたな。それもいいだろう」

「はい!」


 元気に返事をした息子は、好色そうな顔をしていた。まったく、誰に似たんだか。だが、英雄は色を好むものだ。それもいいだろう。


 なにせ息子のギフトは剣王。剣の天才だ。もはや既に我が領内には息子に敵う騎士は居ないと言ってもいい。名実ともに我が領最強の存在なのだ。


 我がヒューブナー辺境伯領の未来は明るい!


 本来ならば、向こうからクレーメンス様のお友だちにさせてくださいと頼むべきなのだ。それをあのバウムガルテンのクソガキが……ッ!


 バウムガルテンのクソガキは、儂とクレーメンスの顔に泥を塗ったのだ。決して許すことはできない。


「目にもの見せてくれるわ」



 ◇



 お昼を少し過ぎた頃。


 オレたちは、今日は東村のモンスター討伐に来ていた。


 森の近くの草原には、まるで草餅のような丸いぷるんとした半透明の物体がうごめいている。グリーンスライムだ。


「いいですか、坊ちゃん? お嬢? スライムは、体内にあるコアを潰せば勝てます。ですが、このコアはスライムの体の中を自由に動き回るため狙いづらい。そこで、まずは剣の腹でスライムを散らすように適当に殴りつけます」

「それでそれで?」

「スライムの体積がある程度小さくなってから、今度はコアを狙います。目安は人の頭ぐらいの大きさになったらですね」

「はーい!」


 アヒムの話を聞くや否や、コルネリアがスライムに向かって走り出した。


「ちょ、リア!?」

「大丈夫! ちょっとお試しだから!」


 そんなこと言われても、コルネリアならばスライムごとき楽勝だと知っていても、心配になるのが兄心だ。


 オレはコルネリアの後を追って走り出す。


「えいっ!」


 コルネリアがアヒムの助言を無視してスライムに突きを放った。見事な突きだけど、それではスライムの体積は減らない。


 やはり、オレがコルネリアを護らなければ!


 そう思って走るスピードを上げると、コルネリアに突かれたスライムが、ぶるぶると体を震わせて、最後にはその丸い体も保てず、バシャッとまるで水風船が割れたかのように広がってしまった。


「倒せた!」


 コルネリアが剣を掲げると、その先端には大人の拳ほどの大きさがあるスライムのコアが貫かれていた。


 コルネリアの剣技をもってすれば、わざわざスライムを散らさなくても一撃で倒せるということだろう。


「お兄さま、見て!」

「リアはすごいね。難しくなかったかい?」

「なんだか遊びみたいで面白いよ?」


 そう言えるのは、きっとコルネリアだけだろう。視界の端では、アヒムが目を真ん丸にして驚いているのが見えた。


「でも、リア。仮に楽勝だとしても、勝手に飛び出しては危ないよ。ちゃんとお兄さまの後ろに居るんだ」

「でも、それだとお兄さまを護れない……」

「リアがお兄さまを護りたいように、お兄さまもリアを護りたいんだよ」

「うーん……。それは嬉しいけど……」


 コルネリアがどうも納得してくれない。きっと、まだまだオレが弱いからだな。コルネリアを護れるくらいに、もっと努力しないと!

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