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030 特訓

「アン・リミテッド……!」


 草木も眠る丑三つ時。真上に浮かぶ満月を見上げながら、オレは静かに呟いた。


 発動した【アン・リミテッド】は、右足と右腕。オレは同時に二か所の【アン・リミテッド】の発動に成功するようになっていた。


 だが、オレの目標とする全身の【アン・リミテッド】はまだできない。こんなことではコルネリアに遅れてしまう。


「アン・リミテッド……ッ!」


 オレは更に【アン・リミテッド】を重ね掛けする。今度は左腕と左足に気を抜いたら暴れだしそうな奔流が宿った。


 もう既にこれ以上耐えるのが難しいほど全身に力が宿っている。


 だが、まだだ!


「アン・リミテッドッ!」


 その瞬間、ドクンドクンと鼓動が乱暴に高鳴り、ひどい頭痛を覚えた。口の中に血の味が広がり、眩暈めまいがする。


 だが、その代償にオレは覚醒した。


 全身に血を送る心臓が強化されたためか、頭は冴えわたり、視界はいつにもなく澄んでいる。遠くの森で一枚の木の葉が落ちているのさえ知覚できるくらいだ。


 そして、なにもかもがスローモーションのように、すべての動きがゆっくりと感じた。


 これが胴体と頭を【アン・リミテッド】した結果か。まるでオレが孤高の天才であるかのように錯覚してしまうほどの力だ。


 今ならば、コルネリアに勝つことも夢ではないと思えてしまう。


 まぁ、そんなのは無理だろうがね。ただ、それを信じられてしまいそうなほどの全能感だ。


 今はまだ二か所ずつしか【アン・リミテッド】を発動できない。だが、全身を一気に【アン・リミテッド】できたら……?


 オレは少しでもコルネリアに近づけるだろうか?


 オレは弱い。コルネリアの足下にさえ及ばないだろう。だが、オレはいざという時にコルネリアを助けたいのだ。今のままではコルネリアを助けることさえできない。その場所にオレは居ない。だから、オレは強くなる必要がある。


 そのための【アン・リミテッド】。オレはコルネリアを助けられる位置に居たいがために、こうして深夜に特訓をしているのだ。


「少し、動いてみるか……」


 オレは下手に触れば弾けてしまいそうなほど力のみなぎった右足を踏み出すと、独りで森へと向かうのだった。



 ◇



 鬱蒼とした森の中。月明かりさえ遮られて真っ暗なはずなのに、オレの目はまるで赤外線カメラの映像のように森の中を映し出していた。どうやら【アン・リミテッド】の効果で夜目が利くようになったようだ。これはありがたい。


「GARURURURURU!」


 そのままずんずんと森の中を進んでいると、目の前にアッシュウルフが一体現れた。


「囲まれたな……」


 アッシュウルフは、群れで行動するモンスターだ。目の前に現れたアッシュウルフは囮で、本命は――――ッ!


 オレはかすかな物音を感じて右腕で裏拳を放つ。


 ペキペキと右腕の骨が砕ける感覚と共に、一瞬にして脂汗を滲ませるほどの痛みが雷のように脳天を貫いた。


 だが、痛みになんて負けている場合ではない。オレは極力痛みを無視して右腕を振り抜いた。


 バキョッ!


 まるで水袋を殴ったような感触がして、拳の骨が砕けると共に、拳に骨を砕く手応えが返ってきた。


 横目に見れば、予想通りアッシュウルフの顔面が弾けたところだった。


 まずは一体。


 しかし、アッシュウルフを一撃で仕留められたのはいいが、その代償に右腕が潰れてしまった。割に合わない。もう少し力のコントロールを学ばなくてはな。先ほどの一撃は、アッシュウルフには過ぎた威力だった。


「GARURURURURU!」

「GAUGAU!」

「GURURURURU!」


 だが、まだアッシュウルフはたくさん居る。実験と調整にはちょうどいい。


「悪いが、付き合ってもらうぞ」


 全身を【アン・リミテッド】した影響からか、それともその冴えた頭が彼我の戦闘力を冷静に判断した結果か、オレは自分が負けるとは微塵も思えなかった。



 ◇



「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」


 最後の一匹となったアッシュウルフが、その咢を大きく開き、高速で突っ込んでくる。おそらく群れのリーダー格だったアッシュウルフだ。その体躯は他のアッシュウルフに比べると一回り大きい。


 オレは、体の軸を大きく右に倒してアッシュウルフの前脚を躱すと、左脚を軸に高速で左へと回転した。繰り出されるのは、回転の勢いが乗った必殺の左の裏拳だ。


 ドブンッ!!! ペキペキペキッ!


 耳朶を打つのは、まるで水袋を叩いたかような湿りけを帯びた重低音と、小気味好くも聞こえる骨が連続で砕かれる乾いた音だった。


「GABA!?」


 間抜けな断末魔を上げて、オオカミがその軌道を変えて左へと飛んでいく。何度か地面を跳ねて、木にぶつかってようやく止まった時には、アッシュウルフは既に息絶えていた。


「ふぅ……。ヒール」


 オレは周りを一瞥すると、所々腱が切れ、骨の折れたままになっている体を【ヒール】で癒した。ようやく全身から壊れてしまいそうな痛みが取り除かれ、一つ溜息を吐く。


「さて、次の相手は何だろうな?」


 オレは森の更に奥へと向かって歩き出した。

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