025 アッシュ
秋。
実りの季節だ。領主であるオレは税も徴収できるし、領民たちも懐が温かくなる季節である。
大体の人間は秋が好きだろう。収穫祭なんかもあるしな
だが、オレは秋のことが嫌いになりそうだった。
「アッシュウルフ六体! 来たぞ!」
森から飛び出てきた灰色のオオカミ、アッシュウルフが六体。それをオレとコルネリア、アヒムをはじめとした常備兵の四人の合計六人で待ち受ける。
ビュンッ!
矢が空気を割く音を響かせて飛ぶ。
「KYANッ!?」
矢は見事アッシュウルフの肩に命中したが、しかし、脱落させるには至らない。
「GAUGAUGAU!」
アッシュウルフたちは一丁前に陣形を組んでぐんぐん迫る。それを最前線で迎え撃つのはオレだ。
「プロテクション! リジェネーション! ヘイスト!」
左手にギュッとスモールシールドを握り、オレはスキルを連続で使っていく。フッと体が軽くなるのを感じた。ヘイストの効果だ。
連続でスキルを使ったオレを脅威と見たのか、先頭を走る二体のアッシュウルフがグンッとスピードを上げてオレに迫ってくる。
常に最前線で敵の攻撃を防ぎ、一番消耗する通称タンクと呼ばれる役。オレはそれに志願した。
通常、オレのような治癒のギフト持ちは最後尾に配置するのがセオリーだが、それではオレは進歩できないと感じたのだ。
オレは実戦を通して少しでも自分の技量を上げることを目指す。そうしないと――――。
オレの横を滑るように前に出た小さな影。
「えいっ! やっ!」
コルネリアだ。コルネリアが常人のオレには見えない速度で剣を振るい、アッシュウルフ二体が物言わぬ屍となる。断末魔さえ無い高速の剣。きっと斬られたアッシュウルフはなぜ自分が死んだかもわからなかっただろう。
憧れさえ追いつかず、嫉妬さえ届かない。コルネリアとオレの技量の差は隔絶している。どれだけ修行を積もうが、その差は広がるばかりだ。
だが! オレごときがおこがましかろうが! オレはコルネリアを護ると誓ったのだ!
自分に言い訳して諦めるなんてしたくない!
「GAU!?」
一瞬にして二体の仲間を失い。アッシュウルフたちの歩調が乱れる。
「はぁぁあああああああああああ!」
その隙を逃さず、オレは先頭を走るアッシュウルフ目掛けてスモールシールドを構えて突撃する。
「アン・リミテッド……!」
「KYAIN!?」
アッシュウルフの顎をかち上げるように左腕のスモールシールドでシールドバッシュを見舞った。
ブチッ! バキッ! ベキッ!
左腕から湿った筋肉の断絶音と乾いた骨折音が響く。一瞬にして左腕はボロボロだ。その痛さは想像を絶したもので、オレを苛む
「グッ……!」
必死になって悲鳴を押し殺した。
すぐにでも治したい。しかし、そんな時間はない。
「アン・リミテッド!」
横をすり抜けようとしていたアッシュウルフ。右腕も体の限界を超えて稼働させ、アッシュウルフの顔面をショートソードで叩く。
素早く動けるようになるスキル、ヘイストと合わせれば、オレのような細腕のチビにも自分より大きなオオカミを足止めすることが叶う。
「GYA!?」
ブチンッ! ペキャッ!
「クぁ……!」
両腕をまるで雷のように走る痛みに意識が飛びかける。
だが、まだだ。こんなところで意識を失うわけにはいかない!
両腕を犠牲に、アッシュウルフの進撃が止まり、二体のアッシュウルフが棒立ちとなった。その機を逃すバッハたちではない。
「燃えろ!」
両腕に炎を纏ったバッハがアッシュウルフを掴むと、アッシュウルフの体は嫌な臭いをあげながら焔に滅された。
「えいっ!」
「斬撃!」
残ったアッシュウルフをコルネリアとアヒムが片付け、辺りには一瞬の静寂が流れた。
やっと腕の痛みが引いてきた。【リジェネーション】のスキルの自動回復の効果だろう。右手を握ると、剣の柄の感触が返ってくる。もう大丈夫だ。
本当なら、【ヒール】のスキルですぐに回復可能だ。しかし、オレは痛みに耐える訓練をするためにも【ヒール】を使わなかった。
しかし、たかが二体のアッシュウルフの足止めをするだけで両腕を潰してしまうとは……。まったく割に合わないが、まだまだ体の小さなオレがモンスターと渡り合うためには【アン・リミテッド】のスキルが必要だ。
スキル【アン・リミテッド】は、正確には治癒のギフトのスキルではない。火事場の馬鹿力をそれっぽく言っているだけだ。
使う部位を意識して言葉にすることで、オレは意図的に限界を超える力を出せるようになった。しかし、まだ右腕や左腕などの体の一部しか使えないし、力を加減することもできない。
たしかに【アン・リミテッド】を使えば、体の限界を超えた強烈な一撃が出せる。
だが、それだけだ。代償に体の使用部位が壊れるし、想像を絶する痛みが走る。
目標はいつでも【アン・リミテッド】を全身で使うことだが……。やれやれ、いつになることやら……。
「どう、お兄さま? 私、三つも倒したわよ!」
「すごいな、リアは」
にこにこと褒めてほしそうなコルネリアが、撫でろと言わんばかりに頭を突き出してきた。
オレは苦笑しながらコルネリアの頭を優しく撫でる。
「すごい、すごい」
「えー? なんか適当?」
本当にすごいよ。背中が見えないくらいね。
こんなオレでも、君の隣に立ちたいんだ。
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