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022 アンナ

「それで? アンナ、貴様は何を考えている?」


 執務室。オレと爺の厳しい目にさらされながら、アンナは微動だにせずに立っていた。


 今回、オレは最近言動がおかしいアンナの心の底を確かめるためにこの場を設けた。


 ちなみにコルネリアは子どもたちと一緒に勉強中だ。まぁ、そうでなくてもコルネリアをこんな場所には呼ばないとは思うがな。


 なにせ、アンナはオレの前で堂々とコルネリアを殺すべきと言い張った奴だ。なにが飛び出てくるのかわからん。


「まずは礼拝させていただきます」

「はあ?」


 礼拝? アンナはなにを言ってるんだ?


 戸惑うオレたちなど無視して、アンナが突然土下座するようにひざまずいた。


「女神様! 神の恩寵に感謝いたします!」


 そう三度唱えて、床に額をこすりつけるアンナ。


 オレにはアンナがなにをしているのか意味がわからなかった。爺に目配せするも、爺も呆然としていた。


「ありがとうございました」


 最後にそう言うと、アンナはスッと立ち上がった。その目はまるでピン止めでもされているかのようにオレを凝視していた。


「アンナ、何のつもりだ?」

「私ごときが女神さまの御子であるディートフリート様に直答するなど畏れ多い……」

「は? 女神の御子? お前は何を言っているんだ?」

「…………」


 訊いてもアンナはなにも言わない。直答するのは畏れ多いってやつか?


「直答を許す」


 許しを与えると、アンナは堰を切ったかのように一気にまくしたてる。


「ありがとうございます。ディートフリート様はコルネリア様の邪神の呪いを退けた女神さまの恩寵深い御子様なのです。私は見誤っていました。まさか、コルネリア様の邪神の呪いはディートフリート様への試練などと夢にも思わず……。無知な私をお許しください。そうです。思えばアマーリア様のお子様であるお二人が特別じゃないわけがありませんでした!」


 アマーリアとは、オレの母の名前だ。元々アンナはアマーリア付きのメイドとしてこのバウムガルテン領へとやってきたのだ。


 だが、アマーリアは産後の肥立ちが悪くオレたちが生まれてすぐに亡くなっている。


「母がなにか特別なギフトや才能を持っていたなど聞いたことが無いが?」

「いいえ、アマーリア様は私にとって特別でした。仕事にも慣れず、居場所が無かった私なんかに優しくしてくださいました。私にとっての女神様だったのです! アマーリア様がいらっしゃったから、だから私は生きてこられました。あの時までは……」


 それはアンナにとって特別というだけで、世間的には普通だったのだろう。


 アンナは自分にとっての女神であったアマーリアと女神を混合している。


 だが、アンナの狂信的な目を見ては、オレはなにも言えなくなった。


「ああ……。なぜ……、なぜアマーリア様がお亡くなりにならなくてはならなかったのか?! そうです。双子を身籠ったからです! 体の弱いアマーリア様には、双子の出産など負担が大きすぎたのです! 最初は恨みました。ディートフリート様とコルネリア様を! しかも、コルネリア様はギフトも賜れない邪神の呪い! こんなことは許されるはずがありません! ですが……」


 アンナの顔がまるで快楽に酔いしれているかのように蕩ける。正直、気持ちのいいものじゃない。


「すべては私の勘違いだったのです。コルネリア様の邪神の呪いは、ディートフリート様が女神さまの御子としての試練だったのです。その証拠に、コルネリア様は助かり、類稀なるギフトを賜られたと聞いています。これこそが女神さまのお導きです! アマーリア様の死は決して無駄ではなかった!」


 アンナは狂っているのだ。アマーリアの死を受け入れられず、その死には意味があったと思いたがっている。


 ようは、アンナは生きる理由をアマーリアからオレに替えただけだ。コルネリアを隠れて散々虐めていたアンナを許す理由にはならない。


 肩で息をしているアンナ。しかし、その狂信的な瞳はオレを捉えて離さない。


 嫌いな奴から好かれるってけっこうストレスなんだな。元から嫌いだったが、もう目に映すのも嫌なくらいだ。


 こんな奴にコルネリアの教育を任せるのは反対だ。だが、コルネリアを貴族として教育できるのはアンナしかいない。


「アンナ、一つだけ聞かせろ。お前はコルネリアをどう思っている? まだコルネリアを疎ましく思っているのか?」

「コルネリア様こそディートフリート様が超えるべき試練でございました。コルネリア様の試練があったからこそ、ディートフリート様は覚醒したのです! すなわち、コルネリア様こそ女神さまの祝福の体現者! 以前の私は愚かでした。コルネリア様を疎むなど、許されないことをしました。そもそも……」

「もういい」


 もう付き合いきれない。


「アンナ、貴様にはコルネリアの貴族としての礼儀作法の教育を任せる」

「大罪を犯した私にそのような大役、よろしいのですか?」


 よろしいわけがない。だが、こいつしか適任が居ないんだ。


「オレはお前のことを許したわけでも、気を許したわけでもない。罪を犯したというのなら、その罪をそそぐ活躍を示せ。コルネリアの教育には、オレ、もしくは爺が同席する。爺はオレの代理人だ。貴様が不審な行動をしたら首を刎ねる」

「御子様……」


 アンナはオレを見ながら突然涙を流す。


 条件が厳しすぎたか? だが、こんな奴を野放しにはできない。監視の目は必要だ。


「寛大な、寛大なお心に感謝します……!」


 そして、また土下座を披露するアンナ。オレにはアンナの思考回路が全く理解できなかった。

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