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021 ブルスト

 ジャガイモらしき物が手に入ってホクホクしながら商談は進んでいく。


 ベンノが持ってきた呪われたアイテムを買い取り、解呪したアイテムを売り払った。かなり安く買い叩かれたが、こんな陸の孤島のような僻地にまでわざわざ来てくれたのだ。少しぐらいは儲けさせてやらないといけない。商人は利に敏感だからな。


 そして、いくつか必要な物を注文していく。次回の目玉は、ニワトリだ。オレはこのバウムガルテン領で養鶏を始めるつもりだ。まぁ鶏肉や卵が喰いたくなったから頼むんだがな。きっとコルネリアも気に入ってくれるだろう。卵があれば、料理の幅も広がるからな。


 有意義な商談ができて満足だ。


 そして、ふと横を見ると、コルネリアがつまらなそうに下を向いて足をぷらぷらさせているのが目に入った。


 しまった。夢中になり過ぎた。コルネリアを退屈させてしまうなんて、オレはまだまだだな。


「リア、すまなかった……。くぬ……!?」


 オレは優しくコルネリアの頭を撫でると、コルネリアが顔を上げてニッコリとはかない笑みを見せる。


 ぐお!? コルネリアかわいいよコルネリア!


 誰だよ、こんなかわいい女の子を放っておいた奴は!? まったく信じられん愚行だな! 説教確定コースですわ! いや、生ぬるい! 処刑してしまおう!


 ……オレでしたわ……。


「お兄さまくねくねしてる……?」

「はぁ、はぁ、次はリアの好きなものを買おう」

「いいの?」

「いいのいいの! 全部お兄さまに任せなさい! なんでもとは言えないのが悲しいところだが、買えるものを見繕ってみよう」

「うん!」

「ほっほっほ。歳若いのにしっかりとした男爵様ですが、コルネリア様には弱いようですな」

「悪いか?」

「いえいえ。ちゃんと年相応の姿が見られてわたくしは感激しております」

「そうか……」

「お兄さま、照れてる?」

「そんなことはない。さあ、ベンノ。コルネリアに相応しい売り物はないか?」


 クスクスと笑うコルネリアとベンノ。なんだってんだ。


「かしこまりました。とはいえ、わたくしは宝飾品の類も商っているのですが、本日は手持ちが……」


 貧乏で有名なバウムガルテン領で宝飾品なんて売れるはずが無いからな。最初から持ってこないという選択はわからんでもない。


 だがそうか……。コルネリアにはなにか装飾品を贈ろうかと思っていたから出ばながくじかれた気分だ。


「お綺麗なコルネリア様にお勧めするのははばかられますが、こちらはいかがでしょうか?」


 そう言ってベンノが取り出したのは、なんとブルストと呼ばれるソーセージやベーコン、チーズなどの保存食だった。


「食べ物もいかがなものかと思いましたが、この領には牛や豚はおりませんので、珍味としていかがでしょうか?」

「わぁあ!」


 どうかと思った食べ物だったが、コルネリアは目を輝かせていた。


 コルネリアは意外と食いしん坊だからな。食べ物を選んだベンノの手腕は見事なものだ。もしくは、花より団子と言われるように、コルネリアはまだまだ異性を意識した考えは持っていないのかもしれない。


「お兄さま! どれにしよう? たくさんあって迷っちゃう!」

「そうだな……。ならばすべて買えばいい。ベンノ、いくらかかる?」

「お代はいりません。どうぞすべてをご笑納ください。今回はコルネリア様と知己を得た素晴らしい日でありますので、わたくしからの心ばかりの贈り物とさせていただきます」

「そうか、感謝する」

「ベンノさん、ありがとー!」

「いえいえ。こちらこそ」


 コルネリアはニコニコと明るい笑みを浮かべている。


 コルネリアは前にもブルストをおいしそうに食べていたからな。本当に嬉しいのだろう。


 予定とは違ったが、コルネリアが喜んでくれるならOKです!


 まとめられたベンノからの贈り物は、コルネリアの体ほどもあった。かなり多い。ちょっとオマケしてくれたのだろう。コルネリアも気に入ってるし、ありがたいな。


「やったね、お兄さま!」

「ああ、よかったね、リア」



 ◇



「わぁあ!!」


 その日の夕食。さっそくとばかりにブルストが食卓に出た。しかも、全部違った種類のブルストが全部で五本もある。恥ずかしい話だが、我が家ではオレが生まれて初めてレベルの豪勢な食事だ。


「おいしそうね、お兄さま!」

「そうだね。さっそくいただこう」

「「いただきます」」


 オレは堪らずマスタードを付けたブルストに噛み付く。ぷちんっと皮が破れ、ジュワッと脂が口の中に広がった。


 舌が痺れるほどうまい! コルネリアとベンノに感謝だ!


「おいひい……!」


 コルネリアも顔を緩ませて喜んでいる。


 これからもコルネリアにブルストを買ってやれるようにがんばって稼がないとな。


「お兄さま、この黄色いのはなあに?」

「それはマスタードだよ。ブルストとよく合うけど、すっぱくてちょっと辛いんだ。ちょっとだけ付けて試してごらん」

「うん!」


 元気いっぱいのコルネリアの姿はかわいいが、貴族の子女としてはちょっとふさわしくない。


 子犬のように元気いっぱいで好奇心旺盛なコルネリアは大好きだけど、このままではコルネリアが恥をかいてしまう。


 今日もベンノが驚いていたくらいだからな。


 ちょっと寂しい気もするけど、貴族としての礼儀作法の教育を始めよう。


 となると、教師はアンナか……。


 コルネリアがギフトを賜ってから、アンナのコルネリアへの態度は露骨に変わった。彼女にとって、ギフトの有無が人かどうかの判断材料なのだろう。ギフトを手にした以上、コルネリアも人の仲間入りをしたという態度だ。


 そして、アンナのオレへの態度もかなり変わった。元々貴族だからとある程度敬われているのはわかっていたが、今はそれ以上にまるで神の使者に接するような態度だ。


 最初は処刑されるのが嫌でへりくだっているのかと思ったが、どうも違うようだ。


 どういうつもりだ?


 コルネリアへの教育をする前にアンナの腹の内を調べる必要がありそうだな。

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