表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/189

020 ジャガ

 コルネリアの決意を聞いた日から数日。


 オレはこの数日の間ずっと悩んでいた。コルネリアとどう接していいのか悩んでしまったのだ。


『私はね、お兄さま。いつでもお兄さまと一緒に居たいの。でね、今度は私がお兄さまを護るの!』


 オレはコルネリアを護りたい。でも、その気持ちはコルネリアも持っているのだ。


 前世の記憶があるオレは、どうしてもコルネリアを子ども扱いしてしまう。


 でも、コルネリアはもう一人前に自分で考えて実行するだけの大きな力を持っているのだ。


 結局、オレにはコルネリアの意思を捻じ曲げることができなかった。


 オレはこれからもモンスターの討伐の現場にコルネリアを連れて行かなければならない。だが、それには不安があるのも事実だ。


 それはオレの指揮力不足だ。


 ゲームの中では、モンスターはどんなに多くても一度に対戦する数の上限は六だった。しかし、現実には百体以上のモンスターを同時に相手取らなくてはいけない。


 オレの武器はゲームで得た知識だが、それに頼りきりになると失敗するといういい例だな。オレは指揮力とでもいうべき能力を磨いていかなくてはならない。


「パーティの指揮能力なんて、どうやって鍛えればいいんだ……」

「お兄さま?」

「いや、なんでもないよ。それより退屈じゃないかい?」


 執務室には、オレとコルネリアしかいない。オレは仕事をしなくちゃいけないからコルネリアを構えない。だが、コルネリアはなにが楽しいのかニコニコとオレを見ていた。


 ちょっとコルネリアに申し訳ない。


 オレだって、仕事なんて放っておいてコルネリアと遊びたい。


 だが、仕事が……。


 仕事と言えば……。


「そうだ。この後、商人と会うのだけど、リアも会ってみるかい?」

「商人と?」

「欲しいものがあったら買ってあげよう」

「いいの!?」


 コルネリアはもうニッコニコだ。その笑顔を見たらオレも心が軽くなっていくのを感じた。



 ◇



「毎度ありがとうございます、バウムガルテン男爵様。そちらはお噂の妹姫様ですか? わたくし、ベンノと申します。バウムガルテン男爵様には御贔屓にさせてもらっています。今後ともよろしくお願いします」

「コルネリアって言うの。よろしくおねがいします!」


 いつもは食えない態度のベンノがコルネリアの言葉に目を白黒させている。そうだね。普通の貴族は平民に対してこんなに気やすい態度をとることはないね。


 コルネリアは、長年臥せっていたため教育が遅れているのだ。そろそろ貴族としての礼儀などを教育しないとな。二年後には学園が控えているし。


「それで、ベンノ。例の物は見つかったか?」

「え、ああ。ゴホン。おそらく男爵様のお求めと思われる物は見つかりました」

「ほう?」

「見つかった場所の名前を取って、ジャガの花と呼ばれております。花は枯れてしまいましたが、種は手に入れました。こちらになります」


 ベンノが取り出した箱の中には、見た目は完全なジャガイモが十個ほど入っていた。これは期待が持てるな。


 ジャガイモは南アメリカ原産の植物だ。瘦せた土地でも育つ植物の代表ともいえる。そして、主食になりえるほど栄養価が豊富だ。


 オレは生育の悪い小麦の他にも、このバウムガルテン領の痩せた土地でも育つ主食を喉から手が伸びるほど欲していたのだ。


 オレはジャガイモに手を伸ばして軽く握った。


 硬いな。腐ってるわけではなさそうだ。


「それで、これは食べれるのか?」


 一番重大なことを訊くと、ベンノは目を剥いて首を左右に振った。


「お待ちください! 取り扱っていた商人からの注意書きによると、この種には毒が含まれているようです」

「毒!?」


 毒と聞いて、コルネリアがオレの持っていたジャガイモを叩き落とした。


 そして、怖い顔でベンノを睨んでいる。その手は腰の剣へと伸びていた。


「あなたは毒でお兄さまを害する気なの?!」

「おおおお待ちください! 決して、決してそのようなつもりは! この種自体は触っても平気なのです! 食べた時にはひどい腹痛などを起こしますが、それでも命にかかわるような毒ではございません!」

「落ち着くんだ、リア。オレはなんともないよ」

「でも……」

「俺の身を案じてくれたんだね? ありがとう。でも平気だよ」

「お兄さまがそう言うなら……」


 オレはコルネリアの頭を撫でて彼女の気を落ち着かせた。


「ベンノ、悪かったな。コルネリアは毒と聞いて驚いてしまったようだ」

「お諫め頂きありがとうございます。はぁ、寿命が縮まる思いがしました」

「許せ」


 貴族としては最底辺。持っている財力もベンノに劣るだろうオレたちだが、それでも平民とは一線を画す貴族の端くれなのだ。コルネリアがベンノを無礼打ちしてもおそらく事件にもならないだろう。それだけ平民と貴族の間には決して超えられない壁がある。


「謝罪ついでにこの種はすべて買い取ろう」


 このイモが、オレの知るジャガイモ、もしくはそれに近い品種ならば、このバウムガルテン領の救世主になるかもしれない。


 毒性も高くはなさそうだし、まずは半分ほどをちゃんとジャガイモの芽を処理して常備兵の連中に食べさせてみるのもいいだろう。その結果次第では、家で預かっている子どもたちにも振る舞う。子どもたちも無事だったら、晴れて栽培を開始しよう。

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。

下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。

☆1つでも構いません。

どうかあなたの評価を教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ