表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/189

186 コゲフリート

『おのれ!!! おのれ!!! おのれ!!! おのれ!!!』


 コルネリアの【アン・テイカー】と邪神のコアのビームのせめぎ合いは、コルネリアの優位に進んだ。だんだんと【アン・テイカー】の白い光が邪神のコアに近づいていく。


「はぁ……、はぁ……、うぐ、はぁ……」


 しかし、コルネリアの消耗も激しい。あと少しというところだが、コルネリアの体力が保つとは限らない。


 これは覚悟を決めた方がよさそうだな。


「リア、何が起こってもそのまま邪神を討伐するんだ。任せたぞ」


 オレはそれだけ言うと、邪神のコアへと駆けていく。


「お兄さま!?」

「ディー!?」

「お兄!?」

「ディー、なにを……!?」


 後ろからオレの正気を疑うような皆の声が聞こえる。


 そりゃそうだろう。邪神のコアは、二つの巨大なエネルギーがぶつかり合う中心点だ。そんなところに生身で飛び込めばどうなるか。そんなことは火を見るよりも明らかだ。


「いくぞ……!」


 一歩踏み込むと、まずは髪がチリチリと焼けていく。肌は一瞬にして乾き、焦げた肌だったものがポロポロと落ちていく。


 目の水分も瞬時に蒸発し、視界にヒビが入る。きっと眼球自体がヒビ割れたのだろう。それでも前に進む。闇の双聖剣を前に突き出して邪神のコアに突撃する。


 左手が崩壊した。しかし、露出したオレの左腕の真っ黒な腕の骨は剣を握っている。


「ヒール……!」


 【ヒール】で回復しても、一秒もせずに体が崩壊していく。そんなことは分かっていた。オレのやっていることは自殺に近い。


 だが、ここで邪神を仕留めなければ、今邪神を仕留めなければ次のチャンスはない。


 『レギンレイヴ』の皆は強がっているが、もう限界なのだ。これまでに何度もモンスターと戦闘し、とっくに限界など超えている。それでも己を叱咤してここまできた。


 これで仕留めきれなければ、オレたちに勝利はない。


 絶対に邪神を倒す。


 その意志だけで更に一歩踏み込む。


「ヒール……!」

『なんだ貴様は!?』


 今頃、邪神がオレの存在に気が付くがもう遅い。


「だああぁぁぁあああああああああああああぁああああ!」


 オレは最後に残った聖力でヒールし、振り上げた闇の双聖剣で邪神のコアを穿つ。


『やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


 予想していた硬い手応えはなく、むしろ熱したナイフをバターに刺したようにズブズブと沈んでいった。


 ピシッ!!!


 しかし、その効果は抜群だった。邪神のコアに一気にヒビが入り、割れ目が広がっていく。


『あ……。ぁ……。…………』


 次の瞬間、邪神のコアから出ていた黒い光が消え、白の光が邪神のコアを蹂躙する。


 邪神のコアが消滅するのを確認し、オレの意識は途切れた…………。



 ◇



 ポタポタと温かい水滴がオレの頬を濡らした。雨か……?


 目を少しだけ開くと、白濁した視界の中にぼんやりと影が見えた。


 なんだこれ? オレの目はどうしたんだろう?


 ボーっとする頭でなにがあったのか思い返す。


 オレはたしか『レギンレイヴ』と皆と邪神を……。そうだ邪神はどうなったんだ?


「…………」


 邪神はどうなったのかと呟くが、返ってくる声はない。それどころか自分の声すら聞こえないし、周囲の音も聞こえない。


 耳が聞こえない?


 なんだこれ? どうなってるんだ?


 ボーっとしていると、緑色の温かい光に包まれたような気がした。少しだけ頭がまどろみから覚醒する。体も少しだけ楽になった気がした。


 楽になった?


 そうか、オレの体は苦しかったのか。


「……これ………止め…………」

「おに…………」

「……がい、…………して……」

「……にい……」


 かすかに声が聞こえる。誰の声かは分からない。だが、悲しみに満ちた声だ。


 体に意識を向けると、まったく体が動かない。だが、聖力が少しだけ溜まっているのが分かった。邪神を倒した時に使い切ったはずだから、あれから少し時間が経っているのだろう。


 ちょうどヒールが使えそうだ。


「ヒール……」


 その効果は劇的だった。ヴェールがかかっていたような思考はクリアになり、視界は色付いていく。曖昧だった体の感覚が蘇っていく。


「お兄さま!」

「ぐふっ」


 胸の上にドンッと衝撃を感じた。


 目を見開けば、泣き顔のコルネリアがオレを見ていた。


「よかった。よかった……。もう! お兄さまのバカ! あんな危ない所に行って、死んじゃったら……。死んじゃったらどうするのよ! お兄さま、丸焦げだったんだから!」

「あーうん……。悪かった」

「反省してる?」

「してる、してる」

「ディー、本当に良かった……」

「わたくしのヒールも打ち止めで、本当にダメかと思いましたわ」

「お兄……」


 上を向けば、クラウディア、エレオノーレ、リリーが涙を流しながらオレの生還を喜んでいた。


「ありがとう、皆。それで、邪神はどうなったんだ?」

「消滅を確認しましたわ。遺体も残らず、綺麗さっぱり消えました」

「そうか……。よっと」


 オレはクラウディアの言葉に安堵すると、コルネリアを抱き上げるようにして立ち上がる。その時、ポロポロとなにかが体から剥がれ落ちるような感覚がした。


「キャッ!?」

「まあ!」

「お兄……」

「え?」


 なぜか、エレオノーレが顔を赤くして顔を手で覆う。でも、その指の間の隙間からチラチラ見ているのが分かる。


 クラウディアは驚いた顔で口を手で隠し、リリーは呆れたような顔をしていた。


 なんで?


 皆の視線をたどって下を見ると、なぜか全裸の体がこんにちはしていた。


「あぁ……」


 きっと装備が耐えきれずに壊れちゃったんだな……。


「は、早くなんとかしてください!」


 そう言いながらもチラチラ見ているエレオノーレ。バレていると指摘した方がいいのだろうか?


 まぁ、最後は締まらないが、こうしてオレたちは邪神を倒したのだった。

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。

下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。

☆1つでも構いません。

どうかあなたの評価を教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ