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185 VS邪神③

 邪神の体や、左の双聖剣に刺さっていた頭が、ドロリと融けた蝋のように黒く地面に広がった。


 そのドロリとした黒い液体から、唐突に巨大な甲殻類の足のようなものが生える。その数八本。黒いカニのようにハサミが付いた足だ。


 八本の足が床を突くと、まるで黒い液体から抜け出すように体を持ち上げた。


 現れたのは、八つの目を持つクモのようななにかだ。その背に生えるのはハエのような羽。口からは大ムカデのようなものが垂れ下がり、尻にはぶっとい針まである。クモと断言するには余計なパーツが多すぎた。


 このクモ(仮)が邪神の最終形態だ。ゲームのドット絵で見た時よりも格段に気持ち悪い。自分が本当に正気なのか疑ってしまうほどだ。


「こ、これが……」


 エレオノーレの慄くような声が耳に届いた。ゲームで見たことあるオレでも驚いたのだ。エレオノーレたちにとっては悪夢のような光景だろう。


「アンチ・ポイズン!」

「アンチ・パライズ!」


 パーティメンバーの毒と麻痺への耐性を上げる。邪神の表面はヌメヌメしており、毒の体液に塗れているのだ。ゲームでは対策しないと攻撃するたびに毒や麻痺に侵される。かなりうざい状態だ。


「PGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

『我にこの姿を取らせるとは。地獄で誇るがいい!!!』


 虫のような鳴き声と、枯れたジジイのような声が一緒に聞こえた。


 相当に怒っているようだが、オレだって怒っている。


「総員! 戦闘準備! これでラストだ!」

「やあああああああああああああああああ!」


 オレの声に弾かれたようにエレオノーレが邪神に突撃する。視界に入れるのも嫌悪感が先にくる邪神に突撃するのは、相当な胆力が必要だろう。


 やはり、エレオノーレはすごい。その勇気は王国の歴史に名を刻むにふさわしい。


 邪神のクモの足がエレオノーレを串刺しにしようと上から振り下ろされる。


 ガキッ!!! ガキンッ!!! ガキンッ!!!


 しかし、エレオノーレは虚実入り混じったステップを踏んで回避し、邪神に迫った。


「えいっ!」

「はぁあ!」


 そして、振り下ろされた邪神の足を斬り飛ばしながらエレオノーレを追うコルネリアとクラウディア。


 エレオノーレが敵の攻撃を誘発し、コルネリアとクラウディアがエレオノーレが生んだ隙に攻撃を叩き込む。いい連携だ。


『小癪な!!!』


 邪神の口から垂れ下がっていた大ムカデのような器官がエレオノーレを捕まえようと縦横無尽に這い回る。とても気持ち悪い光景だ。


「行って」


 後ろに庇ったリリーから呟くような声が聞こえた。


 それと同時に、大きな岩の塊が目にも止まらぬ速さで邪神の口をグシャッと潰して破壊する。


 大ムカデのような二本の器官は吹き飛び、もうエレオノーレを邪魔するものはない。


「ふっ!」


 エレオノーレが大きくジャンプした。そして、邪神のクモのような顔に着地すると、剣を一閃する。


「せやあああああああああああああ!」


 途端に噴き出るように飛び散る邪神の毒を含んだ紫の血。


 エレオノーレは邪神の右側の目を四つとも切り裂いたのだ。


「PGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

『おのれ!?』

「わたくしを忘れてもらったら困りますわ!」

「わたくしも!」


 のたうつ邪神に更にクラウディアとコルネリアの追撃が入る。


「千々時雨!」

「アン・テイカァアアア!」


 クラウディアの激しく降る雨のような槍の連撃は邪神の頭部を完全に破壊しつくし、コルネリアの【アン・テイカー】は邪神の体を縦に両断する。


「…………」

『…………』


 二つに分かれた邪神の体はしばらくワキワキと死にかけの虫のように動いていたが、それもやがて沈黙した。


「まだ終わってない!」

「ひゃんっ!」


 オレは急いでコルネリアに近づくと、その首筋に触れてありったけの聖力を注ぎ込む。


 オレはコルネリアに一つの方向を指差してみせた。


 クモの残骸によって隠れているが、人間大の大きな黒い真珠のようなものが転がっていた。


「リア、あのコアに向けてアン・テイカーだ!」

「うんっ!」

『貴様!? なぜそれを知っている!?』

「オレが何回邪神を倒したと思ってるんだ……!」


 強力なHP回復能力を誇る邪神のHPが一割以下になった時のみ攻撃の選択肢に上がる邪神のコア。これを破壊しないと、邪神は倒せない。


 知らずに邪神のHPを削り切ると、邪神がフルHPで復活するのだ。


 このループを抜け出すには、邪神のコアを破壊するしかない。


「リア、任せた!」

「うんっ! アン・テイカァアアア!」


 コルネリアの振りかぶった剣先から、真っ白な極太レーザービームが飛び出し、邪神のコアへと振り下ろされた。


『させるかあああああああああああああああああああああああああああ!!!』


 もう隠すつもりはないのか、邪神のコアから真っ黒な極太ビームが出て、コルネリアの【アン・テイカー】を真正面から受け止める。


 オレの視界は、白と黒のせめぎ合いに支配された。

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