表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/189

182 邪神

 ゴクリッ!


 目の前の大きな両開きの扉を前に、誰かの息を呑む音が聞こえた。


 このいかにもな扉の向こうには邪神が居る。つまり最終決戦だ。緊張するのもわかる。オレたちの双肩には、文字通り世界の命運がかかっている。緊張するのも当たり前だよな。オレだって緊張している。


 もしかしたら、さっきの息を呑む音の発生源はオレだったのかもしれない。


 それさえもハッキリ分からないくらいオレは緊張していた。


 ゲームで何度も邪神を倒したオレでもそれだ。後ろのコルネリアたちの緊張はいかばかりだろう。


 オレが振り返ると、こわばった顔をした『レギンレイヴ』のメンバーと目が合った。このままじゃマズいな。皆の緊張を解かないと。


「よし、円陣を組もう!」

「円、陣?」

「そうだよ、リア。さあ、皆丸くなって」


 唐突にそんなことを言ったオレを皆が不思議そうな顔を見ていた。だが、ちゃんと丸を作ってくれるあたり皆の信頼を感じた。


 そして、オレはコルネリアとエレオノーレと肩を組んで、円陣を形作る。


 皆で顔を寄せ合って、まるで内緒話でもしているみたいだ。


「いいかい? 皆も察しているだろうけど、あの向こうに邪神が居る」


 すぐ近くにある皆の顔がまたこわばったのを感じた。だが、適度な緊張ならいいが、余計な緊張はよろしくない。皆にはベストな状態で邪神を戦ってほしい。だから、オレは小細工をする。


「そんなに怖い顔をしないで。皆は笑っていた方がかわいいよ」

「ディー、今はそれどころでは……」

「いやエル、今だからこそ笑うんだ。それも大声でね。オレは皆のとびきりの笑顔が見たいな。さあ、笑ってくれ。いくよ? あっはっはっはっはっはっはっはっは!」

「ディ、ディー?」

「お兄さま?」

「お兄?」

「今笑えと言われても……」


 皆が困惑しているのが分かる。だが、オレに退くつもりはない。


「皆、無理やりでもいい。笑うんだ! はっはっはっはっはっはっはっはっは!」

「あははは……」

「いいぞ、リア。もっと大きな声で思いっきり! あっはっはっはっはっは!」

「あははははは!」

「ん。わっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」


 コルネリアとリリーが乗ってきてくれた。オレはクラウディアとエレオノーレに視線を送る。


「もう。うふふふふふふふふふふふふふ」

「うふふ……」

「クラウ、エル、もっと思いっきり笑おう! ここには礼儀にうるさい奴らも居ないからね! 全力で、思いっきり笑っていこう!」

「あははははははははははははははは!」

「あははははははははははははははははははははは!」

「いいね! いい調子だ!」


 邪神と戦う前の最後の時間だと言うのに、オレたちは笑い続けた。最初は無理やりだった笑いが、自然な笑いになるまでそう時間はかからなかった。


 そうだね。これから死ぬか生きるかの戦いがあるというのに、なんで笑っているんだろうね。


 冷静に考えれば考えるほどおかしな状況だ。


 でも、緊張でガチガチになっているより、笑っていた方がいい。大きな声で笑うことによって緊張を解し、いつも以上の力が出せるようになる。


 前世のテレビで見ただけのうろ覚えな情報だったが、やってみると意外と効果があるかもしれない。緊張で震えそうだった体は解れ、微かに温かくなっていた。


 皆の顔を見れば、少し頬が赤くなっていた。


 いいね。いい感じだ。


 少なくとも、先ほどの真っ白の死にそうな顔よりもいいだろう。


「よし、笑ったし、行くか」

「お兄さま、どうして急に笑ったのですか?」

「それはね、リア。笑うと力が出るからだよ。ほら、皆いい顔してるだろ? 緊張でガチガチになるよりよっぽどマシさ」

「ん。でも、顎痛い……」

「リリーは普段しゃべらないからだよ」

「ふふ。たしかに緊張が解れた気がします」

「そうですね、お姉さま。体も少し温かくなりました」

「つまり、準備万全だね? じゃあ、行くよ。今度は邪神ごと笑い飛ばしてしまおう」

「「「「はい!」」」」


 オレが扉を開けようと手を置くと、扉が勝手に開いていく。扉の向こうから、まるでドライアイスを焚いていたかのように白い煙が這い出て、冷たい空気が流れてきた。


 オレは気にすることなく歩みを進める。


 見えてきたのは、青い炎を付けた黒い蝋燭に照らされた大きな空間だ。奥には大きな黒い玉座に座る黒い全身甲冑があった。


 デカい。座っている状態だというのに、四メートルは超えるだろう。


 玉座に流れる光の柱は無い。つまり、邪神四天王はすべて討ち取り、邪神にはバフ効果が無いことが分かる。


 ありがたい。どうやらリーンハルトたちは約束を守ってくれたらしい。


 甲冑の目の部分に開いたスリットから赤い二つの光が漏れる。邪神の目だ。


『来たか……。人の子の英雄よ……』


 まるで風が洞窟に反響しているようなかすれて枯れた声だ。これが邪神の声か……。威厳よりも枯れ果てた老人を想起するような覇気のない声だ。しかし、深い深い憎しみを感じる声だ。


『貴様らに恨みはないが……。消えてもらおう。そして、我こそが神として君臨し、新たなる世界を――――』

「リリー、魔法だ」

「ん!」

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。

下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。

☆1つでも構いません。

どうかあなたの評価を教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ