180 抗う
「遺体、ですわね……」
エレオノーレの呟き通り、オレたちの目の前には無残な遺体が複数転がっていた。
しかも、一応顔見知りの遺体だ。
「たしか『疾風迅雷』だったな……」
オレたち『レギンレイヴ』と同じく国によって邪神の討伐を託された国選パーティの一つだ。もう邪神城をここまで攻略していたのか。情報も無いのによくやるものだ。さすがは国選パーティに選ばれた冒険者の上澄みだな。
だが、道半ばで力尽きてしまったらしい。
ここまで独力で来られる実力があるのなら、共に協力できればどんなによかったか……。
この階層だけモンスターの数が少なかったのは、彼ら『疾風迅雷』が露払いをしてくれたおかげかもしれない。
オレはしばらく黙祷を捧げると、『疾風迅雷』のリーダーだった小柄な男の亡骸の傍に膝を付いた。
男の目は大きく開かれ、その手には力強く武器を握っている。その他の亡骸も同じだ。彼らはモンスターに背を向けることなく、最後の最後まで戦って果てたのだということが分かった。
なんともやりきれない気持ちになった。
そんな気持ちを振り払って、オレは男の体に手を伸ばす。
「お兄さま?」
「ディー? 何をしているのですか?」
「この男は『疾風迅雷』のリーダーだった男だ。この階層を突破するためのアイテムを持っているかもしれない」
コルネリアとクラウディアに答え、オレは男の荷物を漁る。
オレだってこんなことはしたくない。だが、今は死者への配慮よりも生きている者たちのために少しでも早く邪神を討伐したかった。
「でしたら、彼らの冒険者証を形見に回収しましょう。さすがに遺体は回収できませんが、せめてそれだけでも……」
「ああ、頼んだ……」
エレオノーレの声に応え、オレはそれを見つけた。三角形の銀色のアイテムだ。大きさは拳と同じくらい。それが三つも。
「揃ってるじゃん」
「それ、なに?」
「リリーか。これはこの階層を抜けるためのカギだ」
「カギ、ですか?」
クラウディアの声に集まった皆の注目。オレはそれに頷いて返す。
「そうだ。この階層には三体の中ボスが……。まぁ、そこらへんに居るモンスターよりも強い奴らが居る。そいつらを倒すと、このカギを一つずつ落とすんだ。これを三つ集めて指定された場所に填め込むと、次の階に行ける」
「重要なアイテムですのね……」
エレオノーレの気の毒そうな視線が『疾風迅雷』の面々に向けられる。
「他人の功績を奪うようで気分はよくないが、今はとにかく急ぐ。使わせてもらおう」
オレは立ち上がると、皆と一緒にエレベーターの位置を目指した。
その次の階層の謎解きも、その次の階層のパズルも、オレは前世の記憶を頼りにヒントを探し求めて階層を彷徨うことなく解いていく。
モンスターとの遭遇を避けて、とにかくズルでもバグでもなんでも使って最速を目指す。まるでRTAに挑戦でもしているような気分だ。
だが、そのおかげでオレたち『レギンレイヴ』は体力や聖力の消耗を最小限に抑えて次々と階層を攻略して魔神城を登っていった。
◇
「斉射!」
カサンドラの号令の下、無数の風切り音が響き渡る。クロスボウの発射音だ。
発射されたクロスボウのボルトは、多種多様なモンスターを貫き、その命を奪っていく。
「槍隊突撃!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
クロスボウの斉射を浴びたモンスターたちに、槍を持った人々が突撃をする。その中には、すでに老人と呼ばれるような者や、成人を迎えたのかも怪しい若い者の姿も見えた。彼らは兵士ではない。民間人だ。
よく見れば、発射したクロスボウの弦を急いで巻き上げているのは女や子どもである。
バウムガルテン領軍は四千の規模を誇っていたがそれでは到底足りず、動ける若者を根こそぎ動員してもまだ足りず、老人や女、子どもまでも動員していた。
まさに総力戦だ。
「槍隊、退きなさい!」
「クロスボウ隊、構え!」
カサンドラ自身もクロスボウを構えながら、ギフトの力によってモンスターの動きを確認し、的確に指示を出し続ける。
カサンドラたちが守るのは、元は西村と呼ばれていたバウムガルテン領の最も西に位置する街だ。バウムガルテン邸のある本街も攻略され、ここが残された最後の砦である。ここを攻略されれば、もう後はない。それが分かっているから非戦闘員だった住民たちも恐怖を押し殺して戦闘に参加しているのだ。
「斉射!」
また無数の風切り音を響かせてボルトの嵐がモンスターを喰い破る。
「もう一度撃ちます! 構え!」
カサンドラは発射済みのクロスボウの弦を巻き上げながら、発射位置を背後に居た少女に譲る。少女は即座に装填済みのクロスボウを構え、発射の時を待っている。
三人組を組み、次々とクルクル回るようにクロスボウの装填が済んだ者に先頭を譲り、クロスボウを連続で発射する。
カサンドラの考案した輪番射撃だ。
「斉射!」
西の街にはろくな城壁が無い。時間が無くて城壁の製作が間に合わなかった。そのため、街中のいたる所に馬防柵のようなものを製作し、辛うじてモンスターの侵攻を遅らせていた。
しかし、じりじりと押し込まれることにカサンドラは焦りを感じていた。しかし、ここまで追い込まれてしまえば、もうディートフリートたちが邪神を倒すと信じて遅滞戦術しか取る手しかない。
「ディー……。頼みましたよ……」
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