018 ホットドッグ
結局、先手を取って領民からのコルネリアの評価を上げる以外に有効な策を思い付くことができず、オレは爺にコルネリアのマイナスイメージの噂が広まる前に領民に告知するように指示を出した。
後は、一緒にゴブリン討伐をした常備兵にもコルネリアへのプラスイメージの噂を撒くように指示を出した。
アヒムたちは、コルネリアの攻撃の印象が強すぎて忘れがちかもしれないが、コルネリアが居なければゴブリンたちに殺されていたはずだ。その辺りからオレが直接意識改革をしたから大丈夫だろう。
はぁ、疲れた……。オレもコルネリアに習って早く寝てしまおう。
オレは馴染んできた執務室を出ると、寝室に行く前にコルネリアの部屋に寄る。
コンコンコンとノックしドアを開くと、デリアが静かに部屋の隅で座っているのが見えた。どうやら休憩中らしい。ということは、コルネリアはもう寝ているのだろう。
立ち上がろうとするデリアを手で制して、オレはコルネリアの眠るベッドへと足を進めた。
「リア……」
ベッドの横に置かれた椅子に座ると、オレはコルネリアの頭を優しく撫でる。まるで銀糸のようなコルネリアの銀髪は柔らかく、日の光を受けてキラキラと輝いていた。
屋敷に帰ってきてから、旅の疲れもあるし、コルネリアのスキルのことをあれこれ考えたり、コルネリアが悪意にさらされないように対策を考えたりして疲れた。
だが、気持ちよさそうに眠っているコルネリアを見ていると、まだまだいくらでもがんばれそうな気がしてくるのだ。
「さて、仕事に戻るか。おやすみ、リア」
そっと呟くと、オレはコルネリアの部屋を後にした。
◇
「ディスペル」
オレは目の前の山となった呪われたアイテムを解呪していく。オレのギフトのレベルはカンストしている。ギフトのレベルを上げる必要はなくなったが、これも外貨を得るためには必要な仕事だ。
呪いが解呪されれば、普通にアイテムとして使えるからな。その中でも状態がいいものをコルネリアやアヒムたち常備兵に使わせている。
そのため、コルネリアはもちろんだが、アヒムたちの装備もかなりいいものだ。
なぜコルネリアだけではなく、アヒムたちにもいい装備を使わせているか。それは、オレが突然博愛主義に目覚めたわけではない。バウムガルテン領では人が貴重だからだ。
オレは子どもたちに教育を施し、他領に売っている。今はまだいいが、そのうち人手不足になるだろう。人が出ていくばかりだからな。中でも若者はかなり貴重になる。
今度からはすべての人材を他領に売るのではなく、少なくとも領地の人口が横這いになるくらいには残しておく必要があるな。
元々農耕には適さないような痩せた大地しかないのだ。農業だけで養える人数には限りがある。その数をキープしていかないとな。
皮肉な話だが、領民の中には自分たちで赤ん坊を三歳まで育てれば、あとはオレが面倒を見てくれるということで、以前のような口減らしに赤ん坊を捨てるということは少なくなった。そして、以前より出生率が上がっている。
子育てに不安が少なくなったからだろう。
オレとしても商品が増えることになるのは賛成だ。じゃんじゃん生んでほしい。
「坊ちゃま、夕食のお時間です」
「わかった」
今日の夕食は何だろうな?
◇
「いただきます」
「いただきます!」
ボロい食堂でオレたち兄妹は食事を始めた。本来は神に感謝をするらしいが、我が家では面倒なのでカットだ。
今日のメニューは長いウインナー二本がメインだった。バウムガルテン領には豚が居ないので、たしか商人から買ったものだな。久しぶりの豚肉にちょっとテンションが上がる。
「熱ッ!? でも、おいひい……」
コルネリアも気に入ってくれたようだ。ウインナーをパクパク食べている。
オレは黒パンにナイフを走らせると、ホットドッグのようにして頬張った。
「うーむ……」
パンはパサパサで酸っぱいし、せめてケチャップが欲しいところだが、まぁ及第点かな。
「お兄さま? なんだか不思議な食べ方してるわね」
「こうすると、いっぺんに食べれるからね。楽なんだよ」
「坊ちゃま、少々はしたのうございますぞ?」
「私もやる!」
「お嬢様まで……」
後ろから爺の嘆きが聞こえるが、そんなものは無視だ。
「あ……」
コルネリアがオレの真似をするように黒パンにナイフを走らせたところで、とても悲しそうな声を出した。深く沈んだ表情をしていて、今にもその紅い宝石から涙が零れ落ちそうだ。
コルネリアが悲しそうにしているだけで、オレの心は締め付けられたように痛んだ。
見れば、コルネリアの皿には、すでにウインナーが無い。二本とも食べてしまったのだろう。これではホットドッグはできない。
「爺、これをリアに」
「坊ちゃま、よろしいのですか?」
「かまわん。早くしろ」
オレは決意が鈍る前に爺にウインナーの乗った皿を運ばせる。無論、オレがあとで食べようと残しておいたウインナーだ。
食べたかったが、泣きそうなコルネリアには勝てない。
「お嬢様、こちらをどうぞ」
「でも、これはお兄さまの……」
「オレならいいんだ。さあ、冷める前に早くお食べ」
「……うん! お兄さまありがとう。大好き!」
オレはコルネリアから視線を逸らして、堪らずテーブルの下でガッツポーズをした。ヤバい、顔がニヤけてしまいそうだ。
「お兄さま?」
「なんでもないよ」
オレはそう言いながら必死に笑顔を作るのだった。
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