177 ゾフィー
「うわああああああああああああああああああああ!?」
ドゴンッ!!!
サイクロプスによってまた一機のバリスタが破壊された。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
サイクロプス棍棒が城壁の上を撫でるように動き、兵士たちがすり潰されていく。四メートルを超えるサイクロプスには、高さの足りない城壁などなんの役にも立たなかった。
バウンッ!!!
残る一機のバリスタから矢が放たれ、サイクロプスの首を穿つ。サイクロプスに致命傷を与えた。残るサイクロプスは、一際大きなサイクロプスリーダー一体だけだ。
ドゴンッ!!!
しかし、返すサイクロプスの棍棒によって最後のバリスタが破壊される。
「くっ!」
アヒムはゴブリンの首を刎ね、返す剣で別のゴブリンの首も刎ねた。
アヒムは焦っていた。
サイクロプスリーダーが破壊した城壁の穴は大きく、すぐにモンスターたちが城壁に空いた穴を通って侵入してくる。もはやどこでも白兵戦が展開されていた。
「アヒム総隊長! 退くべきでは!?」
まだ若い士官がオークを相手取りながらアヒムに進言する。
アヒムだって退けるものなら退きたい。退いて第三城壁を頼みにモンスターを迎撃したいのが本音だ。
しかし……。
アヒムの視界には残った最後のサイクロプスであるサイクロプスリーダーの姿が映る。
あのサイクロプスは放ってはおけない。第三城壁は堀もなければこの第二城壁よりも低いのだ。またあのサイクロプスに城壁を壊されては堪らない。
やはり、あの暴れまわるサイクロプスをどうにか倒さねばならない。
「やあああああああああああああああ!」
「せやあああああああああああああ!」
兵士たちは勇猛果敢にサイクロプスリーダーに突撃を敢行する。槍を構え、サイクロプスリーダーの足に攻撃を仕掛けているのだ。
だが、サイクロプスリーダーもバカではない。迫りくる決死の兵士たちを蹴飛ばし、踏み潰し、対処していく。
しかし、サイクロプスリーダーの足に刺さる槍の数は着実に増え、サイクロプスリーダーの足止めに成功していた。
今なら、スキルを使えばアヒムはサイクロプスリーダー必中の攻撃を放つことができる。
だが――――。
「俺にできるか……?」
もう何度振るってきたか分からず、感覚などはとうに喪失し、小刻みに震えが走る右腕。もう自分の腕ではないみたいだ。まるで石の腕をぶら下げているような感覚。そんな状態で、サイクロプスリーダーに致命の一撃を放てるだろうか?
「できるかじゃない。やるんだ!」
アヒムは剣を一度鞘に仕舞い。抜刀術の構えを取る。最高の一撃を放てねば、サイクロプスリーダーを倒すことは叶わないと思ったのだ。
しかし、そんな隙を見逃すモンスターたちではない。
ゴブリンが、オーガが、アヒム目掛けて迫る。
そんなことはアヒムにだって分かっている。
だが、今やらねば、ただいたずらに兵士の命が散ってしまう。
アヒムは迫るモンスターらの存在も、音も、すべてを意識から排除し、一心にサイクロプスリーダーの首を狙う。
「斬撃ッ!!!」
アヒムの魂を込めた渾身の一撃は――――。
◇
「ここは……?」
ゾフィーは気が付いたら満点の星空を見上げていた。だが、なんだか視界が狭い。右目が見えていないのだ。
どうしたのだろうと右手で右目を触ろうとして気が付いた。右腕も動かない。
なぜだろう?
ゾフィーが疑問に思った時、彼女の耳になにか音が聞こえてきた。
人々の怒号、そして、野蛮なモンスターの叫び声だ。
「はっ! ぐ……ッ!?」
ゾフィーには、それがすぐに戦の音だと気が付いた。そして、自分が今、モンスターと戦争中だったことも思い出す。すぐに立とうとして、しかし、まったく体が動かない。
自分はどうなったのか?
たしか、サイクロプス突っ込んできてそれから……。
「はは……」
戦況を思い出しながら、恐る恐る目だけを動かして自分の体を見ると、右半身がどこかに消えていた。いつかのテアよりもひどい。大怪我という表現でも相応しくないほどの致命傷。
もう自分は助からないのだとゾフィーは嫌でも理解させられた。むしろ、こんな状態でもまだ意識があるのは奇跡だ。
視界を巡らせて確認すれば、自分は崩された城壁の上に居るのだと理解した。城壁の上からは、下の戦況がよく見えた。
人とモンスターの入り混じった白兵戦。城壁を頼みに時間を稼ぐという最初に立てた作戦とは違うことがゾフィーにはわかった。
そして、その原因も。
「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
城壁の上から見ても見上げる存在。大きなサイクロプスの中でも一際大きなサイクロプスリーダー。ゾフィーに死を運んだもの。
あれが居る限り、次の城壁に下がることはできない。
「足、だけでも……」
兵士たちが命を捨てサイクロプスリーダーの足を攻撃しているのと同じく、ゾフィーは魔法でサイクロプスリーダーの足を攻撃しようとする。
欠損した体に残されたわずかな聖力をかき集め、その命さえくべて魔法を創り上げる。
使用する魔法は慣れ親しんだファイアボールだ。
いざゾフィーが魔法を発動させようとしたその時、サイクロプスリーダーの首に線が走った。アヒムの放った斬撃のスキルだ。
サイクロプスリーダーはそのまま体をゆらりと揺らして倒れそうになるが、耐える。アヒムの全力をもってしても傷が浅かったのだ。
しかし、まったくの無駄であったわけではない。なぜなら――――。
「ファイア、ボール……!」
ゾフィーの魔法がついに発動し、火の玉が顕現する。
ファイアボールはゾフィーの狙い通りにサイクロプスリーダーの首に命中し、アヒムの付けた傷口をなぞるように爆発。サイクロプスリーダーの首を見事、吹き飛ばしてみせた。
アヒムの斬撃だけでも、ゾフィーの魔法だけでもダメだっただろう。兵士たちがその身を犠牲にサイクロプスリーダーを足止めをしたのをはじめ、何人もの人間の協力があって初めて叶った勝利だった。
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