176 進
「せあッ!」
闇の双聖剣を振るい、ガーゴイルの首を砕く。他のガーゴイルの攻撃をバックステップで避けて、踏み込んで反撃を繰り出す。
オレの目の前には、目視できるだけで四体のガーゴイルが居た。
ガーゴイルのバックアタックだ。
「ぐぅッ!」
「えいっ!」
後ろからエレオノーレの呻くような声と、コルネリアのちょっと気の抜ける掛け声が聞こえてきた。前衛は前衛でリビングアーマーたちと戦闘中だ。
元々、リビングアーマーと戦闘していたのだが、ガーゴイルがバックアタックしてきたのだ。
ゲームなら戦闘が終わるまで他の敵の介入は無いのだが、これはゲームではなく現実だ。悠長に敵が戦闘の終わりまで待っているはずがない。クソが!
「ディー!」
その時、クラウディアから鋭い声がかけられた。なにか問題があったか?
オレはチラリと後方を確認する。リリー、クラウディア、コルネリア、エレオノーレ。皆、健在だった。しかし、エレオノーレの右腕がおかしな方向に曲がっているのを見逃さない。
「ヒール!」
エレオノーレに【ヒール】を施すと、オレはすぐに右にステップを踏んだ。先ほどまでオレの居た空間をガーゴイルの獰猛な噛み付き攻撃が空を切る。
「アン・リミテッド!」
オレは左腕に力を溜めると、伸びきったガーゴイルの首に目がけて左の斬撃を叩き込む。
ガギンッ!
まるで金属を殴っているような手応えと共にガーゴイルの首を砕く。オレにはコルネリアのようにガーゴイルを斬るのは無理だな。せっかくの闇の双聖剣なんだが、使い方が鈍器と変わらない。
この魔神城のガーゴイルは、普通の石のガーゴイルよりも何倍も硬い。ガーゴイルの攻撃自体は単調だからそれほど難敵というわけではないが、体力の消耗が激しい。
まぁ、コルネリアたち前衛が戦ってるリビングアーマーほど強いモンスターではないのは救いではあるが。
だが、また敵が寄ってくる前に手早く倒す必要がある。モタモタしていたら囲まれて袋叩きに遭いかねない。
「アン・リミテッド……!」
オレはガーゴイルたちに向けて突撃を敢行した。
◇
「ヒール!」
ディーの声が聞こえた途端に、右腕の痛みが消える。ディーが戦況を確認して、わたくしに【ヒール】を唱えてくれたのです。
ディー……。貴方もガーゴイル相手に戦っているでしょうに……。
わたくし、エレオノーレは忸怩たる思いを感じた。これ以上、ディーに負担をかけてはいけない。彼はガーゴイルの群れを一人で抑えているのだから。
目の前に見えるのはリビングアーマーと呼ばれる動く全身鎧です。それが二体。
わたくしの役目は、敵の攻撃を一身に受けて相手の隙を創り出し、味方の攻撃に繋げること。
「やぁあああああ!」
わたくしは敵の注意を自分に集めるために前に駆けだし、声を張り上げます。
それと同時リビングアーマーも動き始めました。リビングアーマーの持つ武器は大剣。それを大きく振り上げてわたくしを迎撃しようとします。
わたくしは前傾姿勢で駆けたままリビングアーマーの間合いに踏み込みました。
途端に振り下ろされるリビングアーマーたちの二本の大剣。
わたくしはその時を待っていました。
いかにも突撃を仕掛けるような前傾姿勢はブラフ。重心は瞬時に後ろに。バックステップ。
わたくしの鼻先を掠るように二本の大剣が走り、床に打ち付けられて轟音を轟かせます。その隙を見逃すリアとお姉さまではありません。
「えいっ!」
リアが滑るように疾走し、剣を振り下ろしたばかりの右のリビングアーマーの胴を両断しました。
リビングアーマーが全身鎧のモンスターと言っても、その中は空洞ではありません。中にもしっかりと金属が詰まった、どちらかというとガーゴイルに近いモンスターです。
それを両断。そのすさまじい剣技には惚れ惚れしてしまうほど。
「せやっ!」
お姉さまも負けてはいません。お姉さまの繰り出す聖槍の穂先は、正確に左のリビングアーマーの弱点とディーに教えられた胸の赤い宝石を穿ちます。
自分の持つべき武器に悩み、一通りの種類の武器を試したわたくしにはわかります。槍という長物で、リビングアーマーの胸の小さな赤い宝石を正確に穿つのがどんなに難しいことなのか。
リアに両断された右のリビングアーマー、お姉さまにコアを穿たれた左のリビングアーマー。共に急速に錆びていき、風化していきます。後にはなにも残りません。
二体のリビングアーマーが消えたことによって、少しだけ視界が開けましたが、すぐに他のリビングアーマーと視線がぶつかります。
いったいあとどれだけの数のリビングアーマーが居るのか……。くじけそうになる心を叱咤して、わたくしは剣を構えました。
「貫いて」
背後からぼそりと呟かれる言葉。リリーの魔法の発動です。器用にわたくしたちを避けて、石の槍が飛びます。
硬いはずのリビングアーマーを穿ち、破壊し、粉々にしていくリリーのストーンランス。これで一気にリビングアーマーが片付きますが、前方にはまた新たなモンスターの影が……。
「さすがは敵の本拠地ですわね……!」
わたくしは風化して消えゆくリビングアーマーの間を駆け抜け、新たに現れた二足歩行のカエルのようなモンスターに剣を叩きつけました。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。
下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。
☆1つでも構いません。
どうかあなたの評価を教えてください。




