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175 最悪の事態

 夜。


 バウムガルテン領には過剰なまでに明かりが焚かれ、戦闘がおこなわれていた。


 人間は夜目が利かない。そのことを分かっているのか、モンスターたちの攻勢も激しい。


 大ムカデが自身の体を梯子代わりにしてゴブリンを城壁の上に送り込み、空を飛べるモンスターが、まるで空挺部隊のようにバウムガルテン領の広域に侵攻する。


 すでに後方が被害に遭って久しい。非戦闘員を守るためにも兵力を分散せざるをえず、前線では厳しい戦いが続いていた。


「飛斬ッ!」


 城門の上でアヒムが空に剣を振る。すると、城門から離れた位置にいたオーガの首が飛んだ。アヒムのギフトによる力だ。


「く……っ」


 もう何度も剣を振り続けてきたのだろう。アヒムの顔には疲れの色が色濃く残り、剣を振るった右腕を左腕で乱暴に叩いていた。


 それに、スキルを使ったことによる聖力の消費。それによって引き起こされる精神的な疲れも感じているのだろう。


 聖力の枯渇に喘いでいるのは、なにも治癒魔法使いだけではない。前線で様々な魔法を扱う魔法使いはもちろん、アヒムのような戦士も例外ではなかった。


 だが、アヒムに休む暇など無い。


「ムカデが来るぞー!」


 また厄介な大ムカデが来たか。アヒムの視界の先では、ちょうどムカデが城壁にへばりつくところだった。その背中にはゴブリンを乗せており、すぐに城壁の上にゴブリンが乗り込んでくる。


 ゴブリンといえば、雑魚モンスターの代名詞だ。だが、邪神が復活し、モンスターを強化してからは侮ることができないモンスターとなっていた。今も一人の兵士がゴブリンに手傷を負わされていた。


「飛斬ッ!」


 アヒムは腕の痛みを押して右手の剣を振る。


 アヒムのスキルは見事、大ムカデの硬い体を断ち切った。


「ふぅ……」


 疲れからか、太い息を吐くアヒム。


 しかし、常に変わり続ける戦況は彼を待ってはくれない。


「あれ……?」

「なんだあれは!?」

「大きい……!」


 それは四メートルはあろうかという大きな人影だった。それが第一城門の崩れた所を通ってこちらにやってくる。


「あれは……サイクロプス!」


 闇夜に爛々と輝く大きな一つ目。一つ目の巨人。サイクロプスだ。


「近づけさせるな! バリスタ隊、サイクロプスを狙え!」


 バシュンッ!!!


 アヒムが言い終わるや否やバリスタの発射音が響く。


 敢えて明かり取りのために燃やされた巨大な火矢が飛ぶ。しかし――――。


 バキンッ!!!


 サイクロプスは手に持った巨大な棍棒でバリスタの火矢をへし折った。


 あの巨大な体にあの俊敏性。


 アヒムの顔に意図せず冷汗が流れる。


「バリスタ隊! とにかく撃て! サイクロプスを近づけさせるな!」


 バシュンッ!!! バシュンッ!!! バシュンッ!!! バシュンッ!!!


 連続してバリスタの発射音が響き、赤い軌跡を残して火矢がサイクロプス目がけて飛んでいく。


 バキンッ!!!


 サイクロプスは、一本の火矢を迎撃に成功するが、続く二本目、三本目、四本目の火矢をその身に受けて沈黙した。アヒムをはじめ、見守っていた兵士たちの全員がホッと安堵した時だった――――。


 ズシン! ズシン! ズシン! ズシン!


 騒がしい戦場に響き渡る重苦しい重低音。


「そんな……」


 アヒムは誰かの絶望の声を聞いた。それはもしかしたら自分の声だったかもしれない。


 五本の火矢が撃ち込まれ、少し明るくなった第一城門の破壊跡。そこに現れたのは、青い肌をした一つ目の大鬼、サイクロプスの集団だった。


「バリスタ隊、装填急げ! 目標サイクロプス! 順次放て!」


 元々八機あったバリスタは、戦闘を経て五機に減っていた。今はすべてのバリスタが発射済み。次発装填には時間がかかる。


 そして、四メートルにもなるサイクロプスにとって、バウムガルテンの城壁は身を守る盾にはなってくれない。


 そして、よくないことは重なるものだ。


「走ってきたぞ!」


 サイクロプスたちは、バリスタを脅威と見て、走って距離を詰めてきたのだ。


 バリスタの装填はまだ終わらない。このままでは……。


「大隊! 魔法発動準備! 目標! サイクロプス! 構えなさい!」


 魔法大隊を預かる大隊長、ゾフィーの命令が響き、魔法使いたちが必死に残りの聖力をかき集めて魔法を発現する。


「まだ撃つんじゃないわよ! 十分に引きつけなさい! …………今!」


 火、雷、氷、岩、様々な魔法が高速で迫りくるサイクロプスへと放たれた。


 魔法の威力は絶大だ。一体、また一体とサイクロプスを屠っていく。


 この調子なら……!


 だが――――。


 最後尾を走る一際体の大きな一体のサイクロプスが、魔法で首を飛ばされた仲間の体を盾にして突っ込んできた。地表に居たゴブリンやオークをも踏み潰し、まさに決死の突撃だ。


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!


 その衝撃はすさまじいの一言に尽きた。


 第二城壁の一角をも吹き飛ばし、城壁の上に乗っていたゾフィーたち魔法使いも消し飛んだ。


 後に残ったのは大穴の開いた第二城壁と、未だに健在のサイクロプスの姿だった。

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