173 魔神城
「ぜあ!」
オーガの首を刎ね、周りを見渡すと、もう立っているモンスターの姿は無かった。
これで終わりか。
「ふぅ……」
馬車を乗り捨て、山登りを開始して何日たっただろう?
オレたち『レギンレイヴ』は、すでに邪神の待つ山の中腹ほどまで到達していた。もう少しで最後のダンジョンである邪神城となるはずだ。
ここからは眼下の広大な森やその先にあるバウムガルテン領が見渡せる。バウムガルテン領のあるあたりからは黒々と煙が上がっており、もう一刻の猶予もないことを嫌でも自覚させられる。
「皆、怪我はない? 軽傷でも遠慮なく言ってくれ」
「いいかしら? 足を挫いてしまったようで……」
「わかった」
オレはエレオノーレの足首にヒールをする。
「ありがとうございます、ディー」
「いいよ」
エレオノーレの腕を引っ張って立ち上がらせると、残りのメンバーにも目を配る。皆、汚れた格好はしてはいるが怪我はないようだな。
「シャワー浴びたい……」
「ん……」
「それは言いっこなしですよ……」
コルネリアが髪をいじりながら溜息を吐き、リリーとクラウディアが同意する。
「すまない。一刻も早く邪神を倒したいんだ。我慢してくれ」
「ディーが悪いわけではありませんわ。一刻も早い邪神の討伐は、世界の望みですもの」
エレオノーレがオレを元気付けるように笑顔をみせた。
「そうそう。お兄さまのせいじゃないわ。わがまま言ってごめんなさい……」
「リアが悪いわけじゃないよ。オレだってシャワーを浴びたいさ。だが、先を急ごう」
「ん」
「邪神を倒したら、いくらでも浴びれますもの。行きましょう」
リリーとクラウディアが頷き、オレたちは登山を再開した。しかし――――。
「右上空! ガーゴイル! 数四!」
「ん!」
クラウディアの敵発見の報告が飛び、即座にリリーが魔法を使う。
ドゴオオオオン!!!
空に爆炎の華が咲き、ボロボロとガーゴイルだったものが森に降っていく。
「モンスターとの遭遇率が上がってきましたね……」
「そうだね。リリー、聖力の残りはどのくらいだ?」
クラウディアの言葉に頷き、リリーに確認を取る。
「半分より上」
「わかった」
まだ聖力の補充はいいか。
「進もう。あの城まで」
もうここからは頂上の邪神城が見え隠れしていた。黒く大きく、禍々しい雰囲気のする城だ。見ていると背中がゾワゾワし、鳥肌が立ってくる。まるで気持ち悪い虫を見ているような気分だ。ダンゴムシの裏側とかな。
◇
それからオレたちは何度も敵襲に遭いながらも少しずつ山を上り詰めた。
目の前に広がるのは、大きな城門だ。その後ろには、見上げると首が痛くなりそうなほど高い城がある。
城は継ぎ目のない黒い金属のような光沢のある物質でできていた。一目で尋常なものではないことがわかる。
正直に言おう。オレは圧倒されていたのかもしれない。こんなものを即座に創り出す邪神の力に恐怖した。
「お兄さま……」
「お兄……」
「これは……」
「なんという……」
邪神を倒すことが可能と知っているオレでさえそれだ。コルネリアたちが喘ぐように呟くのも無理はない。
「行こう。オレたちはそのために来たんだ」
自分を奮い立たせるために言うと、オレは意を決して邪神城へと足を踏み入れた。
◇
「ガーゴイル、前方より三体!」
エレオノーレの注意を促す声が邪神城の庭園に響く。前を見れば、城の装飾として擬態していたガーゴイルが上空より落ちてきたところだった。
オレたちはすでに三体のガーゴイルと戦っている。もう三体のガーゴイルの追加は厳しい。
「リリー、魔法のセーブ解除! ぶっ壊せ!」
「ん!」
リリーの魔法が即座に発動し、庭園の床を貫いて尖った岩の巨槍がガーゴイルを下から迎え撃つ。
石同士がぶつかる快音が響き渡り、三体のガーゴイルを宙へと弾き飛ばした。
しかし――――ッ!
ガーゴイルの体にはヒビが入っているが、倒すには至らない。
宙に弾き飛ばされたガーゴイルが翼を広げてこちらに向かって滑空してくる。
「追撃……!」
リリーの呟きと共に、リリーの前に三本の石の槍が展開されていた。リリーお得意のストーンジャベリンの魔法だ。
ストーンジャベリンは展開と同時に射出され、今度こそガーゴイルを貫き砕いた。
「えい!」
空のガーゴイルが片付いたその時、コルネリアによって地上の最後のガーゴイルが斬り捨てられる。ガーゴイルの断面は滑らかな表面を見せてコルネリアの高い剣の技量が窺えた。
「おつかれさま。怪我はない? じゃあ、行こうか。この先、回廊があるんだけど、そこに飾られている甲冑はすべてリビングアーマーという動く鎧のモンスターだ。不意打ちに注意して。弱点は胸の赤い宝石だ。狙って破壊してくれ」
「わかりましたわ。あの、ディー?」
「わかってる。なんで知っているのかって質問には後で答えるよ。今は先を急ごう」
「わかりましたわ。それと、わたくしはディーを信じています。貴方が何者であれ、わたくしの愛には変わりありません」
エレオノーレ。それって、オレのこと愛してるって言ってるようなものだよね? その気持ちは嬉しいけど、奥ゆかしいエレオノーレが素で告白するとは思えない。おそらく本人は自分の言葉の意味に気が付いていないのだ。笑顔を浮かべているけど、エレオノーレの疲労は溜まっているのかもしれない。どこかで休息を取りたいが……。どこかあっただろうか?
オレは前世の記憶を、ゲームの情報を必死に思い出そうとしていた。
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