170 死にゆく者②
ドゴーンッ!!!
轟音が響き、ついに分厚い城門が破られた。
「GUOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「行くべ!」
「「「「「応!」」」」」
喜色を浮かべて門をくぐろうとしたオークたちを迎え撃つのは、十一人の手負いの男たちだ。オークの笑みがさらに深くなる。
「どらぁあ!」
先頭に立っていた木こりの男が斧をオークの右脚へとお見舞いした。斧はオークの分厚い脂肪を切り裂き、骨を折る。それは彼が木こりとして一生懸命働いた成果だ。
「PIGYA!?」
思わぬ攻撃力に出鼻をくじかれるオークたち。
「突撃じゃ!」
「「「「「うぉおおおおお!!!」」」」」
先手を取った男たちは、槍を手にオークたちに突撃する。そのまま一体、二体とオークを屠り、勢いにのってオークを城門から押し出すことに成功した。
「今だ! 城門を塞げ!」
男たちの後ろでアヒムの命令が飛ぶ。
あらかじめ言い聞かせられていたのだろう。職人たちは目に涙を浮かべながら城門を塞いでいった。これで男たちの退路は断たれた。
オークたちの中にただ残された十一人の男たち。その運命はもう決していた。
「あとは時間稼ぎじゃの……」
「簡単に死ぬなよ?」
「無茶を言うのう」
しかし男たちの顔には笑みがあった。
「時間稼ぎはいいが、全部倒しちゃってもよいのか?」
「大きく出たな! その意気だべ!」
男たちの顔が、まるで獲物を狙う狩人のように鋭いものに変わる。この絶体絶命の状況の中、むしろ狩るのは自分たちだと言いたげだ。
「UGAAAAAA!」
男たちの不遜な態度にオークたちは一斉に襲いかかった。
男たちは固まって槍で応戦するが、オークたちは槍など意にも介さず突っ込んできた。
しかし、そのうちの何体かのオークは嫌がるように止まっていた。
「目だ! 目を狙え!」
即座に情報が共有され、少しでも時間を稼ぐべく男たちは槍を振り回す。
「おわ!?」
しかし、槍を持たない木こりの男がオークに捕まってしまった。オークはそのまま木こりの男を持ち上げると、くびり殺そうとする。他の男たちからは、木こりの男が邪魔でオークの弱点である目が狙えない。おそらくオークが盾にしているのだろう。
「オラごと貫け!」
「応!」
しかし、オークは男たちの決意を見誤っていた。
男たちは瞬時に木こりの男ごと槍でオークの目を貫く。
「ごふッ!」
「PIGYAAAAAAAA!?」
木こりの男を離して目を手で隠すオーク。そのオークの首を木こりの男は斧で刎ねる。
「すまん、助かった」
「もう捕まるんじゃねぇぞ」
「まぁ、倒せたし、結果オーライってやつだ」
木こりの男は仲間に致命傷を負わされたというのに笑って立っていた。もう彼らはいちいち傷に構っている暇なんてない。死を覚悟した兵。死兵なのだから。
その様子にオーク、ゴブリンたちは足を止めて恐れおののいていた。
◇
「ッ!?」
「ペッ! まずい……」
喉を咬み千切られたゴブリンがビクリと体を震わせて倒れ、折れた槍を杖のように突いて男が立ち上がる。もう何度見た光景だろう。男たちは数を減らしていたが、当然のように立っていた。
その姿はもう無事な所など一つもないほどボロボロだった。足をもがれ、腕をもがれ、臓腑をこぼしている者も居る。もう立っているのが、生きているのが不思議なほどだ。
立てない者も決して剣を離そうとはせず、その戦意は挫けそうもない。しかし、その数も残すところあと五人となっていた。
「ああああああああああああ!」
「GUGYAAAAAA!?」
また一人の男がオークに踏み潰され動かぬ屍となる。しかし、男は最期の反撃として、折れた剣をオークの足裏に刺していた。
ドゴンッ!
動けなくなったオークを爆炎包み込む。城壁の上からの援護だ。
城壁の上からの支援を受けて、残り四人となった男たちは奮戦する。その動きは、まるでゾンビのように緩慢だ。しかし、侮ることはできない。男たちは、そうして何体ものモンスターを倒してきたのだから。
だが、それももう長くは続かなかった。
「おっかぁ……」
また一人、男が倒れる。また一人、今度は脳天に矢を受けて倒れた。
モンスターたちはもはや男たちには近づかない。遠距離攻撃で男たちを仕留めていく。
最後の一人、木こりの男もモンスターの魔法に倒れ、ついに、城門を守っていた男たちはすべて倒れた。
それでも、モンスターたちは死体に矢を撃ちこみ、死んでいることを確認してから、恐る恐る前進する。豪胆で知られるオークたちも確実に男たちの頭を踏み潰しながら前進した。
それだけ、男たちがモンスターに与えた恐怖は、色濃く残っていたのだ。
十一人の男たちが稼いだ時間は、三十分にも及んでいた。これほど手こずることになるとは、モンスターたちにとって予想外であった。
見れば、膨大な犠牲を払いつつも、確かに壊したはずの城門の穴からは、積み上げられたレンガが見えている。また、今度は城壁を壊すところから始めないといけない。
暗澹たる気持ちを抱えながらも、モンスターたちは城門への攻撃を三十分ぶりに再開するのだった。
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