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168 セントール

「KUGEGYA!」

「GYAGYAGYA!」


 ゴブリンたちが馬車を見つけて襲ってくるが、馬車の速度に任せて突っ切っていく。


 さすが、六頭立ての王国の最新の装甲馬車だ。ゴブリンたちの放ったへろへろの矢など当然のように跳ね返していく。戦場での要人輸送用に開発されたと聞くが、聞きしに勝る性能だ。


 まぁ、馬を六頭も使うから燃費もそれ相応だがな。


 土煙を上げて、オレたちは王国の街道を北に進んでいた。そろそろ北部辺境と呼ばれる地域に差し掛かるだろう。だんだんと人の営みの痕跡は少なくなり、モンスターとも遭遇するようになっていた。


「そろそろリリーを御者席に呼んだ方がよさそうだな……」


 リリーの魔法でモンスターを蹴散らしながら進む必要も出てくるだろう。


 なんだか戦車みたいだな。


 そして、リリーを御者席に呼んでからそう時間の経たないうちにリリーの魔法が必要になった。


 まるで通行止めをするようにモンスターたちが街道を横断している。おそらく北の辺境伯領に向かう行軍の途中だろう。嫌なタイミングで来てしまったな。最悪の遭遇だ。


 モンスターたちも気が付いたのか、こちらを向くと魔法が飛んでくる。


「リリー!」

「ん!」


 リリーが魔法を行使する。飛んできたいくつものファイアボールにウォーターボールをぶつけて相殺していく。


 それだけではなく、風の魔法で竜巻を生み出してモンスターを巻き上げた。


 突然、目の前に竜巻が発生したオレはドキッとしてしまう。


「このまま進んでもいいのか!?」

「ん。まっすぐ」

「了解だ!」


 馬たちに鞭を打ってそのまま前進する。さすが国が用意した馬たちだ。ファイアボールが飛んできたりしている戦場でも臆せず前進を続ける。


 前を向けば、先ほどまで荒ぶってい竜巻が嘘のように消えていた。強い風は感じたが、馬も馬車も被害を受けることなくモンスターの列を横切る。


 後ろから飛んできた魔法や矢はすべてリリーの立てた石壁に遮られて届かない。


「リリーよくやった!」

「ん」


 隣に座るリリーの頭を撫でると、リリーは満足そうに目を細めていた。かわいい。


 そのまま、オレたちはモンスターの軍団に遭遇しては、それらを蹴散らして進んでいく。もう北方辺境領を越えているだろう。もう人間の領域じゃない。モンスターの、邪神の領域だ。


 そろそろ東に舵を切ってもいいだろう。


 道無き道を東に進んでいく。はるか遠くに見える山々の山頂に邪神が居るはずだ。


「早く邪神を倒さないとな……」

「ん」


 知らず知らずのうちに手綱を持つ手に力が入っていた。


「ん?」


 それは、いつまでも終わらない金環日食の下、草原を走っている時だった。


「ッ!?」


 オレは右手で腰の剣を抜くと、リリーの前で振るう。


 ペキッ!


 半ばで斬られた矢が馬車の外に流れていく。


 攻撃!? どこから!? あの丘の上からか!? なんて精度だ!?


 とっさに遠視の魔眼を発動すると、馬に乗った野人のような男の姿が見えた。


 いや、おかしい。男には下半身が無く、馬には首が無かった。まるで馬の首から男の胴体が生えているかのような姿。


 セントールか!


「ん……?」

「リリー、敵だ! あの丘の上! 弓で狙撃されている!」

「っ!」


 リリーはすぐに魔法で対応した。リリーが腕を振ると、丘から馬車への射線を遮るように石の壁がまるで万里の長城のように走る。


「はぁ……」

「あぶない……」


 リリーと一緒につかの間の安堵の溜息を吐く。このまま馬車で振り切ってしまおう。


 そう考えた時だった。


 馬車を引く六頭の馬たち以外の馬のような足音が聞こえてきた。壁の向こうからだ。


 透視の魔眼で確認すると、セントールが二十体ほど馬車に並走するように走っていた。ご丁寧に矢をつがえた弓をこちらに向けて構えていた。


 今まで馬車の速さに任せてモンスターを振り切ってきたが、ここに来て馬車の速度に付いてくる敵が現れた。厄介過ぎる。


「リリー! 壁の向こうに敵が居る。攻撃できるか?」

「よゆー」


 ドシーン! ドシン! ドシン! ドシーン!


 壁の向こうから重低音と地響きが走る。それと同時に追走者の足音が減っていく。透視の魔眼で確認すれば、セントールの姿は確実に減っていた。


「シュヴァルツランツェ!」


 オレも闇の双聖剣の力で闇の魔法を使い、セントールを仕留めていく。二十体のセントールは瞬く間にその姿を消した。


「リリー、もういいぞ」

「ん」

「残りの聖力はどのくらいだ?」


 リリーには何度も大魔法を使わせてしまった。そうとう聖力を消耗しているはずだ。


「半分より下」

「わかった。オレの聖力を分ける」


 オレはリリーの首筋に手を当てた。


「ん……」


 リリーがなぜか歳に似合わない色っぽい吐息を漏らした気がした。


 オレは自分の聖力を他人に分け与えることができる。ギフトが大聖者になって手に入れた能力だ。これでオレはHPだけではなくMP的なものも回復することができるようになった。まさにパーティの経戦能力の要だ。


 オレはギフトを二度も進化させているからか、聖力の回復能力が高い。そうして回復した余剰分を仲間に分け与えるだけでもかなり違ってくるだろう。とくに聖力の消費が激しいリリーとは相性のいい能力だ。


「さて、このまま進むぞ」

「ん……」


 リリーの首筋から手を離すと、リリーが不満そうに見えたのはオレの気のせいだろうか?

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