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165 北進

「東か……」


 王都郊外の天幕の中、アルトマイヤー将軍の呟きが零れる。彼の元には王国の各地に配置した貴重なテレパスのギフトを持つ兵からの報告が上がってきている。


 それによると、敵の圧力は東が一番強いようだ。それだけで邪神が東に復活したとは言えない。だが、それでもアルトマイヤー将軍の頭には愛する孫娘の婿殿の話した予言がこびり付いていた。


『邪神は必ず東に復活します。国軍の速やかな東への展開を望みます』


 普通なら考慮にも値しない予言だった。しかし、バウムガルテン辺境伯は、事前に今もアルトマイヤー将軍たちの上空にある金環日食まで予言していたのだ。


 本当に邪神は東に復活したのかもしれない。


 だが、これが邪神の欺瞞工作ということもありえる。


「将軍、どうなさいますか?」

「アルトマイヤー将軍」


 アルトマイヤー将軍は、一分ほど目を瞑って考えて、ついに結論を下す。


「軍を分ける。第一、第二、第七軍は東、第三軍は南、第四軍は西、第五軍は北だ」

「第六軍はいかがいたしますか?」

「中央に置き、戦略予備とする。かかれ」

「「「「「はっ!」」」」」


 明らかに東に偏重した陣形。アルトマイヤー将軍は、バウムガルテン辺境伯の予言を信じ、しかし、それが破綻しても挽回ができるであろうギリギリを見極めていた。


「さて、どうなるか……。頼むぞ、婿殿……」



 ◇



 宮殿内の豪華な部屋の中。そこには二十人ほどの人々が待機していた。皆、思い思いの装備に身を包んだ冒険者たちだ。


 王宮にはふさわしくない物々しい雰囲気。


 その時、部屋のドアがノックもなしに乱暴に開けられた。


「国軍より連絡! 東の圧力強し! 東に邪神復活の可能性あり! なお、敵の欺瞞に注意されたし!」


 王宮で情報を待っていた三つの国選パーティ、『紅蓮の翼』、『鏡月』、『疾風迅雷』。彼らはディートフリートから情報を聞いていない三パーティーだ。彼らが重視したのは、ディートフリートの予言などではなく、国軍の持つテレパスのギフト持ちによる連絡網であった。


「しゃあ! 俺たちは東に行くぜ!」


 連絡兵の言葉を聞くな否や、『紅蓮の翼』のリーダーが立ち上がる。


「まだ可能性の段階だが?」

「俺の勘が東だって言ってるんだよ!」


 それだけ言って、『紅蓮の翼』のメンバーを率いてい走って行ってしまった。


「なんとも、イノシシのような男だな」

「だよねー」


 『鏡月』のリーダーの呆れた言葉に同意する『疾風迅雷』のリーダー。


 だが、『疾風迅雷』のリーダーも立ち上がっている。


「貴殿も出られるのかな?」

「うん。僕たちは北に行くよー」

「北に?」

「うん。東はモンスターいっぱい居るだろうからね。いったん北に出て、それから東を目指すつもりー」


 それだけ言うと、『疾風迅雷』のリーダーは手を振りながら歩き出した。


「やれやれ、皆せっかちだな……」


 残った『鏡月』のリーダーは溜息を吐く。


「しかしリーダー、本当に邪神が東に復活していたら、我らは出遅れたことになるのでは?」


 『鏡月』のリーダーは、パーティメンバーの言葉に笑って答える。


「出遅れけっこう。邪神などというものがそう簡単に倒せるとは思えん。我らは最後においしいところだけ持っていけばいいのだ。それに、欺瞞の可能性があると言っていただろう? 東以外に邪神が出た場合は我らの独り占めよ」

「なるほど……」


 それぞれの思惑を孕みながら、時は流れていく。



 ◇



 オレは六頭立ての大きな装甲馬車を操り、一路北を目指していた。


 本当ならすぐにでもまっすぐ東に走らせて、バウムガルテン領の防衛に参加したいところだが、誰かが可及的速やかに邪神を屠る必要がある。


 だから一度北を目指して、東を襲っているであろうモンスターの大群を迂回する必要があるのだ。


 ちなみにこれは、原作ゲームでも主人公がやっていた行動だ。つまり、北には迂回路があるということの証左に他ならない。


 逸る気持ちを抑えて、馬を潰さないように注意しつつ、適度に休憩を入れながら北進する。


 今は丁度小川があったので休憩中だ。


 馬というのは、どこにそんなに入るのというくらい水を飲む。念のために樽に水を入れて持ってきてはいるが、川や池の水があるのならば積極的に使っていきたい。


 ついでに馬たちに食事もやろうと、馬車から干し草を下ろして地面にばらまく。すると、水のみが終わった馬たちは、今度はもりもりと干し草を食べ始めた。


 なんか眺めてるとかわいいなぁ。目とかすごい優しそうだし。


 まぁ、デカいからちょっと怖いけどね。


 ガチャっという音に振り返ると、馬車からコルネリアたちが降りてきた。


「お疲れさまです、お兄さま」

「ん。おつ」

「おつかれさま、ディー。わたくしも手伝ってもいいかしら?」

「いやいや大丈夫。なんだかかわいく思えてきて、世話を焼くのは苦にならない」

「それはそれでなんだか心がもにょもにょします」

「そうなの?」


 いやあの、コルネリアさん? 馬に嫉妬されても困っちゃうんだけど?


「まぁ、かわいいの方向性が違うし」

「一緒だったら困ってしまいますわ」

「そりゃそうだ」


 エレオノーレに突っ込まれて笑ってしまった。

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