164 討伐と開戦
「やったな……」
オレの目の前には、目も覚めるようなショッキングピンクの大きなカメレオンの死体が転がっていた。
これが邪神四天王の一体『ミラージュ』だ。ゲームでも見たので間違いはないだろう。
『ミラージュ』はたいへん悪趣味な性格をしており、鏡の迷宮で迷う挑戦者の姿を後ろから見て嗤っているのだ。そして、戦闘開始の際には、ボス戦だというのにバックアタックで先制攻撃を受けてから始まる。
ゲームでは嫌な奴だなと思ったし、後ろに居るとわかっていても手は出せなかったが、現実なら可能だ。
これによって、オレたちは『鏡面世界』を攻略することなくボスである『ミラージュ』を倒せる。
本当にできるのか賭けだった部分もあるが、やってよかった。
振り返って鏡の城を見上げると、勢いよく立ち昇っていた青々としたオーラが消えていた。
これで邪神の被魔法ダメージ半減の効果が切れた。
「ディー、討ち取りましたのね」
「ああ。エルの最後のシールドバッシュはナイスだった」
「褒める」
「ああ、リリーもナイスだったな。よく『ミラージュ』を磔にしたな。すごいぞ」
「むふふ」
「お兄さま?」
「わたくしたちは褒めてくださいませんの?」
「リアもクラウもよくやってくれた。よくオレを信じて付いてきてくれた」
「えへへ」
結果全員を褒めることになったが、本当に皆よくやってくれた。オレ一人だったら普通に取り逃がしていただろう。やっぱり夢で見たとか強引な言い訳だったけど、ちゃんと話しておいてよかったな。
仲間を信じるのって大事だね。
「じゃあ、次行こうか。次は邪神だ」
「お兄さま、他の四天王はどうするの?」
「他のパーティに任せる!」
彼らがオレの想定通りに動いてくれるかもわからないし、彼らが無事に他の邪神四天王を倒せるかどうかもわからない。だが、ここは彼らを信じて、オレは最速の道を行くことを選んだ。
オレたちは、ダンジョンを攻略することなく邪神四天王を撃破した。だが、他のダンジョンではそうはいかない。ちゃんとダンジョンを攻略した後に邪神四天王との戦闘が始まる。
おそらく、オレたちが邪神の元にたどり着く頃には、他のパーティは邪神四天王の撃破に成功する頃合いだろう。
オレたちは、邪神四天王からの強化が切れた直後の邪神を叩く。
「次の敵は邪神になるだろう。ここから先は戻ってはこれない戦いになる。覚悟はいい?」
オレが『レギンレイヴ』の皆に覚悟を問うと、予想外に笑みが返ってきた。
「邪神を倒すのはわたくしたち、だもんね!」
「ん」
「もちろんですわ」
「最初から覚悟など決まっています。わたくしたちで人類の未来を切り開きましょう」
コルネリア、リリー、クラウディア、エレオノーレ。それぞれが決意を秘めた瞳でオレを見ていた。
どうやら無粋な質問だったようだ。オレは彼女たちに応えるように頷く。
「じゃあまぁ、行こうか。昼食だけど、馬車の中で食べてしまおう」
馬車は板バネのサスペンションが付いた高級品だ。それに大きいから広い。ゆったりとくつろげるだろう。
まぁ、オレは御者席だけどね。
◇
バウムガルテン領を賭けた戦いは激しさを増していた。
戦闘開始の直前まで掘っていた空堀には、モンスターがひしめき合っている。空堀から抜け出せずに足掻いているのだ。
こうなれば、あとは上から矢を撃つなり、石を投げるなりで倒すことが可能だ。
空堀はカサンドラの想像以上に足止めの効果があった。嬉しい誤算だ。
しかし、嬉しくない誤算もあった。
「キシシシシッ!」
それは虫系のモンスターの多さだ。彼らの多くは羽があり空を飛ぶ。空堀を飛び越え、城壁を飛び越え、街の中に直接降ってくるのはもはや恐怖だ。その対処のために多くの兵が費やされることになった。
それから厄介なのが大きなムカデのモンスター。彼らは一気に空堀や城壁を駆け上り、城壁から顔を出して、上に待機していた兵たちと戦闘している。
最初は上手く押し留められているのだと思った。
しかし、違った。
大きなムカデの体を空堀に居たモンスターたちが登り始めたのだ。
そしてムカデモンスターは己の体を登るモンスターたちを振るい落としたりしない。受け入れている。
大きなムカデモンスターの体は、さながら天然の縄ばしごのようだった。
そして、もっとも驚いたのが、モンスターの総数だ。今まで散々冒険者や兵士たちが森に分け入って間引きしたというのに、とんでもない数のモンスターがバウムガルテン領を飲み込もうと迫っていた。
その多くは、空堀に落ちたモンスターを見て進行を止めているようだ。
空堀の向こうには、森までの空間を埋め尽くすほどモンスターの姿が見えた。
その総数は万を優に超え、十万に届こうかという規模だ。直接対峙していたら負けていただろう。防衛施設を上手く活用してなんとか押し留めないといけない。
それに、気がかりなことがある。モンスターたちが、異なる種族とも協力して、まるで何者かに指揮されているかのように規律正しい。
「これが邪神の力なの……?」
カサンドラの頬を冷汗が伝っていた。
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