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159 国選パーティ

 カサンドラがバウムガルテン領に出発した後も、オレたちは『ゴーレムバレー』や他のダンジョンに行きながらギフトを鍛えた。


 カサンドラ……。彼女は文字通りアルトマイヤー侯爵家の至宝だ。王国でも指折りの軍略家。彼女に任せたのだから、バウムガルテン領は大丈夫だろう。仮にバウムガルテン領がモンスターの攻勢に保たなかったとしても、適切に行動して領民を守ってくれるはずだ。


 そう信じよう。


 今のオレにできるのは、資金を送ってカサンドラを援護することだけだった。


 そして、カサンドラが抜けてしまったため不足してしまった情報収集や他の貴族たちとのつながりを求めて、オレはクラウディアと社交界にも足を運んだ。


 とはいえ、毎回有益な情報を手に入れられるわけじゃないけどな。


 邪神の復活の予言がされてから、暗い空気を吹き飛ばすためにパーティなんかが催されたりするわけだが……。パーティ会場での貴族たちは、皆表情が暗い。


 この世界の住人は、ギフトの力を通して、モンスターの脅威を通して女神や邪神の存在を肌身で感じている。神の存在が、前世よりも身近なのだ。その分、邪神の復活を恐れている。


 オレにとってはただの予定通りのシナリオでも、この世界の住人には天変地異以上に恐ろしいことなのだ。


 兵の指揮官である貴族たちがこんな調子で、本当にモンスターの大群と渡り合えるだろうか……。


 オレは一抹の不安を覚えた。


 まぁ、恐れを感じていない貴族も居る。いや、正確には感じているだろうが、それでも恐れを表に出さない貴族だ。


 アルトマイヤー侯爵家をはじめとした高位貴族の人間に多い気がした。不安を伝播させないように敢えて平気なふりをしているのだろう。オレたちも辺境伯という高い地位を貰ってるんだから、そのあたりは気を付けないとな。


 それからオレは王都中を駆け回って必要な装備をかき集めた。例のミニゲームであるカジノにも赴いて、景品の装備を買い取ったりもした。


 リーンハルト任せの今までとは違う。積極的に邪神を倒す構えだ。


 だが、もしものためにリーンハルトへの助言は欠かさない。邪神を倒せるのは勇者のギフトを持つリーンハルトだけって可能性もあるしな。


 そんなリーンハルト君だが、ついにギフトが勇者に進化した。巷ではリーンハルトが邪神を倒すんじゃないかともっぱらの噂だ。邪神が復活するこの時期に勇者のギフトを授かるのはそれだけのインパクトがある。


 むしろ、そう思いたいのかもな。


 そんな時だった。王様から呼び出しがあった。


 それも、オレだけじゃなくてクラウディア、コルネリア、リリーまで呼ばれた。何の用だろう?


 王宮の謁見の間に着くと、いつもの貴族たちではなく、武装集団が居た。統一性のない各々好きな格好をしている。冒険者だ。なんだか物々しい雰囲気だな。


 『疾風迅雷』、『シュヴァルツヴァルト騎士団』、『誓いの黒剣』、『鏡月』、謁見の間に集まった冒険者たちは、王都でも有名どころだな。オレでも知ってる名前がいくつもある。


 冒険者の中には、リーンハルトの姿も見えた。


「国王陛下のお成りである。かしこまってお迎えするように」


 リーンハルトに話しかけようとしたら、よく通る声が響く。


 急いでひざまずくと、王様が姿を現した。王様はいつものように椅子には座らず、椅子の前で立ったままその口を開く。


「よく呼びかけに応じて集まってくれた。感謝しよう。諸君らももう知っておろうが、邪神の復活が近い」


 皆が知っているのだろう。今更取り乱すような者はここには居なかった。


「諸君らは、王国を代表する武の頂点だ。一騎当千の強者であると朕は確信している。諸君らには、邪神の討伐を頼みたい」

「邪神の……」

「私たちが……」

「ほう……」

「もったいないお言葉……」


 さすがにこれには歴戦の強者たちも少しざわめいた。一国の王が一方的に命じるのではなく、敢えて頼むという言葉を選んでいる。


 それだけ王様は本気だということだ。


「邪神を討伐した者には思うがままの褒美を与えよう。王国の興亡は、諸君らの双肩にかかっている。どうか世界のために力を貸してほしい」

「王様! 報酬が望み通りってのは本当なのか?」


 その時、一人の冒険者の男が立ち上がって王様に問う。威圧的な雰囲気のする赤い鎧姿の男だ。かなりの強者だということが肌身で感じることができた。


「貴様! 陛下に対してなんという口を叩くのだ!」

「よい」


 本来なら王様に直答すら許されない立場の人間だ。宰相が怒るのも当然だが、王様は男の暴挙を許した。


「報酬の話だったな。無論、言った通り思うがままだ。まぁ、朕の権限が及ぶ範囲だがな」

「そうかよ。二言はねえんだな?」

「無論だ」

「それを聞いて安心したぜ! 俺たち『紅蓮の翼』は、その話乗った! お前らはどうする? ま、怖気づくような弱虫は知ったこっちゃないがな!」

「まったく、君はもう少し礼儀というものを重んじたまえ。陛下、同じ冒険者として彼の暴挙をお詫びします。『誓いの黒剣』は命に従い邪神を討伐してみせましょう」

「『鏡月』も乗ろう」

「もちろん『疾風迅雷』もだよ」

「『シュヴァルツヴァルト騎士団』は陛下の命ならばどこまでも」

「俺もだ! 『霹靂へきれき』を忘れてもらっちゃ困るぜ!」


 皆の視線が残ったオレたちに集まる。オレたちの選択を待っているのだ。


 オレたちの選択? そんなの決まってる!


「我ら『レギンレイヴ』は、陛下の御心のままに。我らが邪神を打ち滅ぼしてみせましょう」


 これが後に人類の希望となる国選パーティが、初めて邪神の討伐を宣言した瞬間だった。

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