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155 リーンハルト⑤

「よぉ! 久しぶりだな!」

「ご無沙汰しております……」


 いつもの喫茶店で待っていると、元気なリーンハルトといつも通り恐縮しているビアンカがやって来た。オレは彼らを待っていたのだ。


 リーンハルトはパッと見でもいい装備をしており、ビアンカも豪華な修道服を着ていた。


「あれって……」

「まさか、『霹靂へきれき』の!?」

「教会の聖女様がこんな所にいらっしゃるとは……」


 周りの人たちもリーンハルトとビアンカに注目している。二人は、少し前までは有象無象の中に居たが、今では王都の住人にも噂されるくらいには名声を集めているのだ。


 とくに、オレに続いてギフトを進化させ、教会が猛烈にプッシュしている聖女ビアンカはそのへんの子どもまで知っているくらいだろう。


「『霹靂へきれき』の活躍は聞いているよ。まぁ二人とも座ってくれ」

「おう」

「失礼します……」


 リーンハルトとビアンカの二人が座ると、ますます周りの視線を集めた。


「あれってバウムガルテン辺境伯でしょう? 辺境伯がわざわざ『霹靂へきれき』に何の用かしら……?」

「自分の陣営に取り込む気では?」

「邪神が復活する。どこも腕の立つ人材は欲しいさ」

「『霹靂へきれき』は今までどこの貴族の話にも首を縦に振らなかった……。今回はどうするのかしらね?」


 ドラゴンの血を浴びて耳もよくなったオレには、コソコソした噂話も丸聞こえだ。やれやれ後でどんな尾ひれがついてくるのか……。


「んで? 今日はどうしたんだ? 金の話ならもうちょっと待ってくれ。今はまだカツカツで余裕が無くてよ。装備をケチると死人が出るかもしれねぇ……」

「やっぱりハルト君、辺境伯様にお金借りてたんだ……」

「おう! おかげで助かったぜ!」

「でもハルト君、お金は借りたら返さなきゃいけないんだよ?」

「お、ぉぅ……」

「ハルト君……」

「大丈夫だって! ディーなら待ってくれるさ。な?」

「まぁ、待つけどさ。今日はお金は関係するけど、ちょっと違った話で二人を呼んだんだ」

「違った話?」


 リーンハルトが心当たりがないとばかりに首を傾げる。


「そう。オレから『霹靂へきれき』への依頼と考えてもらっていいかな」

「依頼ね。なるほど」

「その、ご依頼の中身を伺っても……?」

「『霹靂へきれき』には、『太古の洞窟』を攻略してもらいたい」

「『太古の洞窟』かぁ……」


 リーンハルトが渋い顔を浮かべた。


「わかっている。『太古の洞窟』は儲けが出ないと考えてるんだろ?」


 『太古の洞窟』に出るモンスターは、化石になった太古のモンスターだが、その性質は『ゴーレムバレー』のゴーレムによく似ている。『太古の洞窟』に出るモンスターは、体のどこかに赤い宝石が付いており、その紅い宝石を破壊すると一撃で倒せるのだ。ゴーレムと同じく、儲けを無視すればかなりハイペースで経験値が稼げるのだ。


「わかってるなら話が早いな。そんな所に潜る価値があるのか?」

「ある。邪神の復活の予言は知っているだろ?」

「ああ」

「はい……」

「邪神は復活する。それまでに少しでも強くなってもらいたい。儲けは度外視して、ひたすらモンスターを倒してほしい。そして、『太古の洞窟』を攻略してほしい。儲けはオレが補填する。冒険で手に入れたものはリーンハルトたちのものでいい。そして借金の帳消し、それにプラスして金貨一千枚でどうだ?」

「いっせ!?」

「ええ!?」


 リーンハルトとビアンカが目を丸くして驚いている。そうだね。自分で言うのもなんだが、破格の報酬だ。


 しかし、『太古の洞窟』の最深部。ラスボスを倒した先には二本目の魔剣が眠っているので、なんとしてもリーンハルトたちに攻略してほしい。


「すげー報酬だな! もちろん受けるぜ!」

「ちょ、ちょっとハルト君!?」

「ビアンカ、金貨一千枚だぜ? しかも借金も帳消し。こりゃ受けるしかないだろ!」


 鼻息荒く宣言するリーンハルト。お金の力ってすごいなぁ。


「だが、ビアンカの懸念もわかってるつもりだ。ディー、お前はどうしてそこまで俺たちによくしてくれるんだ? 金貨一千枚は、ポンと出せる額じゃ断じてねえ。お前の利益が見えねえんだよ。俺たちに『太古の洞窟』を攻略させて、お前にはどんな得があるんだ?」

「得ねぇ……」


 冒険者として鍛えられたのか、リーンハルトも成長しているようだな。疑り深くなっている。いや、大金に浮かされず、冷静に判断できているようだ。


 オレとしては、リーンハルトの成長と無事に魔剣を手に入れてほしいだけなんだが……。まぁ、適当にそれっぽいこと言っておくか。


「オレの妹たちのギフトが進化した。知ってるか?」

「ああ、噂くらいなら」

「大剣聖と大賢者だ。オレの妹たちは常識外の力を持つギフトを手に入れた。そんな二人だが、二人のギフトは鑑定不能だったんだ。お前と一緒だな。リーンハルト」

「なるほどな……」

「それって……!?」


 リーンハルトとビアンカがなにかに気付いたような顔をした。


「リーンハルト、お前のギフトは強力だが、進化すれば更に強くなれるだろう。オレは思うんだ。もしかしたらリーンハルト、お前は邪神に対する切り札になるんじゃないかと。案外、邪神を倒すのはリーンハルト、お前かもな」

「俺が……?」

「ハルト君が……?」

「まぁ、そんなわけでお前に期待してるんだ、リーンハルト。人類の戦力としてな。オレは邪神にだけは負けたくない。だからお前に投資するんだ。わかってくれたか?」

「……ディーが俺に期待しているのはわかった。俺がどこまでできるのかはわからねえ。だが、やってやるぜ!」

「うんうん。期待しているよ」


 なんとかリーンハルトの疑念を躱したな。リーンハルトもやる気になってくれて助かったよ。


 邪神を倒すには聖剣が必要だというのはわかっている。


 だが、もし邪神を倒すのにリーンハルトの勇者の力も必要だったら?


 リーンハルトにはがんばって邪神を倒してほしいな。

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