151 ゴーレムバレー
大聖堂でギフトの進化を確認したオレたちは、そのまま馬車で王都を出て、一路西へ。大自然が織りなす大峡谷へとやってきた。通称『ゴーレムバレー』と呼ばれるダンジョンだ。今日から何日か、ここで経験値稼ぎをするつもりなのだ。
「すごいな、これは……」
目の前に広がる垂直に切り立った崖の上空には雲がかかっている。見上げていると首が痛くなるほどだ。
それでいて下はというと、深い亀裂がいくつも走り、底が見えない。
『ゴーレムバレー』は、まるで前世のテレビで見たテーブルマウンテンを子どもがでたらめに切り裂いたような形をしている特殊な大地だった。観光地になってもおかしくないほどだが、この場はモンスターが跳梁跋扈するダンジョンだ。この風景を見られるのは、冒険者の特権かもしれない。
まぁ、オレたちは別に冒険者じゃないけどな。
「モンスターってどこに居るのかしら?」
「ん」
「風光明媚な場所ですね。ここがダンジョンというのが信じられないほどです」
「お姉さま、油断は禁物ですよ」
今回『ゴーレムバレー』にやってきたのは、オレ、コルネリア、リリー、クラウディア、エレオノーレの五人だ。
カサンドラには王都で家の外交などを任せている。彼女は戦闘向きのギフトを持っていないからね。カサンドラはその広い人脈でバウムガルテンのために動いてもらったほうがいい。今頃はお茶会でも開いているかもしれないな。
カサンドラの能力はその広い人脈と貴族的な感覚だけではない。彼女はまさに“アルトマイヤーの結晶”とでもいうべき能力を持っている。
だがまぁ、その能力を使うのはまだまだ先になりそうだな。できれば使うような状況はない方がいい。
さて、まずは目の前のことに集中しよう。
「馬車の中でも説明したけど、もう一度確認だ。この『ゴーレムバレー』では、その名の通りゴーレムが出てくる。オレたちはゴーレムを相手するんだが、ゴーレムの弱点は何だったかな、リア?」
「はいっ! 胸のコアです!」
「その通り、ゴーレムの胸に埋まっている丸いコア。それがゴーレムの弱点だ。そこを壊せば、ゴーレムは動きを止める」
ゴーレムは少し特殊なモンスターだ。石の体は耐久力に優れ、普通は経験値集めに狩るモンスターじゃない。戦闘が長期化するからね。
だがゲームでは、クリティカルが出れば一撃でゴーレムを倒すことができた。そのクリティカルというのが、ゴーレムのコアへの攻撃だ。
事実、冒険者たちの話を聞いたりして調べると、ゴーレムはコアを破壊すると動きを止めるらしい。
コアを破壊すればゴーレムは素早く倒すことができるのだ。経験値稼ぎにはもってこいである。
しかし、この世界の冒険者たちはゴーレムを使った経験値稼ぎはしないらしい。というのも、ゴーレムを倒す目的が異なるためだ。
普通、冒険者たちはゴーレムのコアを目的にしてゴーレムを狩るらしい。ゴーレムの石の手足を破壊し、ゴーレムのコアを無傷のまま手に入れることを目的にしているのだ。
ゴーレムのコアは錬金術の素材として高く売れるみたいだ。
冒険者たちにとって、オレたちのように最初からゴーレムのコアを狙って攻撃するのは異質に映るだろう。
ゴーレムから手に入る換金できるアイテムがコアしかないからね。それを壊してしまっては、儲けがゼロになってしまう。
しかし、嫌な言い方だがオレたちは金稼ぎを必要としていない。だからこそできる普通の冒険者たちができない抜け道、荒業と言えるだろう。
ゴーレムは経験値がそこそこおいしいからな。
「ゴーレムのコアを狙って一撃で倒す。たくさん狩りまくるぞ!」
「はいっ!」
「ん」
「わかりました」
「わたくしにできるでしょうか……」
コルネリア、リリー、クラウディアは了承してくれたが、エレオノーレは少し不安そうだ。そうだね。彼女は防御力はあるが攻撃力に乏しい。一撃でゴーレムのコアを破壊することは難しいだろう。
しかし、オレとしてはエレオノーレのギフトを一番育てたいところだ。
そのことは、オレもそのことは悩んでいたが、一つの解決策を出していた。
「エルには今回これを使ってもらおうと思って」
「これは……!」
オレが取り出したのは、炎の宝珠だ。これを装備すると、火の魔法を使うことができる。これを使えば、エレオノーレでもゴーレムのコアを破壊できるはずだ。今回はエレオノーレをパーティの盾ではなく魔法使いとして運用するつもりなのである。
「こんな貴重なものを……。ありがとうございますわ」
「最初は狙いに苦労するかもしれないけど、慣れれば便利だよ。聖力が無くなったら言ってくれ。オレのスキルで分けることができる」
大聖者のスキルには、自分の聖力を他人に分け与えるスキルがある。ゲーム的に言えば、オレはHPだけではなく、MPまで回復することもできるのだ。
そして、オレはパッシブスキルとして聖力の回復にボーナスを得ている。
オレは人よりも聖力が回復するのが早いのだ。そして、その回復した聖力を味方に分け与える。オレたちに聖力切れによる戦力の低下という事態はおそらくこない。
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