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146 結婚②

 クラウディアとの結婚式は、それはもう盛大だった。


 式の最後にはクラウディアとのキスがあったのだが、今回はカサンドラとした時のような失敗はなかった。オレもキスに慣れたのだろう。


「なんだか手馴れてて妬いてしまいますね」

「そんなこと言われても……」


 実際、慣れちゃったし……。でも、ちょっといたずらっ子のような視線でオレを見上げるクラウディアはときめくほどかわいらしかった。


 大聖堂で式を挙げたら、そのまま王宮へと直行。晩餐会だ。お色直しという名の衣装チェンジも五回もあった。


 光魔法使いが必死に会場を明るくし、シャンデリアのキラキラ輝く空間で貴族たちがダンスを踊る。


 ちなみにコルネリアとリリーは未成年ということで晩餐会には出席できなかった。そのことを二人はかなり怒っている。屋敷に帰るのが怖いな。


 オレもクラウディアと何度も踊る羽目になった。


 ダンスはあまり得意ではなかったのだが、カサンドラに教えてもらってよかったなぁ。


「ディー?」

「なんだ?」

「今、わたくし以外の女性のことを思ったでしょう?」

「え……?」


 怖い。エスパーなの!?


「ダンス中はパートナーのことだけを、わたくしだけを見てくださいまし」

「わかった……。すまなかったな」

「よろしい」


 クラウディアはそれだけ言うと、幸せそうなほほえみを浮かべて踊る。


「わたくしだけを見て? せめて、今だけは……」

「ああ」


 それから貴族たちから挨拶を受けるのもたいへんだったな。今回はお姫様であるクラウディアの結婚ということで、ほぼすべての貴族家当主が参加した。直接参加できなかった貴族の当主は代理人を立てていた。


 オレたちは、王国中の貴族から祝福を受けたのだ。


 まぁ、中には今回の結婚を気に入らない奴も居ることだろう。たとえばヒューブナー辺境伯とかな。ヒューブナー辺境伯は王都に居るにもかかわらず、クレーメンスを代理人にしてきた。


 あとはそうだな。男爵や子爵家の中にはそれとなく嫌味を言ってくる奴らも居た。たぶん、パッとしない木っ端貴族だったバウムガルテンに爵位を抜かされたことが悔しいのだろう。


 だが祝いの場で、しかもクラウディアも聞いているのに嫌味を言う奴らの気が知れないな。おかげでオレとクラウディアのお前らの印象は最悪だぞ?


 まぁ、そんなこともわからないから出世できていないのだろうが……。


 とはいえ、そんな奴らは少数で、だいたいの貴族が好意的な態度だった。中には以前治療した貴族も居たしな。


 そんなわけで一日中続いたクラウディアとの結婚式は終わった。


 まぁ、オレたちにとってはある意味でここから本番だ。初夜である。


 オレは特別にクラウディアの離宮に泊まる許可が出された。つまり、そういうことだろう。


「クラウ、大事にするから」

「はい。優しくしてください……」


 オレは己の中の獣欲を制しながら、クラウディアをベッドに押し倒した。



 ◇



 こんばんは。カサンドラ・バウムガルテンでございます。


 わたくしは今、姫様の寝室の前で不測の事態に備えて待機中です。


「あの、カサンドラ様? なにもドアに耳をくっ付けて待機しなくても……」

「なにかあってからでは遅いのです。細心の注意を払わなければ!」

「……お辛いようでしたら、私が代わりましょうか?」

「いいえ、けっこうです。これはわたくしに課せられた使命なのです!」


 かわいそうなものを見る目で見てくる同僚たちを黙らせて、わたくしはドアに耳をくっ付けて中の様子を探ります。


 今日は姫様とディーの初夜。姫様の初めてが散らされる日。


 わたくし以外の人が姫様の初めてを奪う屈辱。


 男に生まれられなかった嫉妬。


 それらがメラメラとわたくしを……苛むことはありませんでした。


 興奮はしていても、自分で思っていたよりも負の感情が少ないことに驚いてしまいます。それよりも二人の恋の成就を祝福する気持ちの方が何倍も大きい。


「クラウ、大事にするから」

「はい。優しくしてください……」

「ッ!?」


 ドア越しに聞こえるディーと姫様の声。姫様の声は消え入りそうなほどか弱いものでした。この声だけで、わたくしはもう……!


 その後に続いたなにかを我慢するような姫様の押し殺すような声。


 姫様……。ついにディーと結ばれたのですね。


 わたくしは失恋にも似た気持ちと、恋が成就した気持ちを一緒に感じました。どこか寂しさを含んだ大きな喜びです。


 これで姫様は、正式にわたくしと同じくバウムガルテンの一員になりました。結婚した後もずっとわたくしと一緒です。


 自分の中の決して満たされることのなかった禁忌の恋愛感情が満足していくのを感じます。それと同時に、姫様へのちょっとした嫉妬を感じました。


 どうやら、わたくしは本当にディーのことを愛してしまっているようです。


 初めはお互いお爺様の暴走に巻き込まれた政略結婚でした。


 普通なら上手くいかなくて当然。嫌われてもおかしくありませんでした。


『カサンドラ嬢、すぐには無理かもしれない。だが、オレは必ず貴女を愛してみせる。だから、カサンドラ嬢もオレを愛する努力をしてほしい。一緒に幸せになろう。誰もが羨むくらいにね』


 ディーの言葉は今でもわたくしの心にしっかりと刻まれています。


 これからは姫様と一緒に誰もが羨むくらい幸せになりましょう!

お読みいただき、ありがとうございます!

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