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145 でぃーくん

「ディー! 来てくださったのですね」

「もちろんだよ、クラウ」


 オレはクラウディアに会うために王宮に来ていた。今日は気分を変えてクラウディアの部屋ではなく王宮の庭にやってきたところだ。


 そよ風が気持ちいい。


 芸術的に線対象に整えられている庭園の中央にあるテラス席に座ると、クラウディアがテーブルの向かいではなくオレの横に座って体をくっ付けてきた。


 服越しにほんのりとクラウディアの体温を感じた。


 クラウディアは肌に触れ合うスキンシップが多い気がする。


 クラウディアを見ると、彼女はオレの胸の中からオレを笑顔で見上げていた。


 かわいいなぁもう!


 普段ならかわいいなぁ! で済むのだが、オレの心は戦々恐々としていた。


 なぜなら、クラウディアの後ろではメイドとしてカサンドラが控えているからだ。


 オレとクラウディアは婚約を交わした身であり、誰に恥じるわけでもないのだが、カサンドラに見られていると、まるで浮気現場を見られているようで心がギュッと縮こまって寒くなる心地がした。


「もう、いつもなら抱き返してくれるのに、今日は抱き返してくれませんの?」


 クラウディアがまるで幼い少女のようにほっぺたを膨らませる。


 その姿はたいへんかわいらしいが、そんなことをカサンドラに聞こえるような声量で言わないでくれ……。


「いやー、あははは……」


 オレとしてはもう笑って誤魔化すしかない。


「ドーラが見ているのが原因なのかしら?」

「いや、まぁ……。うん」

「ドーラからもディーに言ってあげてください」

「え!?」


 なに言わせようとしてるんだよ、このお姫様は!? そんなに修羅場がお好みなのか!?


「ディー、わたくしのことは気にせず姫様とイチャイチャしてください。その方がわたくしも目の保よ……。うれしいですので」

「えー……」


 てっきり浮気野郎と罵倒されるかと思ったのに、逆にカサンドラに応援されてしまった。どうなってるんだよ。カサンドラの思考がわからなくて怖い。


「ほらほら、ドーラもこう言ってますし、ね?」

「いや、ここ外だし! もっとこう慎みを!」

「慎み深い女性の方がお好きですか?」


 クラウディアはオレの胸でのの字を書き始めた。くすぐったくてドキドキする。


 あ、ヤバい。


 そう思った時には、オレはクラウディアを強く抱きしめていた。クラウディアの首元の匂いを嗅ぐと、甘いミルクのような香りがした。


「あんっ」


 クラウディアの声もオレの興奮を煽るためのスパイスにしかならない。ドキドキと鼓動が加速していく。


 どうしよう。完全にスイッチが入っちゃった……。


 クラウディアと婚約している身とはいえ、ここは外で相手はこの国のお姫様だ。メイドさんたちも見ている。絶対に手を出すわけにはいかない。


 がんばれ、オレの理性!


「くっ! 尊い……ッ!」


 そんなこと言ってないで、助けてよカサンドラ。



 ◇



 その後、元気なでぃーくんを鎮めて、なんとかクラウディアとのお茶会を終えた。


「まったく、この体は本当に嫌になるな……」


 もう少しでクラウディアを押し倒してしまうところだった。なんでこの体はすぐに発情してしまうんだ。日常生活にも支障が出るなんて、最悪だ。


 嫌な気持ちを抱えながら王宮を歩いていると、懐かしい顔に出会った。


「げっ……」


 どうやらあっちもオレに気が付いたらしい。しかし、「げっ……」とはごあいさつだな。


「よお、クレーメンス君じゃないか。久しぶり」

「ディートフリート……」

「なんでまた王宮に居るんだ?」

「父上の付き添いだ」

「へぇー」

「お前のせいでヒューブナー辺境伯家の立場はかなりヤバいんだよ……。さすがに取り潰しはないだろうが、降格はありえる……」


 それで王宮で降格を避けるために働きかけているわけか。


「それをオレに言われてもなぁ。身から出た錆だろ? それよりも、また悪さしてないだろうな?」

「してねえよ! 品行方正とは俺のためにある言葉だ。お前は俺を見るといつもそう言うが、俺が悪さなんてするわけがないだろ?」

「品行方正って顔してねえだろ」

「ひどくね? さすがにひどくね?」


 会うたびに釘を刺してきたからか、クレーメンスはゲームのように悪さを企てている感じはしない。でも、どう見ても悪人面なんだよなぁ。


「たとえば邪神の復活とか企ててないだろうな?」

「するか! そんなことすれば、ヒューブナー辺境伯家が取り潰されちゃうだろ!」

「本当か?」

「なんでそんなに疑うんだよ……」


 まぁ、クレーメンスが真面目になってくれたならオレとしても歓迎だ。


「それならいいんだ。じゃあな」

「はぁ……」


 クレーメンスの溜息を後にし、オレは歩き出す。


「そうだった。これから宝飾店に行かないと」


 クレーメンスのことなどすっかり忘れて、オレは本来の目的を思い出した。


 クラウディアとの結婚式が来週に迫っている。結婚式までに指輪を調達しないとな。今回はちゃんとクラウディアの指のサイズも聞いてきたし、失敗はないはずだ。


 結婚式では指輪の交換タイムは無いから、屋敷に帰ってから渡すことになるだろう。


「それにしても、オレがクラウディアと結婚か……。なんだかすごく遠くに来た気分だ」


 ただのモブであるオレがお姫様と結婚する。なんだかシンデレラみたいだな。

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