140 狩り
ドラゴンを討伐した時、オレはドラゴンの血を浴びた。その時、ドラゴンの因子とでもいうべきものを取り込んだのか、オレの白い体は浅黒く変わり、目は爬虫類のようなドラゴンの瞳に変わった。
そして、オレはドラゴンの力を手に入れた。
体は並みの刀剣の斬撃では傷すら付かないほど丈夫になり、力も増した。この目は魔眼となった。
ドラゴンの血を浴びたことで、オレの致命的な弱点が克服された。
攻撃力や耐久力が大幅に上がったからな。オレはもうひ弱な存在じゃない。
そして、このドラゴンの力は強化できるらしい。
その方法は……。
「みーつけた」
臭い臭い王都の地下下水道の中、オレはついに通路を照らす明かりを見つけた。
こんな夜中に下水道で活動する彼らの正体は、邪神を崇める邪教徒たちだ。
この王都の下水道は、邪教徒たちの拠点になっているのだ。
オレが以前、バッハと共に地下下水道の邪教徒を狩ったことがあるが、そんなものは氷山の一角に過ぎない。邪教徒たちは、昼間は地上に潜伏して衛兵の調査を躱し、夜になるとこうして地下下水道に集まるようになったようだ。
邪教徒たちの目的は邪神の復活だ。オレにはどういう原理で邪神を復活させようとしているのかはわからないが、彼ら邪教徒の活動を邪魔したら、もしかしたら邪神が復活しない未来もありえるかもしれない。
まぁ可能性は低いが……。
「いぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
邪教徒のランプを持つ手を斬り落とすと、男の邪教徒はつんざくような悲鳴をあげた。ランプが下水道の通路に落ち、ガラスの割れる音と共に明かりが消える。
だが、オレの目には斬られた腕を握って、うずくまる邪教徒の男の姿がハッキリと見えている。このドラゴンの目は、まるで暗視ゴーグルのように鮮明に色のある景色を映し出す。
「あぎゃ……」
オレは両手に握った闇の双聖剣を振って、男を始末する。
すると、少しだけ体が満たされたような感覚があった。
そう。これこそがドラゴンの力を強化する方法。人間を殺すことだ。
だが、いくら強くなるためとはいえ普通に殺人を繰り返していたら、無礼打ちが許されている貴族とはいえ、いつか破滅してしまう。
オレも罪のない人を手にかけるのは気が引けるしな……。
強くなりたいという渇望があるオレにも最低限の常識や良心はあるつもりだ。
たぶん。
まぁ、そんなわけで、オレは合法的に人を殺せる手段として、邪教徒に目を付けた。こいつらなら殺しても誰にも文句が言われないどころか皆が褒めてくれる。邪神の復活を止めれるかもしれないし、まさにうってつけの目標だ。
「よし、今日もがんばるぞ」
以前は自分一人では戦力的に不安だったためバッハを連れてきたが、今回はオレ一人だ。まぁ、後れを取ることはないだろう。
それに、今回の王都にはそもそもバッハを連れてきていないしな。夫婦で楽しく暮らすがいい。
「お、来た来た」
今は亡き邪教徒の男の悲鳴を聞いたのだろう。邪教徒たちが集まってきた。
まぁ邪教徒の仲間を集めるためにわざと急所を外して攻撃したのだが、こうも思い通りになると嬉しくなるな。
オレは闇の双聖剣を構えると、近づいてくるぼんやりとした明かりへと駆けだした。お前たちにはオレの糧になってもらうぞ。
◇
いやー、邪教徒ってかなりの数が居るんだね。今日だけで三十人は倒したぞ。まぁ、オレとしてはドラゴンの力が成長するからいいんだけどさ。
地下下水道から出ると、空気が澄んでおいしく感じた。下水道の中は本当に臭いからね。ドラゴンの力を成長させるためとはいえ、本当ならこんな所に潜りたくない。
ちょっと服の襟を引っ張って臭いを嗅ぐ。
「うへ、くっせ……」
吐き気を催す臭気だ。もう洗ってもこの臭いは落ちないだろうなぁ。この服は地下下水道に行く時の専用の服にしよう。
これだと髪や体にも臭いが移っているだろう。ちゃんと風呂に入らないと。
邪教徒狩りはいいけど、後処理が面倒なのが厄介だなぁ。
「まぁ、明日も潜るんだけどさ」
邪教徒がなにをやっているのか知らないが、倒しておいた方がいいだろう。
オレが放っておいてもそのうちリーンハルトがクエストを受けて片付けるのかもしれないが、リーンハルトたちは人間を殺しても経験値が得られないからな。無駄なことをするよりもその分モンスターを狩って強くなってほしい。
「そういえば……」
そろそろビアンカのギフトを育てるのがしんどくなってくる頃だろう。モンスターにラストアタックを決めた者しか経験値が貰えないから、治癒のギフトを持つヒーラーであるビアンカには難しいはずだ。
しかし、それには抜け道がある。オレがやったように呪われたアイテムを解呪するのだ。
だが、この方法が漏れれば呪われたアイテムの価値は高騰し、思うようにギフトを育てることができなくなるだろう。
邪神との決戦を前にヒーラーの底上げとして情報を広めるつもりだが、それは今ではない。
このギフトの成長方法を知る者は少数でなくてはならないのだ。
問題はビアンカが秘密を守れるかどうかだが……。
なにか手を考えないといけないな。
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